70歳以上の低HDL-C男性でアスピリンが初発イベント抑制 JPPP-70
2016.10.14
心血管疾患の危険因子を一つ以上もつ70歳以上の男性のうち、低HDL-C血症を併発している場合には、アスピリン投与によって初発イベントが有意に抑制されるとの研究結果が第30回日本臨床内科医学会において発表された。心血管イベントの二次予防においては確固たるエビデンスがある低用量アスピリンだが、一次予防に関してはネガティブな報告が多い。しかし症例を選べば一次予防にも有効なケースもありそうだ。
低用量アスピリンによる一次予防を探る「JPPP」のサブ解析
アスピリンは多面的作用をもつ薬剤で、低用量では抗血小板薬作用を発揮し、心血管イベント(心筋梗塞や脳梗塞など)の予防に役立つ。実際、低用量アスピリンは心筋梗塞や脳梗塞の二次予防(再発予防)における有用性は確立しており、既に広く用いられている。このアスピリンについて、心血管イベントの一次予防(心筋梗塞や脳梗塞を起こしたことがない人を対象とする初発発作の予防)へ応用する可能性を検証する臨床試験が、10年ほど前から行われるようになった。その背景には、アスピリンは長い歴史を背景に安全性が確立された薬剤であることに加え、極めて安価であることから、二次予防に比べて象者数が膨大かつイベント発生率が低い対一次予防に使用しても、医療経済的なメリットにつながる可能性があることが挙げられる。
アスピリンの一次予防効果を検討した臨床試験の一つとして、「JPPP(Japanese Primary Prevention Project with Aspirin)」が挙げられる。JPPPは、心血管イベント危険因子である、高血圧、脂質異常症、糖尿病のいずれか一つ以上を有する60~85歳の患者約1万5,000名を、アスピリン投与群と非投与群の2群に分けPROBE法で追跡したもの。結果は2014年に報告され、イベント発生率に両群間の有意差はなく、アスピリンの一次予防の有用性は否定されていた。
日本臨床内科医学会にて、JPPP-70 の結果概要を発表した菅原正弘氏 |
低用量アスピリンによる一次予防を探る「JPPP」のサブ解析
JPPP-70の対象者数は7,971名(男性3,118名、女性4,853名)。JPPPにおける70歳未満の群と比較すると、男性が少なく、高血圧を有する割合が多く、脂質異常症、糖尿病、BMI25以上、喫煙者、家族歴を有する者の割合は少なく、それらすべてにおいて有意差がみられた。
結果だが、一次エンドポイント(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合エンドポイント)は、アスピリン群141名、非アスピリン群154名に発生し、ハザード比(HR)0.92(95%CI:0.74-1.16)、p値0.50で、群間差はなかった。また二次エンドポイント(前記に加え、一過性脳虚血発作、狭心症、外科手術またはインターベンションを要する動脈硬化性疾患を加えた複合エンドポイント)は、アスピリン群184名、非アスピリン群217名に発生し、HR0.85(95%CI:0.70-1.04)、p値0.11で、やはり有意な群間差はなかった。一方で、輸血または入院を要する頭蓋外出血はアスピリン群35名、非アスピリン群18名と、アスピリン群で有意に多く発生していた。
次に、危険因子を個別に検討すると、一次エンドポイントの発生と関連のあった因子として、HDL-C40mg/dL未満(HR1.73,95%CI:1.26-2.39, p=0.0008)、喫煙(HR1.72, 95%CI:1.26-2.00 p=0.0006)、糖尿病(HR1.59, 95%CI:1.26-2.00, p=0.0001)が挙がった。
70歳以上、男性、低HDL-C血症なら、アスピリンが一次予防にも有効な可能性
続いてアスピリン投与がイベント抑制につながる患者像を検討すると、70歳以上で男性かつHDL-C40mg/dL未満の場合に、アスピリン投与により有意にイベントが抑制されることがわかり(HR0.44, 95%CI:0.20-0.93 p=0.031)、一次予防にもアスピリンが有効である可能性が示された。この条件に当てはまるのはJPPP-70における男性の16.3%に及び、実臨床においてもこれに該当する患者は少なくないものとみられる。
菅原氏は、「心血管危険因子を有し低HDL-C血症を伴う70歳以上の男性には、頸動脈IMTを施行するなど、積極的にリスクを評価し、適切に対応すべきと思われる」と結論をまとめた。
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