2型糖尿病は運動不足の影響がもっとも大きい 運動をすれば糖尿病リスクは大きく低下 世界疾病負担研究
運動不足による死亡に対する影響がもっとも大きいのは2型糖尿病
運動不足(身体活動量の低下)が原因で、世界では2019年に83万人が死亡しており、1990年に比べて83.9%増えたという研究結果が発表された。
これは、「世界疾病負担研究」(GBD)の204の国や地域の1990年~2019年のデータを解析したもの。GBDは、世界保健機関(WHO)などの国際的な研究機関が共同で行っている研究で、疾患や生活スタイルが死亡リスクや生活の質(QOL)にもたらす影響などを調査している。今回の研究では、米ワシントン大学の保健指標評価研究所(IHME)のデータを使用した。
運動不足が原因で死亡する人は、男女とも年齢が上がるにつれて増えていくが、運動不足の死亡に対する影響がもっとも大きいのは2型糖尿病であることが判明した。
標準化した集団寄与割合(PAF)は、疾患による危険因子の影響の大きさを集団で測る指標で、多くの疫学研究で使われている。
2型糖尿病の標準化PAFは、全体では8.8%で、男性では8.1%、女性では9.4%を占めることが判明した。これは、大腸がんの5.6%や、虚血性心疾患の5.5%、虚血性脳卒中の4.8%を大きく上回っている。
また、運動不足に関連する10万人あたりの死亡リスクを疾患別にみると、死亡者数が多い疾患は、(1) 虚血性心疾患 6.5人、(2) 虚血性脳卒中 2.1人、(3) 2型糖尿病 1.6人(0.8~2.7)、(4) 大腸がん 0.8人、(5) 乳がん 0.1人となっている。
ウォーキングなどの運動をすることで多くのベネフィットが得られる
「これらの発見は、身体活動量の低下が平均余命の減少や、糖尿病・心血管疾患・がんなどの、多くの有害な健康状態の発症の主要な危険因子であることを示している」と、研究者は述べている。
「逆に、運動を習慣として行うようになり、運動不足を解消すれば、糖尿病・高血圧・脂質異常症を改善でき、心肺機能を高められ、筋肉や骨も健康になり、心血管疾患(CVD)のリスクを下げられる」としている。
ウォーキングなどの中強度から高強度の活発な有酸素運動を週に150分行うことで、下記のようなベネフィットを得られることが、大規模な研究で確かめられている。
- 心血管疾患(CVD)の発症リスクが17%、死亡リスクが23%、それぞれ減少する。虚血性心疾患の発症リスクも25%減少する。
- 運動により2型糖尿病の発症リスクは、18%から33%減少する。運動によるエネルギー消費量が週500kcal増えるごとに、糖尿病リスクは6%減少する。
- 推奨量の運動を行うことで、大腸がんがんなど、多くのがんのリスクを低下できる。女性でも運動により、乳がんの発症リスクを13%近く減らせる。
- 運動により認知能力が向上し、認知症のリスクを軽減できる。不安感を減らし、睡眠の質も改善できる。
米国成人の3人に1人以上が糖尿病予備群 10人に8人以上が無自覚
米国保健福祉省(HHS)は2018年に「米国人のための運動ガイドライン」第2版を刊行した。「運動不足を解消すれば、ご自分の現在と将来の健康を改善できる。あらゆる年齢や体型、人種の人々が、運動量を増やすことで恩恵を受けられる」と、米国国立慢性疾患予防健康増進センター(NCCDPHP)でも述べている。
「米国でも成人の2人に1人が運動不足で、ウォーキングなどの有酸素運動を十分に行っていない。その結果として、運動不足が原因で、年間に17兆円(1,170億ドル)の医療費が失われている」としている。
米国では、成人の3人に1人以上にあたる9,600万人が糖尿病予備群で、うち10人に8人以上は自分が糖尿病のリスクが高いことに気付いていないという。
食事スタイルをより健康にし、座ったまま過ごす時間をなるべく減らし、体を積極的に動かすようにし、ストレスにも対策することで、2型糖尿病を発症するリスクを最大で58%減少でき、とくに60歳以上の高齢者では71%の予防効果を得られるとしている。
「2型糖尿病の主な危険因子として、過体重や肥満、さらには運動不足がある。これらは食事や運動などの生活スタイルを見直すことで改善ができる。米国では、全国糖尿病予防プログラム(National DPP)が進行しており、糖尿病予備群の成人の糖尿病発症を予防したり遅らせるために、官民が協力し生活スタイルの改善を促進するプログラムを展開している」としている。
Global disease burden attributed to low physical activity in 204 countries and territories from 1990 to 2019: Insights from the Global Burden of Disease 2019 Study (Biology of Sport 2022年11月22日)
Physical Inactivity (米国疾病予防管理センター 2022年9月8日)
米国人のための運動ガイドライン 第2版 (米国保健福祉省 2018年)