後発医薬品の供給不安に対策 後発医薬品の数量目標の廃止と品質・安定供給策への転換を GE・BS学会が提言
後発医薬品の供給不安を解決するための提言を発表
日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会は、後発医薬品(ジェネリック医薬品)の供給不安が続いている状況をふまえ、後発医薬品の使用促進に向けた新たな数量シェア廃止や、都道府県別フォーミュラリーの導入、バイオシミラーのさらなる普及などを求める提言をまとめた。
提言を出すきっかけのひとつになったのは、2020年末から始まった小林化工や日医工からはじまり、14社にまで拡大した後発医薬品の品質不祥事だ。これにより、2022年夏には後発医薬品の出荷停止などが4,000品目にも達し、現在も後発医薬品の供給不安は解消されていない。
こうしたなか、同学会では2022年3月にGMP違反再発防止プロジェクト「安全、安心な後発医薬品の継続的な供給を実現するための提言」を公表した。
提言では、▼後発医薬品企業の体制・理念の整備と再構築、▼GMP体制の再構築、▼環境整備について3つの提言にまとめた。
今回の「後発医薬品の品質・安定供給の新たなステージを目指して」と題した提言では、引き続き、下記の5つについてまとめている。
提言1 | 後発医薬品の使用促進の数量目標の廃止と品質・安定供給策への転換 |
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提言2 | 薬価差のさらなる解消 |
提言3 | 流通改善ガイドラインの順守 |
提言4 | バイオシミラーのさらなる普及 |
提言5 | 都道府県別フォーミュラリーの導入 |
「後発医薬品シェア80%以上」は維持するが新たな目標は設定しない
とくに2015年の「経済財政改革の基本方針2015」で、「後発医薬品の数量シェアを2018年度から20年度末までのなるべく早い時期に80%以上とする」と定められたのを受け、後発医薬品市場は急拡大した。一方で、薬価が急落したために、増産拡大をはかる後発医薬品企業の一部で「品質管理・製造管理」に対する管理と投資などが疎かにされた。
後発医薬品企業の品質不祥事は、一義的には企業のGMP違反が原因ではあるが、その背景に、こうした数量目標による普及策と後発医薬品の薬価下落が影響したことは否めない。
一連の後発医薬品企業の不祥事により明らかになったのは、後発医薬品の数量シェア目標の設定と、医療機関・薬局への診療報酬上のインセンティブによる普及策はすでに限界であること。
そのため、現在の後発医薬品目標である「2023年度末までに全ての都道府県で数量シェア80%以上」の数量目標は今後とも継続するとしても、2024年度以降は、新たな数量シェア目標を設定することは行わないことを提言している。
これまでの数量シェア目標設定から、新たな後発医薬品の「品質管理・製造管理の確保」と「安定供給」の具体的な政策立案とそのフォローという新ステージに移行することが必要となる。
また、普及策としての診療報酬、調剤報酬上のインセンティブは役目を終えたので、2024年改定以降は廃止する。たとえば、後発医薬品調剤体制加算を廃止し、逆に80%に使用割合が達しなかった場合の減算措置を別途導入する。業界団体が現在作成中の「後発医薬品信頼回復行動計画」の確実な実施を望んでいる。
後発医薬品の「品質管理・製造管理」と「安定供給」への誘導策を推進
後発医薬品企業の「品質管理・製造管理」と「安定供給」への誘導策を推進するため、2024年診療報酬改定で、「品質管理・製造管理」「安定供給」に取り組んでいる企業などを評価する「加算制度」を創設することも提案。
全国一斉試験(年間900品目)により流通後発医薬品の品質再検査では、なお一定頻度(0.3%)の不適合品の検出が続いている。また2008年~2019に不適合品を出した27企業の一覧をみると、今回の企業の品質不祥事が明らかになった13企業のうち6企業が含まれている。
一斉試験の品目数をさらに拡大して、不適合品については企業の立ち入り検査などを積極的に行い品質不正の事前検出に努めることも提案している。
今後は、過当競争を軽減する観点からも、先発品1品目に対して保険収載できる後発医薬品の品目を、各社の製造能力・製造計画に応じて限定することや、共同開発を起点とした製造委受託を活用する製造販売業についても、有事でも柔軟に増産対応ができる「安定供給体制」を構築できている企業を評価するような制度を導入することも提案。
薬価差の解消を推し進めるために、後発医薬品を安定して供給し続けられるような「薬価」を形成していく「薬価制度」と「流通の見直し」も必要だ。
先進各国の取り組みに学び、将来的には、入院における疾病別包括支払いに加え、外来とくに医療資源重点活用外来における外来包括制の導入することや、薬局にクロ―バック制度を導入することも提案している。
流通改善ガイドラインのさらなる徹底も強く求めている。とくに、総価取引により後発医薬品のさらなる値引きが課題となっている。このような医薬品の価値を無視した総価取引から「安定確保医薬品」を除外することも提案。
バイオシミラーのさらなる普及をはかる
高額なバイオ医薬品や再生医療品と、後発医薬品を同じカテゴリーで流通すること自体も見直す必要がある。医薬品カテゴリーごとの流通コストを算出すべきとしている。
バイオ医薬品の普及にともない、医薬品費が高騰している。2020年のバイオシミラーによる医薬品費節減効果額は400億円以上となっている。そのためバイオ医薬品の後続品であるバイオシミラーへの期待が高まっている。
しかし、バイオシミラーは普及率の高い成分と、高額療養制度や公費負担により、その普及が遅れている成分が混在している。また国内のバイオシミラー生産は2社でしか行っておらず、そのほとんどを海外からの輸入に頼っているのが現状だ。国内のバイオシミラーの生産拡大とその普及が課題となっている。
そこで、バイオシミラーのさらなる普及をはかるため、これまでその普及目標はその品目数を用いていたのを、バイオシミラーを導入することによる医療費節減効果額の金額ベースの新たな目標値を置くことを提言。
バイオシミラーにはすでに普及率の高いものもあるが、同時にインフリキシマブのような普及率の低いものもある。その原因は、主に高額療養費や公費負担などの制度的な要因だ。こうした高額療養費や公費負担制度の対象となるバイオシミラーについては、患者がバイオシミラーを選択した場合には、その自己負担を減免することで、バイオシミラーの選択を促すことなどを提案している。
都道府県別フォーミュラリーの導入を提案
フォーミュラリーは、「医療機関で患者に対するもっとも有効で経済的な医薬品の使用方針」といった意味があり、「患者に対して有効性、安全性、使用性、経済性などの観点から選択されるべき医薬品リストおよび指針」などと説明されている。
フォーミュラリーには後発医薬品やバイオシミラーが第一推奨品となることが多く、日本でも大病院を中心にすでにフォーミュラリーの導入が始まっており、地域全体にフォーミュラリー・マネジメントを行う「地域フォーミュラリー」も一部では始まっている。
こうした地域フォーミュラリーの実施により、品質と安定供給により後発医薬品が選択される結果、後発医薬品の銘柄数の絞り込みが結果として起こりうると考えられる。
そこで同学会では、地域フォーミュラリーを都道府県別フォーミュラリーに拡張して定着させることを提案。こうした地域単位、とくに都道府県単位でのフォーミュラリーの活用が今後のジェネリック医薬品の品質確保と安定供給には欠かせないとしている。