脂肪細胞のインスリンシグナルを調節し、2型糖尿病やメタボの発症を予防する新規分子を発見

2019.02.15
 神戸薬科大は、脂肪細胞内にあるタンパク質「Fam13a」が、インスリンの正常な作用を助ける働きをすることを解明した。
 Fam13aはインスリンシグナル伝達を仲介するIRS1のタンパク分解を阻害し、インスリンが正常に作用するために重要な働きをしている

脂肪細胞内のインスリン影響分子「Fam13a」がIRS1を阻害

 研究は、神戸薬科大学臨床薬学研究室の池田宏二准教授と江本憲昭教授によるもので、米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)」電子版に掲載された。

 内臓脂肪の蓄積はインスリン抵抗性を引き起こし、2型糖尿病やメタボリックシンドローム(MS)の発症につながる。肥満にともない脂肪組織が病的に肥大すると、脂肪細胞におけるインスリン作用が減弱する。

 一方で、過体重〜軽度肥満の人は痩せている人や正常体重の人に比べ長生きするという報告もあり、「肥満パラドックス」と言われている。同じ肥満であっても糖尿病やMSを発症しない、いわゆる「健康な肥満」があり、正常体重の健常人と同等の生命予後であることが報告されている。しかし、何が「不健康な肥満」と「健康な肥満」の差を作り出しているのかは解明されていない。

 そこで、神戸薬科大学の研究グループは、「Family with sequence similarity 13, member A (Fam13a)」という分子が正常の脂肪細胞におけるインスリン作用に重要な役割を果たしていることを突き止めた。

 Fam13aはインスリンシグナル伝達を仲介するIRS1のタンパク分解を阻害し、インスリンが正常に作用するために重要な働きをしていることを突き止めた。

 IRS1はインスリンで刺激されたインスリン受容体に結合し、チロシン残基のリン酸化によって活性化されてPI3K/Aktなど下流のシグナル伝達分子の活性化を引き起こす。その結果、糖の取り込みや脂肪の分解抑制などインスリン作用が発揮される。

 Fam13aを欠失したマウスは通常食を与えて太っていない状態においても軽度のインスリン作用不足を示し、高脂肪食を与えて肥満を誘導するとより重度なインスリン抵抗性を示した。

 研究グループは、肥満時にはFam13aの発現が減少し、脂肪細胞のインスリン作用不全が起こり、2型糖尿病やMSが引き起こされることを発見。一方、脂肪細胞でFam13aを高発現させたマウスは太っても糖尿病やMSになりにくいことも分かった。

 Fam13aは太っていない健常マウスの脂肪組織で多く発現する一方、肥満マウスの脂肪組織ではその発現レベルが正常の10%未満まで減少し、この発現減少には小胞体ストレスや酸化ストレスが影響していることが判明。

 今回の発見から、肥満に伴うFam13aの減少度合いの違いが「不健康な肥満」と「健康な肥満」の差を生んでいることが示唆された。Fam13aを活性化する薬の開発や遺伝子治療の開発が期待される。
神戸薬科大学臨床薬学研究室
Family with sequence similarity 13, member A modulates insulin signaling in adipocytes and preserves systemic metabolic homeostasis(PNAS 2018年1月31日)

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