糖尿病合併症とメンタルヘルス不調は双方向で強く関連 合併症のある患者は不安症やうつ病のリスクが最大で3倍に上昇

2024.09.04
 心臓疾患、脳卒中、神経障害などの慢性の糖尿病合併症がある患者は、メンタルヘルス不調を発症する可能性が高く、その逆も同様で、双方向の関連があることが、ミシガン大学医学部の研究で示された。

 糖尿病合併症のある患者は、不安症やうつ病などを発症するリスクが最大で3倍高く、またメンタルヘルス不調のある患者は、糖尿病合併症を経験する可能性が最大で2.5倍高かった。

 研究は、米国の医療保険請求データベースを使用し、1型糖尿病患者と2型糖尿病患者を含む計55万3,552人を対象に解析したもの。

 「糖尿病患者に対し推奨されている標準治療として慢性合併症の検査に加え、メンタルヘルス不調についても積極的にスクリーニングする必要がある」と、研究者は指摘している。

糖尿病合併症とメンタルヘルス不調に双方向の関連が

 心臓疾患、脳卒中、神経障害などの慢性の糖尿病合併症がある患者は、メンタルヘルス不調を発症する可能性が高く、その逆も同様で、双方向の関連があることが、ミシガン大学医学部の研究で示された。

 研究は、同大学疫学・生物統計学のMaya Watanabe氏、Eva Feldman氏、Brian Callaghan氏らによるもの。研究成果は、「Diabetes Care」に掲載された。

 研究グループは今回、米国の2001~2018年の全国の医療保険請求データベースを使用し、計55万3,552人(1型糖尿病患者 4万4,735人、2型糖尿病患者 15万2,187人、非糖尿病患者 35万6,630人)を対象に、年齢別(0~19歳、20~39歳、40~59歳、60歳以上)に層別化し解析した。

 その結果、慢性の糖尿病合併症のある患者は、不安症やうつ病などのメンタルヘルス不調を発症するリスクが最大で3倍高いことが明らかになった[ハザード比(HR) 1.9~2.9、P<0.05]。この関連は、成人患者が高齢になるにつれ強まった。

 さらに、メンタルヘルス不調のある患者は、糖尿病合併症を経験するリスクが最大で2.5倍高いことも示された[HR 1.4~2.5、P<0.05]。この関連は、0~19歳の若年層で強まった。

 1型糖尿病患者では、60歳未満の成人で慢性合併症を発症する可能性がより高く、2型糖尿病では、メンタルヘルス不調を経験する可能性が高いことも示された。

合併症とメンタルヘルス不調に共通するリスク要因に介入する必要が

 「この双方向の関連で考えられることは、糖尿病合併症やメンタルヘルス不調が、他の合併症の発症に直接影響を及ぼす可能性があることだ。たとえば、脳卒中は脳に有害な影響を及ぼし、それが直接的にうつ病の発症を引き起こしている可能性がある」と、Callaghan氏は指摘している。

 「また、メンタルヘルス不調と糖尿病を併発した患者は、血糖管理や服薬アドヒアランスの不良など、自己管理能力に影響があらわれ、その結果として糖尿病合併症リスクが高まっている可能性がある」としている。

 さらに、糖尿病合併症とメンタルヘルス不調には、直接的ではないが共通のリスク要因がある可能性もある。血糖管理や肥満の問題、社会的決定的な要因などが、双方の合併症の発症を引き起こしている可能性があるとしている。

 「直接的および間接的な影響と共通のリスク要因の組み合わせが、糖尿病合併症とメンタルヘルス不調の関連を生み出していると考えられる」と、Watanabe氏は指摘している。

 「糖尿病医療の提供者は、これらの共通したリスク要因に介入することで、複数の合併症のリスクに同時に対策できるように可能性がある」としている。

必要に応じてメンタルヘルスケアを提供できるシステムの整備が必要

 米国の複数の国立の糖尿病センターでは、患者に対するうつ病や苦痛(distress)のスクリーニングを実施しているが、糖尿病治療でのメンタルヘルスの普遍的なスクリーニングプロセスはまだ開発されていない。

 CDC(米国疾病予防管理センター)の調査では、糖尿病患者の最大50%が18ヵ月間を通じて、自分の病状に関連した苦痛を感じていることが示された。

 研究者グループは、糖尿病を管理する臨床医の多くは、メンタルヘルス不調を適切に特定し治療するための特別な訓練を受けておらず、その検査と管理には追加のリソースが必要になると指摘している。

 このことは、メンタルヘルス不調のスクリーニングで陽性となった患者が、適切な診断と根拠にもとづく治療、あるいは必要な治療を提供できる施設への紹介を受けるべきだとする米国予防サービスタスクフォースの声明と一致するとしている。

 「プライマリケア提供者と内分泌専門医は、すでに多忙を極めている。そのため、必要に応じてメンタルヘルスケアを提供できるようなシステムを整備する必要がある」と、同大学ALSセンター オブ エクセレンスの所長も務めるFeldman氏は述べている。

 「そうしたシステムには、メンタルヘルスのスクリーニング、メンタルヘルスケアを容易に利用できるようにする保険適用、医師と患者の双方のための教育プログラムなどが含まれるべきだ」としている。

Mental health and chronic diabetes complications strongly linked both ways, study finds (ミシガン大学医学部 2024年8月22日)
Bidirectional Associations Between Mental Health Disorders and Chronic Diabetic Complications in Individuals With Type 1 or Type 2 Diabetes (Diabetes Care 2024年7月15日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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