「2型糖尿病の遺伝的リスク」と「肥満改善による予防」の組み合わせに高い予防効果 遺伝的リスクが低くても効果が高いケースも 大阪大学など
「2型糖尿病の遺伝的リスク」と「肥満の改善による疾患予防効果」に正の相関
大阪大学などの研究グループは、機械学習とポリジェニックリスクスコアを用いて、冠動脈疾患・2型糖尿病・脂質異常症・高血圧症の4つの生活習慣病と、その主要なリスク因子である喫煙や肥満との関係が、どのように変化するかを評価した。
その結果、「冠動脈疾患の遺伝的リスク」と「喫煙の改善による疾患予防効果」、および「2型糖尿病の遺伝的リスク」と「肥満の改善による疾患予防効果」に、それぞれ高い正の相関があることが解明された。
一方、他の生活習慣病とリスク因子の関係では、遺伝的リスクが高い人たちが必ずしもリスク因子の改善による予防効果が高いわけではなく、遺伝的リスクが低い人も高い予防効果が期待されることが示された。
ポリジェニックリスクスコアは、各個人の持つ遺伝的なリスクをスコア化して、疾患の発症や進展を予測する手法。GWASの結果から算出される各遺伝的変異のその疾患に対する効果量を、各個人の持つ遺伝子型を重み付けして足し合わせることで計算される。
「ゲノムワイド関連解析により、心血管疾患や糖尿病などさまざまな生活習慣病の遺伝的因子が明らかになってきた。そして、ゲノムワイド関連解析の結果を活用することで、遺伝的因子による疾患発症リスクを単一のスコアであるポリジェニックリスクスコアとして計算できるようになった」と、研究者は述べている。
「ポリジェニックリスクスコアは遺伝的にその疾患にかかりやすい人たち(遺伝的高リスク群)を予測できることから、個別化医療への将来的な応用が期待されている」としている。
研究は、大阪大学大学院医学系研究科の内藤龍彦助教(研究当時、現:マウントサイナイ医科大学/ニューヨークゲノムセンター博士研究員)、岡田随象教授(遺伝統計学/理化学研究所生命医科学研究センターシステム遺伝学チームチームリーダー/東京大学大学院医学系研究科遺伝情報学教授)、京都大学白眉センターの井上浩輔特定准教授(社会疫学)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Communications Medicine」にオンライン掲載された。
関連情報
リスクだけではなくベネフィットに着目した医療も重要
近年の疫学研究では、ある疾患の高リスク群が、その疾患のリスク因子を改善することで期待される治療・予防効果が高い集団(高ベネフィット群)と、必ずしも一致しない(=ある疾患の高リスク群で、治療や予防医療がどの程度効果的なのかがわからない)ことが分かってきた。
そのため、リスクのみではなくベネフィットにも着目することの重要性が指摘されている。そして治療・予防効果がどのように異なるのか(効果の異質性)を把握することが、そのようなベネフィットに着目した医療を実現するうえで直接的に役に立つ情報になる。
一方、生活習慣病のポリジェニックリスクスコアが高い集団(遺伝的高リスク群)が、喫煙や肥満といった生活習慣リスク因子を改善した際に高い予防効果が得られるかどうかは明らかにされていなかった。
そこで研究グループは、機械学習法である因果フォレストを用いて、生活習慣病の予防効果がポリジェニックリスクスコアによってどのように変化するかを評価した。因果フォレストは、ある介入の効果(観察研究では曝露とアウトカム関連)を個人レベルで予測し、効果の異質性すなわち効果の個人間のばらつきを評価することができる手法。
バイオバンク・ジャパンとUKバイオバンク(英国)が保有するゲノム・臨床情報に適用し、冠動脈疾患、2型糖尿病、脂質異常症、高血圧症の4つの疾患とその主要なリスク因子である喫煙や肥満との関係が、その疾患のポリジェニックリスクスコアによってどのように変化するかを評価した。
結果、バイオバンク・ジャパンでは「冠動脈のポリジェニックリスクスコア」と「喫煙が冠動脈に与える影響」に、UKバイオバンクでは「2型糖尿病のポリジェニックリスクスコア」と「肥満が2型糖尿病に与える影響」に強い正の相関がみられた。この結果は、これらの疾患と生活習慣リスク因子の組み合わせで、ポリジェニックリスクスコアが高い群では、生活習慣リスク因子を改善した際に高い疾患予防効果が見込める可能性を示唆している。
機械学習を活用したゲノム個別化医療の実現に期待
一方、その他の疾患とリスク因子の組み合わせでは、ポリジェニックリスクスコアとリスク因子による疾患予防効果との正の相関が必ずしもみられなかった。
この結果は、ポリジェニックリスクスコアが高い人たちで、それらのリスク因子を改善した場合でも、必ずしも高い疾患予防効果が得られるとは限らないことを示唆している。
つまり、ポリジェニックリスクスコアが低くても、生活習慣の改善によって高い疾患予防効果が期待できる人たちが多く存在しうると解釈することができる。
「本研究では、機械学習を用いて生活習慣病の遺伝的リスクと予防効果との関係を評価し、生活習慣病の遺伝的リスクと予防効果との関係が疾患やリスク因子によりさまざまなパターンを呈しうることが示されました。機械学習を活用した将来的なゲノム個別化医療の礎になることが期待される」と、研究者は述べている。
大阪大学医学系研究科・医学部
Machine learning reveals heterogeneous associations between environmental factors and cardiometabolic diseases across polygenic risk scores (Communications Medicine volume 2024年9月20日)