第77回米国糖尿病学会(ADA2017)ハイライト 米国の糖尿病医療の最前線

2017.07.07
 第77回米国糖尿病学会年次学術集会が6月9~13日にサンディエゴ コンベンション センターで開催されました。期間中に開催されたシンポジウムから、特に話題になったものをご紹介します。

心血管イベントのリスクが高い2型糖尿病患者を対象としたインスリン デグルデクとインスリン グラルギンの比較試験「DEVOTE」の結果

 インスリン デグルデクとインスリン グラルギンU100を比較した「DEVOTE」試験の結果が報告された。「DEVOTE」は、心血管イベントリスクが高い2型糖尿病患者におけるインスリン デグルデクとインスリン グラルギンの心血管系への安全性を比較した試験。ADAでの「DEVOTE」のシンポジウムと同時に「New England Journal of Medicine」に論文が発表された

 心血管疾患(MACE)のリスクが高い成人2型糖尿病の患者7,637例を対象とした約2年間の多国籍・多施設・無作為化・二重盲検試験。主要評価項目を、主要なMACEである心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中のいずれかが最初に発現するまでの時間として、重要な副次的評価項目として、夜間の重大な低血糖を含む重大な低血糖の発現件数とした。

 両群の心血管疾患による死亡、非致死性心筋梗塞または非致死性脳卒中の最初の発生などMACEの非劣性が示された。デグルデクは重度の低血糖症および夜間重度低血糖のリスクが低いことが示された。
  • インスリン デグルデクは重大な低血糖に関して優越性を示した。重大な低血糖を発現した患者の割合はインスリン デグルデク群で27%少なく、重大な低血糖の発現件数は全体で40%低下した。
  • インスリン デグルデク群は夜間の重大な低血糖の発現件数を53%低下させた。これらの差はいずれも統計的に有意だった。
  • 2年後の空腹時血糖値については、インスリン デグルデク群は有意に低下させた(ETD -7.2 mg/dL、p<0.001)。
Efficacy and Safety of Degludec versus Glargine in Type 2 Diabetes(New England Journal of Medicine 2017年6月12日)

Combination Therapy in Type 2 Diabetes--Promise Delivered?

糖尿病を解明するために肥満の病因を探る

 ピッツバーグ大学の内分泌学・代謝学科のErin E. Kershaw氏は、「肥満の病理を理解するためには、肥満の病因の3つの重要な側面、すなわち研究方法、新しい寄与因子の特定および特徴付け、そして肥満病因の系統的な理論を改訂するための新しい知識の組み換えが必要だ」と言う。最新のシステム生物学は、多様な生物学的シグナルを統合して生物全体の肥満に寄与する新しいネットワークを同定するアプローチを提示している。さらに、さまざまな代謝物とメディエーターを肥満の病因に関連付けるデータを探求している。

A Modern Update of Thrifty Genes, Set Points, and Other Models of Obesity Pathogenesis

意思決定の共有-患者と医療プロバイダーのコミュニケーションを改善するための戦略

 ピッツバーグ大学糖尿病研究所のLinda M. Siminerio氏は、米国立糖尿病教育プログラム(NDEP)の最新の成果を紹介。糖尿病患者と医療者が治療のための意思決定を共有する方策を探った。糖尿病リスクに対する認識が弱い患者にアプローチするために、社会的・文化的障壁を考慮し、エビデンスベースの実用的な糖尿病管理リソースが必要だと説く。「ほとんどの患者は糖尿病療養に対する意思決定に参加したいという意欲をもっているが、医療者の要求とはギャップがある。患者中心のケアを提供するために、医療プロバイダーとの対話を活性化する必要がある」と指摘している。

NDEP Symposium--Shared Decision-Making--Strategies for Improvements in Patient-Provider Communication

個別化された2型糖尿病のケアは過剰医療を防ぐのに有用

 ミシガン大学の内科学科のSandeep Vijan氏は、多様な慢性疾患に対する個別化医療のコストやリスク、有効性を検証し、医療制度改革の基礎となる介入中心のモデル開発に取り組んでいる。「糖尿病患者の相当数が潜在的に過剰医療を受けている可能性が複数の観察研究から示されている。糖尿病医療では血糖コントロールだけではない多面的な管理が必要とされるようになり、結果として過剰なケアが長期にわたり続けられていることが懸念される。特に高齢患者における多剤耐性、薬物相互作用、副作用、高い医療コストは医療の現場で深刻な問題になりつつある」と、メイヨークリニックのRozalina G. McCoy氏は指摘。

The Fate of the Affordable Care Act

糖尿病の心理社会的ケアが求められている

 糖尿病はうつ病、不安障害、摂食障害のリスクが高く、QOLを損なう可能性のある慢性疾患だ。ライフスタイルを患者自らが管理するのを、行動的・精神的な面から心理社会的ケアでサポートする必要がある。米国糖尿病学会(ADA)は、糖尿病患者のケアを支援するために心理社会的スクリーニングと評価のための具体的かつ包括的なガイドラインを推奨している。

 しかし、糖尿病特有のメンタルヘルスケアを提供できる知識と経験を有する専門家は限られる。このギャップを埋めるために、ADAは米国心理学学会(APA)と提携し、糖尿病教育プログラムを支援するメンタルヘルスプロバイダーの育成を計画。

 「こうした共同作業が進むにつれ、糖尿病の心理社会的側面はより適切かつ適切に対処できるようになる」と、スタンフォード大学小児内分泌学および精神・行動科学のKorey Hood氏は言う。注目すべきは、保険者で提供する医療と、費用効果の高い糖尿病ケアとどのように統合されるべきかだという。

American Diabetes Association's 77th Scientific Sessions

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