「キッチンでの料理体験」を通じて糖尿病・肥満を治療するプログラムを開発 体重や内臓脂肪の減少などを確認 大阪大学など
糖尿病を予防・改善するために食事改善は必須
大阪大学大学院医学系研究科、キャンサースキャン、久原本家グループ本社の3者は、共同研究契約を結び、日本版「Teaching Kitchen」プログラムの開発に取り組み、このほど肥満者を対象としたパイロット試験をはじめて実施した。
日本の食文化・生活習慣に合わせた日本版「Teaching Kitchen」プログラムの実施可能性、および体重・血圧・内臓脂肪の有意な減少や、生活習慣の改善効果を確認したとしている。
日本でも糖尿病の患者数は増加しており、「糖尿病が強く疑われるもの」と「糖尿病の可能性を否定できないもの」を合わせると、約2,000万人が糖尿病またはその予備群とされており、糖尿病の年間医療費は1兆2,239億円に及んでいる。
糖尿病は、適切な管理を行わないでいると、心筋梗塞・脳梗塞・腎不全・がんなどの深刻な疾患を引き起こす。糖尿病を予防・改善するために、薬物治療だけでなく、食事や運動などの生活習慣の改善が必須となる。
日本では、体重と身長から計算されるBMI(体格指数)が25以上だと肥満と判定される。日本の糖尿病患者の多くは、肥満とも関連がある2型糖尿病であり、2型糖尿病のある人の平均BMIはほぼ25という報告がある。
料理教室などの「キッチンでの実体験」を通じて技術を習得
「Teaching Kitchen」は、ハーバード公衆衛生大学院で料理栄養講座のディレクターを務めるデビッド アイゼンバーグ医師が主宰する研究グループが開発した糖尿病・肥満治療プログラム。栄養疫学のエビデンスにもとづき、さらには、「キッチンでの実体験」を通じて、生活習慣の改善に必要な技術を習得するという独自性をもつ。
肥満や2型糖尿病の治療では、食生活をはじめとする生活習慣の改善が必要不可欠だが、現在行われている生活指導は、患者にカロリー制限や間食制限など我慢することを強いることが多く、治療効果が出ない患者や長続きしない患者が少なくない。
「Teaching Kitchen」は、食事指導・運動指導・マインドフルネスに加え、料理講師による料理教室も行うのが特徴で、日本で伝統的に使われてきた出汁を活用し塩分量を減らすなど、有効かつ無理なく行える、新たな生活習慣改善アプローチになっているという。
研究は、大阪大学大学院医学系研究科の下村伊一郎教授・馬殿恵准教授(内分泌・代謝内科学・ライフスタイル医学寄附講座)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Public Health」に掲載された。
体重・BMI・血圧・体脂肪量などが有意に減少
プログラムは、実際に調理が可能なキッチンで行われ、1回2時間・全4回の対面レッスンで構成されている。
研究グループは、各回に「カロリーダウン」「減塩」「低グリセミックインデックス」などのテーマを設定し、そのテーマにそったエビデンスがわかりやすく学べる食事・運動・マインドフルネスについての講義を提供。
さらには、料理講師といっしょに各回のテーマを無理なく美味しく実践できるレシピの調理体験・試食を提供。レシピは研究のために独自に作成したもので、日本で伝統的に使われてきた出汁を活用し、食の満足度を維持しながらも塩分量を減らすなど、日本の食文化・食習慣に合わせて開発した。
さらに、プログラム専用のアプリなどを併用し、対面プログラムでの体験を日常生活で実践・習慣化するためのサポートも行った。
その結果、参加者24人中20人がプログラムを完了し(完遂率 83.3%)、プログラム開始前後の身体測定を実施できた17人の参加者では、体重(マイナス1.4kg)、BMI(マイナス0.5)、収縮期血圧(マイナス7mmHg)、拡張期血圧(マイナス4mmHg)、体脂肪量(マイナス1.5kg)がそれぞれ有意に減少し、筋肉量の維持も認められた。
さらに食生活でも、脂肪や塩分の摂取量の減少と、肥満につながる食行動の改善がみられた。介入後1ヵ月後も改善が維持され、体の痛み・一般的な健康状態・活力・精神的スコアなどのQOL(生活の質)でも大幅な改善がみられた。
2型糖尿病患者を対象とした臨床試験を計画
「研究成果は、日本版Teaching Kitchenプログラムの実施可能性および肥満治療としての有効性を示すものであり、2型糖尿病をはじめとする生活習慣病の予防・治療への応用により、重症化予防や患者の生活の質向上などの効果が期待されます」と、研究グループでは述べている。
研究グループは、2024年度内に2型糖尿病患者を対象に、日本版「Teaching Kitchen」の有効性を評価する臨床試験を計画しているという。
また、食事・運動・睡眠などの日々の生活習慣の改善は、すでに発症した生活習慣病の治療だけにとどまらず、疾病予防による健康長寿の達成やウェルビーイング向上にもつながるとしている。
「企業の職場での実施など、今後健常者に対する社会実装を見据えた研究についても進めていく予定です」と、研究者は述べている。
健康長寿の達成やウェルビーイング向上につなげる
大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科
「キッチンで学ぶ生活習慣改善法」を糖尿病・肥満治療へ活用 (大阪大学大学院医学系研究科 2022年6月13日)
Feasibility Pilot Study of a Japanese Teaching Kitchen Program (Frontiers in Public Health 2023年12月7日)