糖尿病患者が歯を失うと認知機能低下リスクがより上昇 糖尿病管理と歯科治療が重要

2023.04.06
糖尿病患者が歯を失うと認知機能の低下が速まる可能性

 糖尿病患者が歯を失うと、認知機能低下リスクがより上昇する可能性を示唆するデータが報告された。米ニューヨーク大学ローリーマイヤーズ看護学部のBei Wu氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Dental Research」に3月12日掲載された。

 糖尿病が認知症のリスク因子の一つであることや、残っている歯の数が少ないほど認知症リスクが高くなることが知られている。ただし、糖尿病患者が歯を失うことにより認知症リスクがより高まるのか否かは明らかでない。Wu氏らはこの点について、同大学が行っている、就労や定年退職と健康に関する研究(Health and Retirement Study;HRS)のデータを用いて検討した。

 解析対象は、2006~2018年にHRSに参加登録された高齢者9,948人(65~74歳5,440人、75~84歳3,300人、85歳以上1,208人)。研究参加者は、ベースライン時と2年ごとに認知機能が評価され、糖尿病の有無および無歯症(歯が全くない状態)に該当するか否かで群分けし、認知機能が比較された。認知機能の評価には、電話によるスクリーニング指標の改訂版(modified Telephone Interview for Cognitive Status;TICS-m)のスコアを用いた。

 ベースライン時点でのデータの横断的な解析からは、糖尿病と無歯症が併存している84歳以下の高齢者は、それらが一つも該当しない同じ年齢層の高齢者(対照群)よりも、認知機能が有意に低下していることが分かった〔65〜74歳はβ=-1.12(95%信頼区間-1.56~-0.65)、75~84歳はβ=-1.35(同-2.09~-0.61)〕。

 縦断的な解析からも、糖尿病と無歯症が併存している65~74歳の高齢者は、対照群より認知機能の低下速度が速いことが分かった〔β=-0.15(-0.20~-0.10)〕。なお、糖尿病のみが該当する場合は、65~74歳で認知機能低下速度が対照群より有意に速く〔β=-0.09(-0.13~-0.05)〕、無歯症のみが該当する場合は、65~74歳〔β=-0.13(-0.17~-0.08)〕と75~84歳〔β=-0.10(-0.17~-0.03)〕で、認知機能低下速度が有意に速いことが示された。

 一方、85歳以上では、糖尿病と無歯症の併存による認知機能への有意な影響は観察されなかった。この理由について著者らは、糖尿病と無歯症の両者が併存している場合、80代前半までに死亡する人が多いため、もしくは、この世代では糖尿病や無歯症の有無にかかわらず、認知機能が大きく低下している人が多いためではないかと推測している。

 著者らによると本研究は、「糖尿病と無歯症の併存による認知機能への影響を長期間追跡評価した初の研究」だという。示された結果にもとづきWu氏は、「本研究のみでは因果関係の証明にはならないが、強固な関連が認められる」と総括。その上で、「この研究結果は、アルツハイマー型認知症やその他の認知症による、患者の個人的な負担、および社会的なコストを抑制するためには、高齢者の糖尿病管理と歯科治療が重要であることを強調している」と述べている。

[HealthDay News 2023年3月24日]

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