SGLT2阻害薬「ジャディアンス」が心不全による入院リスクを低下 リアルワールドエビデンス研究
DPP-4阻害薬に比べ50%、GLP-1受容体作動薬に比べ30%低減
ベーリンガーインゲルハイムとイーライリリー・アンド・カンパニーは、リアルワールド研究であるEMPRISEの米国の2つの解析結果から、SGLT2阻害薬「ジャディアンス」は、成人2型糖尿病患者の治療で日常的に用いられる2つのクラスの血糖降下薬と比較して、心不全による入院リスクを低下させることが示されたと発表した。
相対リスクは、DPP-4阻害薬との比較で50%、GLP-1受容体作動薬との比較で30%低下した。また、ジャディアンスがメディケア利用者の全死亡の相対リスクを、DPP-4阻害薬と比較して40%低下させることも示された。EMPRISE研究の対象患者全体を対象とした心筋梗塞または脳卒中の複合評価項目の解析では、ジャディアンスではDPP-4阻害薬と比較してリスクが12%低下した。
心筋梗塞、脳卒中および全死亡のリスクは、GLP-1受容体作動薬とジャディアンスで同様だった。ジャディアンスとリラグルチド(GLP-1受容体作動薬)およびその他のGLP-1受容体作動薬全般との比較を心血管疾患の有無別に行ったところ、いずれの項目についても結果は同様だった。
ジャディアンスについては、心血管疾患既往の成人2型糖尿病患者を対象にプラセボと比較したランドマーク試験であるEMPA-REG OUTCOME試験で心不全による入院の相対リスクが35%低下することが明らかにされているが、今回の米国でのジャディアンスの使用状況を5年間にわたり評価したリアルワールドEMPRISE研究の結果は、EMPA-REG OUTCOME試験の結果を補う内容となる。またEMPA-REG OUTCOME試験では、ジャディアンスはプラセボに比べ、心血管死の相対リスクを38%低下させることが明らかにされている。
EMPRISE研究の所見は、ジャディアンスで確立されている安全性プロファイルを確認する内容となった。ジャディアンスはDPP-4阻害薬に比べ、急性腎障害の相対リスクを低下させた。糖尿病性ケトアシドーシスによる入院の相対リスクについては上昇した。これは、ジャディアンスの既知の安全性情報とおおむね差異のない結果だった。下肢切断、骨折、腎がんおよび膀胱がんのリスクは、同程度だった。
EMPRISE研究は、EMPA-REG OUTCOME試験を補う研究として、日常診療でのジャディアンスの有効性と安全性をDPP-4阻害薬およびGLP-1受容体作動薬との比較で評価するデータを得る目的で2016年に開始された。
EMPRISE研究の米国でのデータの最終解析では、心血管疾患の既往例と非既往例を含む50万人近くの成人患者でのジャディアンスの5年間の使用状況が評価された。研究実施期間は2014~2019年で、第1の解析ではジャディアンスまたはDPP-4阻害薬による治療を開始した23万人以上の成人患者が含まれ(各群11万5,116人)、第2の解析ではジャディアンスまたはGLP-1受容体作動薬による治療を開始した26万人以上の成人患者が含まれた(各群13万0,408人)。
詳細は、ニューオリンズで開催された2022年米国糖尿病学会議(ADA)で発表された。
「心不全は、2型糖尿病の患者のうち、最大で30%にみられる疾患です。そのため、2型糖尿病の治療にあたる医療従事者にとっては、心血管系に対して効果を発揮することが立証されている治療法を日常診療で使えることが極めて重要となります。 5年間のEMPRISE研究で得られた研究結果は、ジャディアンスが心不全による入院リスクと死亡リスクを低減させることを示すものであり、成人2型糖尿病患者や医療従事者にとって励みとなるデータといえます」と、ブリガム アンド ウィメンズ病院薬剤疫学・薬剤経済学部門およびハーバード大学医学部内科准教授で共同研究者であるElisabetta Patorno氏は述べている。
なお、日本でのジャディアンス錠の効能・効果は2型糖尿病、慢性心不全(ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る)であり、心血管イベントおよび腎臓病のリスク減少に関連する効能・効果は取得されていない。また、慢性心不全に対する治療薬として承認されているのは、ジャディアンス錠10mg。
ジャディアンス錠10mg/ジャディアンス錠25mg 添付文書 インタビューフォーム 患者向医薬品ガイド (医薬品医療機器総合機構)
Effectiveness and safety of empagliflozin in routine care patients: Results from the EMPagliflozin compaRative effectIveness and SafEty (EMPRISE) study (Diabetes, Obesity and Metabolism 2021年11月2日)
Cardiovascular effectiveness of empagliflozin vs. glucagon-like peptide-1 receptor agonists or liraglutide in the EMPRISE study (Diabetes 2022年6月1日)
The EMPagliflozin compaRative effectIveness and SafEty (EMPRISE) study programme: Design and exposure accrual for an evaluation of empagliflozin in routine clinical care (Endocrinology, Diabetes & Metabolism 2019年11月26日)