糖尿病リスクの低い抗精神病薬はどれか? 血糖上昇・体重増加リスクのある統合失調症患者への治療選択に期待
抗精神病薬によって血糖上昇・体重増加のリスクは違う
統合失調症などの治療に用いられる抗精神病薬による治療は、食欲増進やインスリン抵抗性の増大にともない、血糖値の上昇リスクを高めることが知られている。
近年、受診時の血糖値が正常であっても、軽微なHbA1cの上昇が、将来の糖尿病や心血管系疾患の発症リスクを上昇させることが分かってきた。しかし、抗精神病薬による治療が、この軽微なHbA1cの上昇に与える影響については十分に明らかにされていない。
また、体重増加も抗精神病薬の副作用として知られているが、日本で開発された「ブロナンセリン」「ペロスピロン」という抗精神病薬の使用が体重増加に及ぼす影響は、これまで十分に調べられていない。
そのため研究グループは、日本で処方頻度の高い6種類の抗精神病薬(アリピプラゾール、ブロナンセリン、ペロスピロン、クエチアピン、リスペリドン、オランザピン)が、精神疾患患者における治療開始後3ヵ月間のHbA1cとBMI(体格指数)の変化に与える影響を検証した。
「ブロナンセリン」は日本で開発された抗精神病薬で、欧米では使用されていない。「アリピプラゾール」「オランザピン」も抗精神病薬だ。
なお、抗精神病薬は、統合失調症の治療に用いられる薬剤の総称で、抗精神病作用(幻覚、妄想などの精神病症状に対する効果)を有する。一部の薬剤は統合失調症だけでなく、双極性障害(躁うつ病)などの精神疾患の治療に対しても保険適応が認められており、さまざまな精神疾患の治療を目的として用いられている。
血糖上昇リスクはブロナンセリンで小さい 体重増加リスクはブロナンセリン、アリピプラゾールで小さい
青で示したのはオランザピン開始群と比べ有意な変化が見られた群
研究は、2013年5月~2015年3月に、全国44施設で行った大規模コホート研究のデータを用いて行ったもの。新たに抗精神病薬が処方された378人の統合失調症、統合失調感情障害ならびに双極性障害の患者を対象に、治療が開始された時点の背景情報を収集するとともに、開始3ヵ月後のHbA1cとBMIを測定した。
統計解析では、新たに抗精神病薬が処方された時点の背景因子(性別、年齢、罹病期間、精神疾患の種類、入院・外来治療、喫煙・飲酒の有無、家族歴、併存症、食事療法・運動療法・内科治療の有無、肥満症の有無、高脂血症の有無)及び薬剤関連因子(開始された抗精神病薬の種類、他の抗精神病薬の併用の有無)が、治療開始後3ヶ月間のHbA1cの変化量及びBMIの変化量に与える影響を、多変量回帰分析を用いて検証した。
その結果、「ブロナンセリン」による治療を開始した群は、これまで血糖上昇リスクが高いと考えられていた「オランザピン」による治療を開始した群と比較して、開始後3ヵ月間のHbA1cの上昇が小さいことが明らかとなった。
また、「ブロナンセリン」による治療を開始した群と「アリピプラゾール」による治療を開始した群は、「オランザピン」による治療を開始した群と比較して、開始後3ヵ月間のBMIの上昇が小さいことも判明した。
「本研究は、日本において処方頻度の高い6種類の抗精神病薬の血糖上昇・体重増加に与える影響の違いを明らかにしたものです。本研究結果は、精神疾患患者が糖尿病や心血管系疾患に罹患することを予防する一助となることが期待されます」と、研究グループでは述べている。
研究は、北海道大学大学院医学院博士課程の澤頭亮氏(研究当時)、国立精神・神経医療センターの大久保亮氏(研究当時)、北海道大学大学院医学研究院精神医学教室の久住一郎教授らの研究グループが、同大学遺伝子病制御研究所、同大学病院精神科、同大学病院臨床研究開発センターと共同で行ったもの。研究成果は、「Journal of Clinical Psychiatry」にオンライン掲載された。
北海道大学創成研究機構 L-Station
北海道大学大学院医学研究院神経生理学教室
Subthreshold Change in Glycated Hemoglobin and Body Mass Index After the Initiation of Second-Generation Antipsychotics Among Patients With Schizophrenia or Bipolar Disorder: A Nationwide Prospective Cohort Study in Japan (Journal of Clinical Psychiatry 2022年3月30日)