1型糖尿病における日常生活中のインスリン投与量と自律神経活性バランスが関連 京都大学

インスリン治療は、糖尿病の細小血管合併症を抑制することが知られる一方で、心筋梗塞や脳卒中などの大血管合併症への影響については未だ見解が一致していない。近年、インスリン投与量と心血管リスクの関連が報告されており、その仕組みの一つとして、自律神経のうち交感神経が過剰に働くことが推測されている。低血糖は交感神経を活性化するが、インスリン投与を行った実験では、インスリンそのものも低血糖とは別に交感神経活動を高めることが示されている。
しかし、これらは厳密に管理された実験条件下で得られた知見であり、日常生活の中で治療として投与しているインスリンの量と交感神経活動との関係は十分明らかになっていない。そこで本研究では、1型糖尿病のある人を対象に、ウェアラブル機器を用いて、日常生活におけるインスリン投与量と心臓の自律神経活動との関連を検討した。
研究グループは、1型糖尿病治療を内服薬の併用なしにインスリンのみで行っている成人36名を対象に解析を行った。日常生活下で4日間、ウェアラブル心電計による心電図記録と持続血糖測定(CGM)を実施し、インスリンの投与量と投与時刻を記録した。活動による影響を受けにくい夜間就寝中の記録を中心に、心電図から得られた心拍変動を解析して自律神経活動を評価し、一日に数回投与されるインスリンのタイミングや量との関連を調べた。
解析の結果、1日の最後に投与した追加インスリンの量が多いほど、就寝後最初の2時間の自律神経活性が交感神経優位となる程度が強くなった。一方、基礎インスリンの投与量が多いほど、起床前2時間の交感神経優位の程度が強くなった。これらの関連は、HbA1cやCGMで得られた血糖状態の影響を調整した後においても認められた。
研究グループは、本研究の特徴は、実験環境ではなく日常生活において、1型糖尿病におけるインスリン投与量と交感神経優位の程度の関連を示した点にあるとして、インスリン治療と自律神経活動、さらには心血管リスクとの関わりを考える上で重要な知見であるとの考えを述べている。
ただし研究グループは本研究の限界として、限られた対象者数での観察研究であるため、この結果だけではインスリン投与量の増加が交感神経優位の程度につながるのか、あるいは自律神経活動の変化がインスリン必要量に影響するのかという因果関係や方向性を明らかにすることはできないことを挙げている。またインスリン投与量を減らすことで交感神経優位の程度を抑制できるかどうか、さらには観察された交感神経優位が何らかの症状や合併症の重症度に関連するかも不明であり、今後はより多くの⽅を対象とした研究や介⼊を⾏う研究による検証が必要であるとしている。
本研究は、近藤亜樹 医学研究科博士課程学生(研究当時)、池田香織 同講師、稲垣暢也 名誉教授、矢部大介 同教授ら、京都大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌・栄養内科学教室を中心に、高槻赤十字病院、御所南はらしまクリニック、京都田辺中央病院、京都桂病院との多施設共同研究として実施されたもので、研究成果が2026年9月14日付で「Diabetes」オンライン版に掲載された。






