腎機能の低下による過剰ろ過は糖尿病性腎症の前段階 加齢によりGFRは低下 年齢を考慮した新たな数式を提唱 大阪公立大学
過剰ろ過は糖尿病性腎症の前段階 新たな数式で正確に診断
糖尿病性腎症は、腎機能の指標である糸球体ろ過量(GFR)とアルブミン尿の測定結果から診断される。アルブミン尿は、GFRが低下する前段階の症状で、肥満やインスリン抵抗性によって起こる過剰ろ過が原因で排出される。
しかし、過剰ろ過を規定するGFR値は定まっておらず、異常値の範囲を示す基準が求められている。さらに、GFR値は年齢とともに低下し、年齢によるGFRの低下については、過剰ろ過の定義では考慮されていないという課題がある。
そこで大阪公立大学の研究グループは、腎移植ドナー候補者180人(男性77人、女性103人)の正確なGFRを測定し、年齢およびGFR値から、過剰ろ過の判断値を算出する新たな数式を定義した。
従来の定義値では、過剰ろ過ではないと判断された症例のうち、新しい数式では過剰ろ過と判断された症例は2例あり、いずれも高齢者だった。
このことから、とくに高齢者では、従来の定義値では過剰ろ過として検出できない症例があることが示唆された。
さらに、肥満患者ではGFR値の体表面積での補正により、過剰ろ過を検出することができないという先行研究での報告が、今回の研究でも確認された。
「過剰ろ過のより正確な診断は、糖尿病性腎症の早期発見・治療につながる可能性がある。過剰ろ過は糖尿病性腎症の前段階のため、新たな数式を用いてより正確に診断することで、早期発見・早期治療につながることが期待される」と、研究者は述べている。
研究は、大阪公立大学大学院医学研究科代謝内分泌病態内科学の津田昌宏氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Hypertension research」に掲載された。
過剰ろ過の正確な検出はeGFRでは難しい 加齢によりGFRは低下
糖尿病性腎症は、糸球体ろ過量(GFR)とアルブミン尿の測定から診断されるが、GFRは加齢とともに低下することが知られており、糖尿病の高齢発症により、アルブミン尿が出る前から(過剰ろ過の時期を経ずに)GFRが低下している患者は増えている。
アルブミン尿は、糸球体内圧の上昇による過剰ろ過(一時的にGFRが上昇する)が原因で排出され、その量が多くなると血管合併症や透析のリスクが高まる。
過剰ろ過は、GFR値が125~140mL/min/1.73²以上と定義している報告が多いが、加齢によるGFRの低下は考慮されておらず、これまではっきりとした定義付けはされていなかった。
またGFRを評価する際、体格による違いを補正する(体表面積補正)ことが一般的だが、肥満の症例では体表面積補正によりばらつきが生じる傾向があり、過剰ろ過を同定できないこともある。
さらに、イヌリンクリアランスはGFRを求めるための検査で、GFR測定のゴールドスタンダードだが、手順が煩雑なため、血清クレアチニンと年齢、性別から算出される推算糸球体ろ過量(eGFR)で評価するのが一般的だ。
しかし、eGFRは筋肉量の影響を受けやすく、その値が高値であっても、過大評価か過剰ろ過かを判別することができない。
そこで研究グループは、腎移植ドナー候補者に対してイヌリンクリアランスを行い、体表面積補正を実施しなかった場合のGFRを用いて、年齢を考慮した過剰ろ過の定義を行った。
合併症や既往歴、内服歴、喫煙歴がなく、正常アルブミン尿の腎移植ドナー候補者180人(男性77人、女性103人)を対象に、イヌリンクリアランス(GFR)測定および、腎血漿流量を正確に測定するためのパラアミノ馬尿酸クリアランス(RPF)測定を行った。
加えて、糖代謝異常の有無を調べ、肥満の有無、糖代謝異常の有無の組み合わせで、対象者を4つのグループ[Group1(肥満なし、糖代謝異常なし)74例、Group2(肥満あり、糖代謝異常なし)14例、Group3(肥満なし、糖代謝異常あり)63例、Group4(肥満あり、糖代謝異常あり)29例]に分け、Group1を正常群として比較検討した。
その結果、体表面積補正を行ったGFRでは、各群で有意差はなかったが、体表面積補正を行わず評価したGFRでは、Group4で有意に高い状態だった。さらに、RPFおよび畜尿検査で評価したアルブミン尿(UAE)は、Group4で有意に高い状態だった。
Gropu4ではRPF、体表面積補正を行っていないGFRおびUAEが高いことから、過剰ろ過であることが分かるが、体表面積補正をしたGFRは高くなく、過剰ろ過を同定できないことが示唆された。
次に、年齢とGFRとの関連性を検討したところ、先行研究での報告通り負の相関関係があること、つまり加齢によりGFRが低下することを確認した。
腎機能の低下による過剰ろ過の年齢を考慮した定義を提唱
研究グループはこれらをふまえ、正常群(Group1)での年齢とGFRの二変量解析の95%信頼区間を検討し、過剰ろ過を定義する新しい数式[ GFR = -0.883 × Age +167.398 ]を提案している。
同式では過剰ろ過となるが、先行研究での定義値では過剰ろ過とならない症例が2例あり、いずれも60歳以上の高齢者だった。これにより、高齢者ではGFRの低下により過剰ろ過であっても、検出できない症例が存在することが示された。
さらに、肥満の存在(BMI>25)および糖代謝異常の存在は、それぞれ体表面積補正を行わないGFRと正の独立した関連があったが、体表面積補正を行ったGFRとは関連がなかった。このことから、先行研究での報告通り、体表面積補正を行ったGFRでは、肥満や糖代謝異常による過剰ろ過を同定できないこともあらためて示された。
「過剰ろ過の正確な検出はeGFRでは難しく、イヌリンクリアランスの測定が必要ですが、測定が煩雑なことから一般的な病院では測定が困難です。また、測定できたとしても、加齢によるGFRの低下が考慮されていなかったため、過剰ろ過が存在するという認識がされていませんでした」と、研究グループでは述べている。
「今回提案した新しい数式は、今後その有効性の検証が必要ですが、本研究により尿検査(アルブミン尿)の重要性が増したと考えています」としている。
大阪公立大学大学院医学研究科
Definition of hyperfiltration taking into account age-related decline in renal function in kidney donor candidates with obesity and glucose tolerance disorder (Hypertension Research 2024年12月12日)