糖尿病患者へのGLP-1受容体作動薬の投与は認知症・精神疾患・依存症のリスクも軽減 ベネフィットとリスクを明らかに 200万人以上を調査

2025.01.29

 GLP-1受容体作動薬が処方された糖尿病患者は、認知症や依存症などのリスクも減少するなどの恩恵を受けられる可能性があることが、米ワシントン大学などによる200万人以上の糖尿病患者を対象とした調査で示された。

 「GLP-1受容体作動薬は、衝動制御・報酬・依存症に関わる脳領域で発現する受容体に作用することが示された。これにより食欲抑制や依存症障害に対する有効性を説明できる可能性がある」と、研究者は指摘している。

 「GLP-1受容体作動薬の処方が増えている。これらの薬剤の作用を体系的に調べ、どのような作用を期待できる、あるいは期待できないかを理解することが求められている」としている。

GLP-1受容体作動薬の処方が増加 ベネフィットとリスクを明らかに

 GLP-1受容体作動薬が処方された糖尿病患者は、認知症や依存症などのリスクも減少するなどの恩恵を受けられる可能性があることが、200万人以上の糖尿病患者を対象とした、米国のワシントン大学医学部とセントルイス退役軍人医療システムによる調査で示された。研究成果は、「Nature Medicine」に掲載された。

 これまでGLP-1受容体作動薬は2型糖尿病患者の血糖管理を改善し、大血管症や腎症の進行抑制の効果があることが報告されているが、今回の研究では、神経系および行動の健康にも大きなメリットをもたらし、自殺念慮・自傷行為・過食症・統合失調症などの精神疾患のリスクを軽減し、アルコール・マリファナ・覚醒剤・オピオイドなどへの依存のリスクも軽減することが示唆された。

 米国で糖尿病の治療を受けた患者200万人以上のデータベースを解析した結果、GLP-1受容体作動薬の使用は、▼過食症の19%低下、▼アルコール使用障害の11%低下、▼マリファナ使用障害の12%低下、▼自殺念慮/自傷行為の10%低下、▼統合失調症/精神疾患の18%低下、▼認知症の8%低下、▼心筋梗塞の9%低下、▼虚血性脳卒中の7%低下、▼慢性腎臓病の3%低下などと、それぞれ関連することが示された。

 一方で、GLP-1受容体作動薬は、吐き気、嘔吐、下痢、稀に胃の麻痺といった胃腸障害のリスク増加をもたらすという、潜在的な欠点があることも指摘。それらに加えて、稀ではあるが膵炎や腎臓疾患などのリスクを増やすことも報告されている。医師はGLP-1受容体作動薬を投与した患者の膵炎の兆候や腎機能を監視する必要もあるとしている。

 セマグルチドやチルゼパチドなどのGLP-1受容体作動薬を含む薬剤は、米国で2型糖尿病および肥満症の治療薬としての処方が増えている。最近の調査では、米国人の8人に1人が糖尿病、心臓病、肥満の治療にそれらの薬剤を使用したことがある、あるいは現在使用していることが報告されている。

 「GLP-1受容体作動薬の処方が増えており、これらの薬剤の身体系に対する作用を体系的に調べ、どのような作用を期待できる、あるいは期待できないかを理解することが求められている」と、ワシントン大学医学部附属およびセントルイス退役軍人ヘルスケアシステムの臨床疫学センター所長であるZiyad Al-Aly氏は述べている。

GLP-1受容体作動薬は衝動制御・報酬・依存症に関わる脳領域で発現する受容体に作用

 研究グループは今回、米国退役軍人省の2017年10月1日~2023年12月31日に糖尿病の治療を受けた患者200万人以上のデータベースを使用し、GLP-1受容体作動薬を開始した群(21万5,970人)、DPP-4阻害薬を開始した群(11万7,989人)、SGLT2阻害薬を開始した群(25万8,614人)、スルホニル尿素(SU)薬・DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬を開始した同数の患者からなる対照群(53万6,068人)、非GLP-1受容体作動薬による通常治療を継続した対照群(120万3,097人)に分けて比較した。

 発見的アプローチを用いて、GLP-1受容体作動薬の使用と各比較対象、175の健康アウトカムとの関連性を体系的にマッピングした。

 その結果、GLP-1受容体作動薬の使用は、通常治療群と比較して、物質使用、精神疾患、神経認知障害(アルツハイマー病や認知症を含む)、血液凝固障害、心血管代謝障害、感染症、いくつかの呼吸器疾患のリスク低下と関連していることが示された。

 一方、GLP-1受容体作動薬の使用は、通常治療群と比較して、胃腸障害、低血圧、失神、関節炎、腎結石、間質性腎炎、薬剤誘発性膵炎のリスク増加とも関連していた。

 「興味深いことに、GLP-1受容体作動薬は、衝動制御・報酬・依存症に関わる脳領域で発現する受容体に作用することが示された。これにより食欲抑制や依存症障害に対する有効性を説明できる可能性がある」と、Al-Aly氏は指摘する。

 「GLP-1受容体作動薬は、体重減少をもたらし、脳の炎症を軽減する。この2つの要因により、脳の健康が改善され、アルツハイマー病や認知症などの疾患のリスクが軽減される可能性もある」としている。

 また、GLP-1受容体作動薬は多様な効果を発揮するものの、その効果は控えめで、ほとんどのアウトカムでは10~20%程度の軽減にとどまったことを指摘している。

 しかし、「効果が控えめだからといって、とくに認知症のように効果的な治療選択肢がほとんどない疾患の場合、その薬剤の潜在的な価値が否定されるわけではない」として、「GLP-1受容体作動薬は、食事や運動などのライフスタイルの変更や他の薬剤の併用などの介入により、効果を高められる可能性もある」と指摘している。

 さらに、GLP-1受容体作動薬の副作用としては、吐き気・嘔吐・下痢・稀に胃の麻痺といった胃腸障害があり、この薬剤の潜在的な欠点についても明らかになった。これらは医薬品の添付文書ですでに明示されている。

 「目新しい情報として、GLP-1受容体作動薬が膵臓と腎臓に悪影響を及ぼす可能性も示された。これらの副作用は稀ではあっても、非常に深刻な場合もありえる。医師はGLP-1受容体作動薬を使用している患者の腎機能を監視し、膵炎の兆候に注意する必要がある。腎臓の問題は、症状が進行して治療の選択肢が限られるまで、症状があらわれないことがある」と、Al-Aly氏は付け加えている。

 「今回の調査結果は、GLP-1受容体作動薬が心臓発作、脳卒中、その他の心血管疾患のリスクを低下させる可能性を示した過去の研究結果を裏付けるもので、GLP-1受容体作動薬には幅広い健康上のベネフィットがある一方で、リスクもあることも示された」。

 「GLP-1受容体作動薬を投与するベネフィットとリスクについての洞察を提供し、臨床ケアのための情報提供や研究計画の指針として役立つ可能性がある」としている。

Study identifies benefits, risks linked to popular weight-loss drugs (ワシントン大学 2025年1月20日)
Mapping the effectiveness and risks of GLP-1 receptor agonists (Nature Medicine 2025年1月20日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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