医師と薬剤師のコミュニケーションが医療の安全性向上に有用 薬剤師のアサーティブネスにポリファーマシー解消の効果

2025.03.25

 日本でも高齢者のポリファーマシーが課題になっているなか、医師が処方する薬剤数の削減に、薬局薬剤師のコミュニケーションスキルが寄与することが、筑波大学が薬剤師3,446人を対象に実施した調査で示された。

 「アサーティブネス」は、他者を尊重しつつ率直に自己表現をするコミュニケーションスタイルで、教育可能なスキルであり、医療の安全性向上に有用とされている。

 研究では、薬局薬剤師のアサーティブネスの向上が、安全な薬物治療を目的とした処方の適正化につながることが示唆された。

ポリファーマシーを解消
アサーティブネスのスキルのある薬剤師ほど薬剤数の削減に貢献

 必要以上の薬を服用することで副作用や薬物間相互作用のリスクが高まるポリファーマシーは、とくに多くの疾患を抱えがちな高齢者で、服用する薬の数が増えることが多いため、課題になっている。薬剤数の削減や代替薬の使用などによる処方の適正化は、ポリファーマシーを解消する手段になる。

 薬剤師は医師が発行する処方箋にもとづき薬物を患者に提供しているが、その際に安全な薬物治療を行うため、患者からの聞き取りや記録、検査情報などをもとにして、医師に処方の変更を提案することもある。

 しかし、医師とのコミュニケーションがうまくいかないと、薬剤数の削減など処方の適正化はなかなかスムーズには進まない。

 そこで研究グループは、日本の薬局で働く薬剤師にアンケートし、そのアサーティブネス(他者を尊重しつつ率直に自己表現をするコミュニケーションスタイル)を評価した。薬剤師が医師に提案したことによる薬剤数削減の経験が過去1年間にあるかなどを調べた。

 その結果、アサーティブな自己表現が高い薬剤師ほど、自身の提案による薬剤数の削減を経験していたことが示された。

 薬剤師のアサーティブな自己表現の高さと、自身の提案によって医師が処方する薬剤数が削減される経験は関連しており[オッズ比 1.49、p=0.042]、医師の状況を尊重しつつ、医師との相互理解を深めようとする薬剤師のアサーティブな自己表現が、医師に処方する薬剤数を減らす決定を促すことが示唆された。

 一方、主張性の低い非主張的な自己表現や自分の考えを押し付ける攻撃的な自己表現では、医師が処方する薬剤数削減の決定に影響を与えにくいことも示された。

アサーティブネスと三つの自己表現スタイル
アサーティブネスは、他者を尊重しつつ、自分の感情や要望を率直に自己表現するコミュニケーションスタイルで、3つのスタイルの自己表現で構成される。
・ 他者を優先し自分のことを後回しにする非主張的 (Nonassertive)
・ 自分の考えを押し付けて他者を考慮しない攻撃的 (Aggressive)
・ 上記のどちらでもなく相互理解を深めようとするアサーティブ (Assertive)
薬剤師のアサーティブな自己表現が高いことと薬剤数削減の経験は関連
アサーティブネスを構成する3つの自己表現と薬剤師の提案による薬剤数削減の経験との関連
出典:筑波大学、2025年

薬局薬剤師と医師のあいだで意見が伝わりやすいとポリファーマシーの解消がスムーズに

 研究グループは今回、2022年5月~10月に、日本の10都道府県の薬局で働く薬剤師 3,446人を対象にアンケート調査を実施し、963人から回答を得た。

 研究グループは今回、アサーティブネスをInterprofessional Assertiveness Scaleを用いて評価した。

 (1) 自己を後回しにする非主張的な自己表現、(2) 自身の考えを押し付ける攻撃的な自己表現、(3) それらのどちらでもなく相互理解を深めようとするアサーティブな自己表現の3つの要素で評価した。

 日本では 2018年に、薬局薬剤師から処方医への提案により薬剤数の削減がされた場合に薬局へ報酬が支払われる制度(服用薬剤調整支援料1)が設けられた。しかし、実際には薬局薬剤師と医師のあいだで意見が伝わりにくく、ポリファーマシーの解消がスムーズに進まないこともある。

 「ポリファーマシーの解消には、医師や薬剤師などの医療従事者が協力し、患者の体調や希望を考えながら判断する必要がある。とくに薬局の薬剤師は、患者の薬の状況についてよく知っているため、医師に薬剤数の削減や代替薬の使用など処方の変更を提案をする役割を担っている」と、研究者は述べている。

 アサーティブネスは、他者を尊重しつつ、自分の感情や要望を率直に自己表現するコミュニケーションスタイルであり、攻撃性とは異なる。これまでの薬局薬剤師を対象とした研究でも、アサーティブな自己表現が高い薬剤師ほど、医師に提案した処方変更の頻度が多いことが分かっている。

 研究は、筑波大学医学医療系の小曽根早知子氏らによるもの。研究成果は、「Research in Social and Administrative Pharmacy」にオンライン掲載された。

 「アサーティブネスは教育が可能なコミュニケーションスキルとみられている。今後、薬剤師がアサーティブネスを身に付けることで、患者の薬物治療の安全性が向上するかを検証することが求められる」と、研究者は述べている。

 「薬剤数削減の提案内容や医師の専門分野や経験などが、薬剤師による提案の受け入れやすさにどのように影響するのかは十分に検証されていない。今後、薬剤数削減の提案の実態を解明し、薬剤師のアサーティブネスを向上させる取り組みが医師の処方する薬剤数の削減に寄与するかを明らかにする必要がある。これらをふまえ、医師と薬剤師が協力して薬剤数の削減を進める方策を検討することが求められる」としている。

筑波大学医学医療系
Assertiveness in community pharmacists and their experience of pharmacist-led deprescribing: A cross-sectional study (Research in Social and Administrative Pharmacy 2025年3月6日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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