ヒトiPS細胞から膵臓細胞へ分化 制御メカニズムを解明 京都大学iPS細胞研究所

2017.08.24
 京都大学iPS研究所(CiRA)は、ヒト多能性幹細胞(ES細胞およびiPS細胞)から膵臓細胞への分化過程を解析し、膵臓の元となる胎生期の膵芽細胞への分化を制御するメカニズムの一端を解明したと発表した。糖尿病などに対するiPS細胞を用いた再生医療の開発研究の基盤となる成果だ。

膵臓の元となる膵芽細胞への分化を制御するメカニズムを解明

 膵臓には血液中の糖分を調整するホルモンであるインスリンを作って血管に分泌する内分泌組織がある。インスリンは膵臓のβ細胞で合成されるが、β細胞の不調でインスリンが作れなくなる、あるいはその能力が低下すると糖尿病を発症する。

 iPS細胞からβ細胞を再生する方法が開発されたら、糖尿病を治療する有効な方法となると期待されている。これまでインスリンを作る能力をもったβ細胞を作るのに成功しているが、血液中の糖分濃度を感じとってインスリンの放出量を調節する能力をもった細胞を作るのは困難だ。

 京都大学iPS研究所(CiRA)は、ヒト多能性幹細胞(ES細胞およびiPS細胞)から膵臓細胞への分化過程を解析し、膵臓の元となる胎生期の膵芽細胞への分化を制御するメカニズムに、細胞骨格に関連する分子が関与することを明らかにした。

 細胞骨格を調節する薬剤を用いることで、iPS細胞から再生医療に使用する膵臓細胞を効率よく作製することができるという。

 この研究は、CiRAの豊田太郎講師、長船健二教授らによるもの。研究結果は、国際幹細胞学会(ISSCR)が発行する科学誌「Stem Cell Reports」オンライン版に発表された。

糖尿病に対する細胞移植療法の基盤となる膵芽細胞

 膵芽は膵臓の最初の組織であると考えられ、膵芽細胞は糖尿病に対する細胞移植療法をはじめとした膵臓再生医療の基盤となる細胞源として期待されている。

 これまでに、培養皿上でヒトiPS細胞から膵芽細胞への分化には、細胞密度が高い状態での培養や、細胞の塊を作ることが有効であることがわかっているが、そのメカニズムについては不明だった。

 膵臓は、発生期の内胚葉由来の組織のひとつである胎生期の後方前腸にある膵前駆細胞と呼ばれる、一層の細胞シートから膵芽と呼ばれる細胞の塊をつくることで、はじめて形として認識することができる。

 つまり、膵芽は膵臓の最初の組織であると考えられる。このため、膵芽細胞は糖尿病に対する細胞移植療法をはじめとした膵臓再生医療の基盤となる細胞源になると考えられている。

 研究グループは、細胞構造の変化に着目。細胞骨格の調節に関わる試薬の中から、細胞の形などの制御を行う酵素であるROCKを阻害する薬剤や、細胞骨格を構成するタンパク質のひとつである非筋ミオシンを阻害する薬剤が膵芽細胞への分化を促進することを見出した。

膵芽細胞が膵臓様組織を形成 インスリンを分泌

 これらの薬剤の処理で作られた膵芽細胞は、マウスの生体内へ移植すると胎生期の膵臓様組織を形成し、数ヵ月後には血中グルコース濃度に応答してインスリンを分泌するようになった。

 このことから、新たに作製した膵芽細胞は生体内の膵芽細胞と同様の性質があると考えられる。また、細胞密度が高い状態や細胞塊では、ROCK活性やその下流にある非筋ミオシンIIの量が低下していることを見出した。

 これらの結果から、ROCK-非筋ミオシンIIというシグナル伝達の活性化は、培養皿上での実験において、膵臓への分化を阻害すると考えられるという。

 今回の研究で、ヒトES細胞やiPS細胞から膵臓の元となる膵芽への分化を促進する低分子化合物を同定するのに成功。また、同定した化合物が阻害するROCKや非筋ミオシンIIの活性が低下する状態を作り出すと膵芽への分化が進行するという、分化の制御メカニズムが明らかになった。

 今回の研究は、糖尿病などの膵臓疾患に対するiPS細胞を用いた再生医療開発研究の基盤となる。今後の研究に期待が寄せられる。
京都大学iPS細胞研究所 CiRA(サイラ)

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