肥満のない患者のNAFLDやNASHに脂肪組織のインスリン抵抗性が関与 神戸大学

2023.06.07
 脂肪組織のインスリン抵抗性が非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の原因となることを解明したと、神戸大学が発表した。

 脂肪組織でインスリンが効かないことが、肝臓の炎症や線維化を悪化させることで、NASHを進展させることを、マウスを用いた研究で明らかにした。

 NASHは、肥満者に高率に合併するが、肥満のないやせ型の人にも多い。肥満のないやせ型のNASHの原因として、脂肪組織のインスリン抵抗性が重要と考えられるとしている。

肥満のないやせ型のNASHを解明 脂肪組織のインスリン抵抗性が脂肪肝炎の原因に

 研究は、神戸大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌内科学部門の細川友誠研究員、小川渉教授、静岡県立大学大学院薬食生命科学総合学府栄養生理学研究室の細岡哲也准教授(神戸大学大学院医学研究科客員准教授)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Hepatology Communications」にオンライン掲載された。

 多くの非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、10~20%は非アルコール性脂肪肝炎(NASH)であり、肝硬変や肝がんなどの重篤な病態に進行する場合がある。NASHの有病者数は、日本で200~300万人、全世界では数億人とされており、今後も増加すると予測されている。

 NASHの原因については、遺伝的要因に加えて肥満が重要な要因と考えられている。実際、肥満者で高率にNASHを合併することが知られている。一方、肥満のない標準体重の人あるいは標準体重以下の人でも、NAFLDやその重症型であるNASHが認められることが、とくにアジア人を対象とした研究で報告されている。

 このことから、NASHの原因は単一ではなく、さまざまな要因が複合的に関与するものと考えられるが、その原因については十分に解明されていない。

 研究グループは今回、脂肪組織でインスリンが効きにくくなるインスリン抵抗性により、肝臓の炎症や線維化が悪化し、NASHが進行することを明らかにした。脂肪組織でのインスリン抵抗性は、とりわけアジア人で多く報告されている、やせ型のNASHの原因として重要と考えられるとしている。

脂肪組織のインスリン抵抗性が脂肪肝炎を増悪

出典:神戸大学、2023年

脂肪組織インスリン抵抗性がやせ型のNASHの原因に関連

 インスリンの代謝作用はPDK1と呼ばれるタンパク質の働きによって仲介されており、PDK1が働かないようにした細胞や組織では、インスリンが効かなくなる。研究グループは今回、脂肪組織でPDK1が働かないようにしたマウス(脂肪組織インスリン抵抗性マウス)に、GAN食と呼ばれる脂肪・コレステロール・フルクトースを過剰に含む飼料を16週間投与し、食事因子と脂肪組織インスリン抵抗性が、NASHの進展にどのように影響するかを検討した。

 通常マウスをGAN食で飼育すると、通常食で飼育した場合と比べて、肝臓で炎症や線維化に関わる遺伝子の量が増加した。一方、脂肪組織でPDK1が働かないようにした脂肪組織インスリン抵抗性マウスにGAN食を投与すると、通常マウスをGAN食で飼育した場合と比べ、肝臓の炎症や線維化に関わる遺伝子の量がさらに増加し、NASHが進行した。

 この結果から、脂肪組織のインスリン抵抗性は、高脂肪・高コレステロール・高フルクトース食によって誘導される炎症と線維化をさらに悪化させることにより肝病変を進展させることが明らかになった。

 また、GAN食を摂取した脂肪組織インスリン抵抗性マウスは、肥満をきたさないことから、脂肪組織インスリン抵抗性は、アジア人で多く報告されている肥満をともなわないやせ型のNASHの原因に関連することが示された。

脂肪組織のインスリン抵抗性は、高脂肪・高コレステロール・高フルクトース食によって誘導される炎症と線維化をさらに悪化させることにより肝病変を進展させる

出典:神戸大学、2023年

脂肪組織のインスリン抵抗性がアディポカインにも関与

 脂肪組織でインスリン抵抗性があると、脂肪組織に脂肪を蓄えることができず、脂肪組織から肝臓に遊離脂肪酸が流れ込むことになる。その結果、肝臓の脂肪沈着やその後の炎症、線維化が促進されることでNASHが進展すると考えられる。

 脂肪組織のインスリン抵抗性が肝臓の炎症と線維化を悪化させるもうひとつのメカニズムとして、脂肪組織から分泌され全身の臓器に作用を及ぼすアディポカインの関与が考えられる。アディポネクチンはインスリンの効きをよくし、血糖や脂質の代謝を高める。

 今回、脂肪組織でPDK1が働かないようにした脂肪組織インスリン抵抗性マウスの脂肪組織で、90種類以上のアディポカインの量が変化することを見出した。脂肪組織のインスリン抵抗性によって、量が変化したアディポカインが肝臓に働くことで、肝臓の炎症や線維化が促進される可能性が考えられる。

 「脂肪組織のインスリン抵抗性は、肝臓の炎症と線維化を促進することにより、非アルコール性脂肪肝炎を悪化させることが明らかとなった。このようなメカニズムは、とくにやせ型の非アルコール性脂肪肝炎の病態に関与するものと考えられる」と、研究グループでは述べている。

 「今回同定した、脂肪組織のインスリン抵抗性によって量が変化するアディポカインの量あるいは作用を調節することができれば、非アルコール性脂肪肝炎の新しい治療法の開発につながるものと期待される」としている。

神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科学部門 Adipose tissue insulin resistance exacerbates liver inflammation and fibrosis in a diet-induced NASH model (Hepatology Communications 2023年6月)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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