肥満症治療薬「ウゴービ」が心血管疾患による死亡リスクを20%減少 体重は9.4%減少 米国心臓学会で発表

2023.11.30
 糖尿病はないが心血管疾患の既往がある過体重・肥満の患者に対し、肥満症治療薬であるGLP-1受容体作動薬「ウゴービ」(一般名:セマグルチド)を投与すると、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患による死亡リスクなどが20%減少するという、1万7,604人が対象となった新たな臨床試験の結果を、米クリーブランド クリニックが発表した。

 セマグルチドによる治療を受けた患者は、体重が平均9.4%減少し、心血管疾患の他の危険因子の改善もみられた。この結果は、心血管疾患の治療のあり方を変える可能性があるとしている。研究の詳細は、米国心臓学会学術集会(AHA2023)で発表され、「New England Journal of Medicine(NEJM)」に掲載された。

肥満症治療薬「ウゴービ」が心血管イベントリスクを低減

 米国では、セマグルチドは主に2型糖尿病の成人に処方されているが、BMIが30以上の肥満のある成人、あるいはBMIが27以上の過体重があり肥満に関連する併存疾患が1つ以上ある成人などの肥満症の治療に使用することが承認されている。

 米国では、成分(セマグルチド)が同じGLP-1受容体作動薬で、2型糖尿病治療薬として承認されている「オゼンピック」に対し、「ウゴービ」は高用量が処方されている。セマグルチドはこれまで、2型糖尿病患者の心血管疾患リスクなどを低下させることが示されていた。

 米クリーブランド クリニックが発表した今回の臨床試験では、心血管疾患の既往があり、過体重・肥満があるが糖尿病はない肥満症の患者に対して、セマグルチドを2.4mgの用量で週1回の皮下注射した場合、心血管疾患による死亡リスク、非致死性心臓発作、または非致死性脳卒中による死亡リスクが、平均40ヵ月でそれぞれ低下し、プラセボより優れていることが示された。

 「過体重と肥満が心血管イベントのリスクを高めることが知られている。しかし、高コレステロール・高血圧・高血糖の治療により心血管疾患リスクを軽減するのが標準的な治療法である一方で、心血管合併症を軽減するために肥満症を治療するという概念はこれまで妨げられてきた」と、同クリニック心臓血管内科のMichael Lincoff氏はいう。

 「その理由は、過体重・肥満に対する生活スタイル介入や薬理学的介入が、心血管疾患の転帰を改善するというエビデンスが不足していたことだ。今回の試験結果は、過体重・肥満に対する薬理学的介入が、心血管イベントを減らす治療法として有効なことを示した最初のケースとなる」としている。

 今回報告された臨床試験は、対象は41ヵ国で登録された45歳以上でBMI 27以上の糖尿病の既往歴がない1万7,604人。期間中、参加者は標準的な心血管疾患の治療薬を使用したが、それに加えて、セマグルチド2.4mgを週に1回皮下注射する群(8,803人)とプラセボを皮下注射する群(8,801人)のいずれかにランダムに割り付けられた。平均追跡期間は39.8ヵ月だった。

 主要な心血管エンドポイントは、最初の事象までの時間分析での心血管疾患による死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中を組み合わせたもので、安全性も評価された。

 試験では、セマグルチドまたはプラセボのいずれかを服用することに加えて、参加者全員が抗コレステロール薬、抗血小板薬、β遮断薬などの標準的な心血管疾患治療も受けた。

 その結果、主要な心血管エンドポイントイベントは、セマグルチド群 6.5%、プラセボ群 8.0%となり、リスクが20%低下することが示された[ハザード比 0.80、95%信頼区間 0.72〜0.90、P<0.001]。リスク減少は、性別・民族・年齢・体重のベースラインレベルでも同様にみられた。

 また、ランダム化から104週目時点での体重の減少に関しては、セマグルチド群では9.39%減少したのに対し、プラセボ群では0.88%の減少にとどまった。セマグルチド群では炎症・脂質・血糖・血圧・ウエスト周囲径などの心疾患のマーカーも改善した。

 さらに、セマグルチド群で安全性の問題は発生しなかった一方で、試験中止率はセマグルチド群 16.6%、プラセボ群 8.2%となり、セマグルチド群で多かった(P<0.001)。

 これは主に、吐き気や下痢などの胃腸症状の副作用が報告されたことによる。こうした胃腸症状は、このクラスの薬剤では、とくに薬剤の投与を開始したとき、または投与量を増やしたときに発生することが珍しくないとしている。

 また、胆嚢障害の発生率は、セマグルチド群でわずかに高かったが[セマグルチド群 2.8%、プラセボ 2.3%]、これはGLP-1受容体作動薬を用いた過去の研究でも報告されている。重要なのはセマグルチド群では、重度の胃腸障害・膵炎・精神障害・腎臓損傷のリスクの上昇と関連が示されなかったことだとしている。

 「肥満・過体重は実際には代謝性疾患だという認識が高まっているが、効果的な治療法はかなり限られている。セマグルチドについての今回の研究は、致命的かつ潜在的な心血管疾患を合併した肥満症の過剰なリスクを軽減する新しい治療法の有効性を実証した重要なものと言える」と、Lincoff氏は指摘している。

 今回の試験の限界として、既存の心血管疾患をもつ患者のみが対象となり、過体重・肥満はあるが心血管疾患の既往がない患者の心血管イベントの一次予防に対するセマグルチドの効果については検証されていないことを挙げている。

 なお、今回の試験は、「ウゴービ」を開発したノボ ノルディスクの資金提供を受け実施された。

International Clinical Trial Finds that Semaglutide Reduced Cardiovascular Events by 20% in Adults with Overweight or Obesity Who Don’t Have Diabetes (クリーブランド クリニック 2023年11月11日)
Semaglutide and Cardiovascular Outcomes in Obesity without Diabetes (New England Journal of Medicine 2023年11月11日)

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[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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