若年成人男性の10人に1人以上が「代謝性機能障害にともなう脂肪肝疾患(MASLD)」 自分の体質や体重に対する誤った理解も 糖尿病など代謝異常とも関連

2024.02.06
 若年成人男性の10人に1人以上で、「代謝性機能障害にともなう脂肪肝疾患(MASLD)」がみられることが、岐阜大学の調査で明らかになった。

 MASLDと食行動との関連について、日本肥満学会の推奨する食行動問診表を用いて検討したところ、その合計点数は、MASLDを有する人でMASLDのない人よりも有意に高かった。

 MASLDの層別化にとくに寄与していたのは、「他人よりも肥りやすい体質だと思う」という項目だった。MASLDのある若年成人の、食行動について誤った認識をしている傾向が示唆された。

若年成人男性の10人に1人以上が代謝障害にともなう脂肪肝

 脂肪性肝疾患の新しい定義として2023年に、「代謝性機能障害にともなう脂肪肝疾患(MASLD)」が提唱された。これは、脂肪肝と肥満や糖尿病などの代謝異常を合わせた新しい見方で、「危険な脂肪肝」を早期に発見して対策するために提唱されたものだ。

 岐阜大学は、322人の健康診断データを調査し、若年成人男性(年齢中央値 22歳)の11%にMASLDがみられることを明らかにした。

 MASLDは、脂肪肝に加えて、過体重・糖代謝異常・高血圧・脂質異常症のいずれかが併存しているときに判定される。

 脂肪肝については、これまで「非アルコール性の脂肪性肝疾患(NAFLD)」が重視されていた。これは、過度な飲酒やウイルス性肝疾患などがなくとも、脂肪肝は肝硬変や肝がん、心臓病などのリスクを高めることが分かってきたからだ。

 非アルコール性の脂肪肝の原因としては、食事や運動といった生活スタイルの乱れや、内臓肥満・ストレスなどがあり、これらはメタボリックシンドドロームの原因とも重なる。

 「MASLD」では、これらに加えて、肥満や糖尿病などの代謝異常がともなう脂肪肝も重視している。

食行動問診表を用いた食事などの生活指導は効果的

 研究グループは今回、入学時に健康診断を受診した男子大学院生322人を対象に、通常の健康診断項目に加えて、腹部超音波検査、日本肥満学会の提唱する食行動問診表を行い、MASLDの実態と食行動との関連について検討した。

 参加者の年齢中央値は22歳、BMI(体格指数)の中央値は20.7だった。腹部超音波検査により、16%がNAFLD、11%がMASLDと判定された。また、11%はNAFLDおよびMASLDの両者を有していた。

 MASLDと食行動との関連について、日本肥満学会の推奨する食行動問診表を用いて検討した。食行動問診表は、肥満症外来などで用いられており、患者の食習慣の「くせ」や「ずれ」を把握することで具体的な対策を練ることを可能するとしている。

 問診表は55の質問からなり、それぞれの質問を「そんなことはない:0点」、「時々そういうことがある:1点」、「そういう傾向がある:2点」、「まったくその通り:3点」の4段階で評価する。

 今回は問診表を用いて、▼体質や体重に関する認識、▼食動機、▼代理摂食、▼空腹・満腹感覚、▼食べ方、▼食事内容、▼食生活の規則性」の7項目を評価した。

 その結果、食行動問診表の合計点数は、MASLDを有する人でMASLDのない人よりも有意に高く[102 対 90、p=0.009]、NAFLDでも同様の結果だった[97 対 90、p=0.007]。

 食行動問診表の各項目について比較すると、MASLDを有する人はMASLDのない人に比べ、「体質や体重に関する認識」「食べ方」に関する点数が有意に高く、同様にNAFLDを有する人はNAFLDのない人よりも「体質や体重に関する認識」「食動機」「食べ方」に関する点数が有意に高いことが示された。

 研究は、岐阜大学保健管理センターの山本眞由美教授、三輪貴生氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に発表された。

食行動問診表の合計点数が高いほどMASLDとNAFLDのリスクは上昇
食行動問診表は、肥満症外来などで用いられており、患者の食習慣の「くせ」や「ずれ」を把握することで具体的な対策を練ることを可能する

出典:岐阜大学、2024年

若年世代から食事・運動などの生活指導が必要

 今回の調査で、若年成人男性の10人に1人以上で、MASLDがみられることが明らかになった。MASLDは肥満や糖尿病などの代謝異常との関連が強いため、生活スタイルを見直すことで改善できる可能性がある。

 「若年世代から、食事・運動を含めた、生活指導が必要である可能性が示唆されました」と、研究者は述べている。

 なお、これまで日本人の30%がNAFLDを有するとされており、研究グループも2023年に、若年成人男性の17%でNAFLDがみられることを報告していた。

 また、岐阜大学の今回の調査では、日本肥満学会の推奨する食行動問診表(EBQ)の合計点数が高いほど、MASLDのリスクが高まり、とくに「体質や体重に関する認識」がリスク上昇との関連が強いことが示された。

 具体的には、「体質や体重に関する認識」について、▼太るのは甘いものが好きだからだと思う、▼食べてすぐ横になるのが太る原因だと思う、▼風邪をひいてもよく食べる、▼水を飲んでも肥る方だ、▼太るのは運動不足のせいだ、▼他人よりも肥りやすい体質だと思う、▼それほど食べていないのに痩せない、といった質問に対して、誤った理解をしている人は、脂肪性肝疾患が多い傾向が示された。

 とくに「他人よりも肥りやすい体質だと思う」という項目は、MASLDの層別化にもっとも寄与していた。

MASLDは肥満や糖尿病などの代謝異常とも関連が強い

 「今回の研究により、若年成人男性の1割以上にMASLDがあり、食行動と関連していることが明らかになりました。また、とくに"体質や体重に関する認識"は、MASLDと強く関連していることから、誤った認識に対する介入が必要であることが示唆されました」と、研究者は述べている。

 「MASLDは肥満や糖尿病などの代謝異常との関連が強いため、生活習慣の是正により改善できる可能性があり、若年世代からの食事・運動療法を含めた生活指導が必要である可能性が示唆されました」。

 「生活指導では食行動問診表を用いて、MASLDにおける食行動の"くせ"や"ずれ"を把握すると、病態を改善するための食行動改善のポイントが明らかになり、食に対する認識の改善、あるいは行動変容につながり、脂肪性肝疾患の改善と健康寿命の延長につながると期待されます」としている。

岐阜大学保健管理センター
Usefulness of a questionnaire for assessing the relationship between eating behavior and steatotic liver disease among Japanese male young adults (Scientific Reports 2024年1月25日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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