日本の2型糖尿病患者に最初に投与される糖尿病薬の実態調査 第1選択薬はDPP-4阻害薬で65% SGLT2阻害薬も上昇中

2021.08.27
 2型糖尿病患者に対して最初に投与される糖尿病の治療薬についての全国規模の実態調査が実施され、DPP-4阻害薬が選択された患者がもっとも多く(65.1%)、ビグアナイド薬(15.9%)、SGLT2阻害薬(7.6%)が続くことが明らかになった。

 また、薬剤開始後1年間の総医療費は、ビグアナイド薬で治療を開始した患者でもっとも安いことも分かった。DPP-4阻害薬およびビグアナイド薬の選択には、地域差や施設差があることも示された。

 研究は、国立国際医療研究センター(NCGM)が、横浜市立大学、東京大学、虎の門病院の協力のもと行ったもの。「適正な糖尿病治療実現に向けての重要な基礎データとなると考えられます」と研究者は述べている。

大規模データベースNDBを用いた日本初の解析

 日本での2型糖尿病の薬物療法は、日本人と欧米人の2型糖尿病の病態の違いなどが考慮させ、特定の薬剤を第1選択薬にとらえず、すべての薬剤のなかから病態などに応じて治療薬を選択することが推奨されている。そのため、ビグアナイド(BG)薬を第1選択薬と位置付けている欧米とは処方実態に違いがある。一方で、日本全体の治療実態についての詳細は不明だった。

 そこで研究グループは、全国の診療実態を調べられる「匿名レセプト情報・匿名特定健診等情報データベース(NDB)」を用いて、日本の2型糖尿病患者に対して、最初に投与された糖尿病の治療薬の処方実態を明らかにするために全国規模の研究を行った。

 NDBは、日本全国の医療機関から保険者に発行しているレセプトと、40歳以上を対象に行われている特定健診・特定保健指導の結果から構成されたデータベース。今回の研究は、厚生労働科学研究として実施された。

 NDBの特別抽出データ(2014~2017年度)から抽出した成人2型糖尿病患者のうち、インスリンを除いた糖尿病治療薬を単剤で開始された患者を対象に、研究期間全体および各年度別の各薬剤の処方数、処方割合、新規処方に関連する因子、さらに初回処方から1年間の総医療費を算出し、それに関連する因子についても検討した。対象患者数は113万6,723名で、うち総医療費の解析対象となったのは64万5,493名。

 研究は、国立国際医療研究センター(NCGM)糖尿病情報センターの坊内良太郎氏、横浜市立大学大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻の後藤温氏、東京大学大学院医学系研究科(東京大学医学部附属病院)代謝・栄養病態学の山内敏正氏、虎の門病院院長の門脇孝氏らによるもの。研究成果は、国際科学誌「Journal of Diabetes Investigation」にオンライン掲載された。

DPP-4阻害薬65% BG薬16% SGLT2阻害薬7.6%
高齢患者では副作用を避けDPP-4阻害薬・SU薬の割合が高い

 その結果、最初に投与された糖尿病の治療薬に占める割合は全体では次の通りになった。
  ビグアナイド(BG)薬 15.9%
  DPP-4阻害薬 65.1%
  SGLT2阻害薬 7.6%
  スルホニル尿素(SU)薬 4.1%
  α-グルコシダーゼ阻害薬 4.9%
  チアゾリジン薬 1.6%
  グリニド薬 0.7%
  GLP-1受動体作動薬 0.2%

 2014年度(下半期のみ)から2017年度まで、年度ごとの割合は、BG薬が経年的に増加、SGLT2阻害薬が著しく増加したのに対し、DPP-4阻害薬およびSU薬は減少傾向を示した。都道府県別では、BG薬の最大は沖縄県の33.3%、最小は香川県の8.7%、DPP-4阻害薬の最大は福井県の71.9%、最小は沖縄県の47.2%と大きな違いが認められた。

最初に投与された2型糖尿病の治療薬【年次推移】

出典:国立国際医療研究センター、2021年

 各薬剤の選択にもっとも強く影響した因子は年齢で、高齢なほどDPP-4阻害薬およびSU薬の処方割合が高く、BG薬およびSGLT2阻害薬は低いことが示された。若年ではBG薬およびSGLT2阻害薬の処方が多い傾向も示された。

最初に投与された2型糖尿病の治療薬【年代別の比較】

出典:国立国際医療研究センター、2021年

 さらに、施設による処方の違いを検討したところ、大きく異なった薬剤はBG薬とDPP-4阻害薬であることが判明した。日本糖尿病学会(JDS)認定教育施設では、最初に投与された糖尿病の治療薬のうち15~20%がBG薬であった施設がもっとも多かったが、非認定教育施設では0~5%がBG薬だった施設が多数を占めた。とくに非認定教育施設の38.2%でBG薬の処方はなかった。

 一方、DPP-4阻害薬については、JDS認定教育施設では60~65%をピークとした分布であるのに対し、非認定教育施設では95~100%をピークとして、0%から100%にわたる緩やかな分布を示した

施設別にみたBG薬・DPP-4阻害薬・SGLT2阻害薬・SU薬の初回処方に占める割合

出典:国立国際医療研究センター、2021年

 これは、非認定教育施設では、最初に投与する糖尿病の治療薬として、ほぼすべての患者に対してDPP-4阻害薬が選択されるケースがもっとも多いものの、DPP-4阻害薬を選択しない施設も一定数あることを示している。一方、SGLT2阻害薬およびSU薬については、JDS認定施設も非認定施設も同様の処方実態を示した。

 BG薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、SU薬の処方に関連する因子を同定することを目的とした多変量解析で、処方年度、性別、年齢×保険種区分、虚血性心疾患および慢性腎不全の合併、施設タイプ、病床数はいずれも有意な関連が認められた。

医療費はBG薬で治療を開始するともっとも安い
もっとも高いのはGLP-1受容体作動薬

 総医療費については、BG薬で治療を開始した患者がもっとも安く、SU薬、チアゾリジン薬が続き、GLP-1受容体作動薬がもっとも高いことが明らかになった。多変量解析で、BG薬はチアゾリジン薬を除くその他の薬剤より総医療費が有意に低いことが示された。

 研究グループによると、日本の2型糖尿病患者に対して最初に投与される薬剤としてDPP-4阻害薬がもっとも多い要因として、「日本人の2型糖尿病の病態としてインスリン分泌低下の関与が大きく、患者の高齢化が進行するなか、DPP-4阻害薬が最初に選択され、高齢な患者ほどBG薬やSGLT2阻害薬が避けられていること」が考えられる。

 また、BG薬で治療を開始した患者の総医療費がもっとも安いことについては、「BG薬が安価であることに加え、比較的若く臓器障害などがない患者さんに選択されていたことも関与している」と指摘。

 今回の研究の結果は総じて、日本糖尿病学会のガイドラインや各薬剤に対するリコメンデーションなどが広く認識されており、多くの患者に対して安全性と有効性に配慮したかたちで適切に薬剤が選択されている可能性を示しているとしている。

 さらに、薬剤選択に一定の地域間差や施設間差があることについては、「患者の肥満などの背景因子や糖尿病の病期の進展などの影響にもとづくものなのかについて、さらなる調査が必要」としている。今回研究は、糖尿病の診断がレセプト情報にもとづいていること、血糖コントロールの指標であるHbA1cなどの検査や肥満に関する情報がないこと、安全性(低血糖など)の評価がなされていないことなどの限界があるとしている。

国立国際医療研究センター(NCGM)糖尿病情報センター
A retrospective nationwide study on the trends in first-line antidiabetic medication for patients with type 2 diabetes in Japan(Journal of Diabetes Investigation 2021年8月23日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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