糖尿病治療薬のSGLT2阻害薬が尿路結石を抑制する可能性 日本人の大規模疫学データで検証
SGLT2阻害薬が尿路結石を抑制する可能性を検証
糖尿病治療薬として使用されているSGLT2阻害薬が、尿路結石症の減少と関連していることを、東北医科薬科大学などが明らかにした。
糖尿病は、尿路結石症の増加と関連している。各種の糖尿病治療薬と尿路結石症の関係を検討したところ、SGLT2阻害薬のみ尿路結石症の減少と関連しており、他の治療薬は関連しないことを、東北医科薬科大学などが明らかにした。
SGLT2阻害薬は、心臓保護作用や腎臓保護作用も注目されている。研究グループはこれまで、SGLT2阻害薬の利尿作用や抗炎症作用が、結石形成に抑制的に働く可能性に着目。動物・細胞を用いた基礎研究により、SGLT2阻害薬が抗炎症作用により腎臓結石の形成を抑制することを報告してきた。
今回の研究では、日本人のリアルワールドデータを用いて、SGLT2阻害薬による尿路結石症の抑制の可能性を示した。
日本の約1,192万人のデータベースを検証した結果、各種の糖尿病治療薬のなかでSGLT2阻害薬のみ、オッズ比は男性0.95(95%信頼区間 0.91~0.98)、女性0.91(95%信頼区間 0.86~0.97)となり、尿路結石症の減少と有意に関連していることを明らかにした。
さらに、糖尿病ではない患者でも、SGLT2阻害薬の有無で尿路結石有病の減少と関連があることも示した。
「日本人の大規模疫学研究により、糖尿病患者でSGLT2阻害薬が尿路結石症の減少と有意に関連していることを明らかにしました。カルシウム含有尿路結石に対する予防薬・治療薬はこれまで存在しませんので、尿路結石予防ならびに治療薬への応用が期待されます」と、研究グループでは述べている。
研究は、東北医科薬科大学医学部臨床准教授の阿南剛(四谷メディカルキューブ泌尿器科科長)、病院薬剤部の菊池大輔副薬剤師長、医学部統合腎不全医療寄附講座/東北大学大学院医学研究科の廣瀬卓男助教らの研究グループによるもの。研究成果は 国際専門誌「Kidney International Reports」にオンライン掲載された。
SGLT2阻害薬のみ尿路結石症の減少と関連していることを明らかに SGLT2 阻害による腎臓結石形成の抑制メカニズム
糖尿病患者は尿路結石リスクが高い
研究グループによると、尿路結石症は男性15%、女性7%(男性7人に1人、女性15人に1人)が生涯で罹患する内分泌代謝疾患のひとつで、猛烈な痛みをともなう。
また、再発率が高く、5年で約50%の人が再発する。尿路結石の約90%は、結晶成分としてシュウ酸カルシウムを含むが、このカルシウムを含有する結石の形成を抑制したり、溶解したりする薬はなく、根本的な治療薬はない。
そのため、尿路結石症の成因の究明、再発予防法、治療薬の確立は喫緊の課題となっている。
一方、SGLT2阻害薬は、近年では心臓保護作用や腎臓保護作用も着目されている。さらに、SGLT2阻害薬は、利尿作用や抗炎症作用といった結石形成に抑制的に働く効果があり、研究グループはこれまでも、SGLT2阻害薬が抗炎症作用により腎臓結石形成を抑制することを動物・細胞実験により報告している。
今回、日本人の大規模疫学データを使用し、糖尿病の有無と尿路結石症との関連、糖尿病患者での各種糖尿病治療薬と尿路結石症との関連、非糖尿病患者に対するSGLT2阻害薬処方と尿路結石症との関連を検討した。
今回の研究では、診断名や薬剤名などが登録されている診断群分類システム(DPC)を使用。日本の約1,192万人のデータベースを用いて、リアルワールドデータで糖尿病の有無で尿路結石有病率に差があるかを検証した。
その結果、糖尿病と尿路結石症の関連については、男性ではオッズ比1.12(95%信頼区間 1.10~1.13)、女性ではオッズ比1.70(95%信頼区間 1.67~1.73)と、有意に尿路結石症の増加と関連していることを明らかにした。
次に、糖尿病患者での各種の糖尿病治療薬(SGLT2阻害薬、α-グルコシダーゼ阻害薬、ビグアナイド薬、DDP4阻害薬、グリニド薬、SU薬、チアゾリジン薬)の使用の有無と、尿路結石の有病率に差があるかを検討した。
SGLT2阻害薬が尿路結石症の減少と有意に関連
男性の非糖尿病患者でも尿路結石症の減少と関連
その結果、SGLT2阻害薬のみ、オッズ比は男性0.95(95%信頼区間 0.91~0.98)、女性0.91(95%信頼区間 0.86~0.97)となり、尿路結石症の減少と有意に関連していた。SGLT2阻害薬以外の糖尿病治療薬は尿路結石症の減少と関連はなかったとしている。
さらに、非糖尿病患者でのSGLT2阻害薬の有無で、尿路結石有病率に差があるかを検討した。非糖尿病の男性患者ではSGLT2阻害薬はオッズ比0.42(95%信頼区間 0.35~0.51)と有意に尿路結石症の減少との関連が認められたが、女性患者ではオッズ比0.90 (95%信頼区間 0.68~1.19)となり関連は認められなかった。
「これまでの動物・細胞実験の結果でも、SGLT2阻害薬が抗炎症作用により腎臓結石形成を抑制したことを示しており、今回の研究でも一致する結果になりました。カルシウム含有尿路結石に対する予防薬・治療薬はこれまで存在しませんので、尿路結石予防ならびに治療薬への応用が期待できると考えられます」と、研究グループでは述べている。
東北医科薬科大学医学部
四谷メディカルキューブ
Impact of Sodium-Glucose Cotransporter-2 Inhibitors on Urolithiasis (Kidney International Reports 2023年2月2日)
Inhibition of sodium-glucose cotransporter 2 suppresses renal stone formation (Pharmacological Research 2022年12月)