日本食で健康長寿を延ばせる 日本から世界へ「スローカロリー」を発信
2016.06.01
家森幸男・武庫川女子大学国際健康開発研究所所長が、5月19日に京都で開催された「第59回日本糖尿病学会年次学術集会」のシンポジウムで、「健康長寿食:世界食事調査からみた和食」と題し講演した。
家森氏が行った国際調査で、生活習慣病の多くは食生活を中心とする環境因子により予防できる可能があることが示された。「世界中を調査して再認識したのが日本食のすばらしさです。ご飯や魚、大豆を日常的に取り、海藻を食べる日本の食文化はまさに理想的です」と述べている。
家森氏が行った国際調査で、生活習慣病の多くは食生活を中心とする環境因子により予防できる可能があることが示された。「世界中を調査して再認識したのが日本食のすばらしさです。ご飯や魚、大豆を日常的に取り、海藻を食べる日本の食文化はまさに理想的です」と述べている。
第59回日本糖尿病学会年次学術集会
米を中心とした日本人の食文化はもともと健康的だった。日本で精製された米が食べられるようになったのは江戸時代になってから。それまでは玄米や雑穀などが食べられており、そうした食品は血糖値の上がり方がゆっくりで、肥満を引き起こしにくい。
加えて、日本人は主食とともに血糖値の上がり方がゆっくりとなるおかずを一緒に食べていた。そのなかでも豆腐や納豆、煮豆、みそ、豆乳などの大豆食品が注目されている。
大豆は植物性タンパク質やカルシウムなどの栄養素の補給源として優れているだけでなく、イソフラボンなど機能性成分も含んでいる。大豆食品をよく食べている地域では、高血圧の人が少なく、コレステロール値も低く、さらに心臓死が少ないことが明らかになっている。
イソフラボンは女性ホルモンと構造がよく似た成分だ。イソフラボンは肝臓でLDLコレステロールの受容体を作る働きを活発にし、肝臓でLDLが効率よく処理されるようにする。また、イソフラボンには、血管を広げ、血栓を作るのを防ぎ血流を改善する一酸化窒素を作る働きを高める作用をする。
家森氏は、アジアの日本や中国など大豆を食べているグループと、米国、欧州などの大豆を食べていないグループに分けて血圧の上昇を比較した。その結果、大豆を食べていないグループでは閉経期の血圧の上昇がみられ、コレステロールも上昇する傾向がみられた。
ハワイへの日系移民の一世は、70歳代では日本人の食生活をしていて大豆を十分に摂取しているが、二、三世の50歳代では大豆や豆腐をわずかしか食べていない。ブラジルの日系移民も同様だ。
そこで移民を対象とした研究で、血圧のやや高い更年期の女性にイソフラボンを毎日摂取してもらったところ、日本人並みに尿中のイソフラボンが上昇し、コレステロールが下降した。
「大豆(イソフラボン)の摂取をすることが、心筋梗塞の発症にも大きく関係しています。大豆食品を多く摂取する日本食が健康長寿に貢献しているとみられます」と、家森氏は指摘する。
日本人は豆腐、納豆、みそ、油揚などで合わせて1日に約20mgのイソフラボンを摂取している。
世界の長寿の地域と短命の地域を調査
「人は血管とともに老いる」と言われるように、血管の障害は、日本を含む世界中で死亡リスクを高める要因になっている。2大血管病と言われる疾患は「心筋梗塞」と「脳卒中」だ。この心筋梗塞と脳卒中の発症に、食事を中心とする生活スタイルが大きく関わっている。 「WHO CARDIAC Study」は、家森幸男・武庫川女子大学国際健康開発研究所所長らが、WHO(世界保健機関)の協力のもとに、1980年代から20年近い歳月をかけて実施した国際研究。家森氏は健康と栄養の関係を解明するために、世界の長寿の地域と短命の地域を選んで調査した。 研究は世界の25ヶ国・61地域で約1万4,000人を対象に行われている。「比例尿採取装置」を使い、1日(24時間)に排泄された尿をすべて集めて、1日の尿量や尿中成分を調べる調査を世界の各地で実施した。 尿中のナトリウムから食塩摂取量、イソフラボンから大豆摂取量、タウリンから魚介摂取量、カリウムから野菜摂取量を推定した。 その結果、心筋梗塞や脳卒中などの循環器疾患の発症率が高く短命の地域は、食塩摂取量が多く、野菜摂取量が少ないといった食生活に特徴があり、イソフラボンやタウリンの摂取量も少ない傾向があることが明らかになった。大豆食品を多く摂取する日本食が健康長寿に貢献する
魚やマグネシウムを摂ると心筋梗塞や脳梗塞の予防に効果的
魚を多く食べることも素晴らしい食習慣だ。魚にはアミノ酸や、DHAやEPAといった多価不飽和脂肪酸が豊富に含まれる。
家森氏が世界中で尿を採取し調査して分かったことは、魚介類に含まれるアミノ酸の一種であるタウリンを摂取すると、交感神経の働きが抑えられて血圧が下がり、血管に脂肪がつきにくくなることだ。
マグネシウムも肥満や生活習慣病に大きく影響する。世界中で、都市部に住む人はマグネシウムの摂取量が減少しており、マグネシウムを十分に摂取している人は、少ない人に比べて肥満が少なく血圧も低く、コレステロールも低いという結果が得られた。
マグネシウムは食物繊維と関連が深く、精白されていない穀物には食物繊維が豊富に含まれるのに加え、マグネシウムも含まれる。例えば、精白米100gに含まれるマグネシウムの量は23mgだが、玄米には約5倍の110mgが含まれる。
マグネシウムは「ATP(アデノシン三リン酸)」によるエネルギー生成を助ける働きをし、不足すると血管などの細胞の中にナトリウムやカルシウムが蓄積され、結果として心筋梗塞や脳梗塞を発症しやすくなる。
マグネシウムは食物繊維と関係が深く、マグネシウムの多い食品の多くに食物繊維も豊富に含まれる。マグネシウムを多く含む食品は玄米、魚や海藻類、大豆、ナッツ類などだ。伝統的な日本食はマグネシウムや食物繊維を摂取するために有利だ。
つまり、食品からマグネシウムを摂取することを心がけることで、肥満を少なくし血圧やコレステロールも下げられる。2型糖尿病やメタボリックシンドロームのリスクを減らすように働く。
一般社団法人 スローカロリー研究会
「スローカロリー」が生活習慣病を減らし健康寿命を延伸
「世界中で食の欧米化が進んでしまい、脂質を過剰に摂取し、糖質の消化吸収が速い "ファストカロリー"の食が急速に広がり肥満や生活習慣病が急増しています。糖質の消化吸収に注目し"スローカロリー"に変えていくことで、生活習慣病を減らせる可能性があります」と家森氏は指摘する。 "スローカロリー"は、糖質の質と摂り方を改善することで、肥満や生活習慣病を防げるという考え方。体内で速く吸収される糖質は、糖尿病や肥満などのリスクを高める。そこで、ゆっくりと糖質が吸収される食品を選ぶことが、食生活による健康・長寿につながると考えられている。 「世界ではスローカロリーとは逆の食生活が急速に広がっています。例えばアフリカの都市部では高カロリーの清涼飲料やファストフードの摂取が増え、結果として肥満が増えています。インド、インドネシア、スリランカなどの国でも同様の傾向がみられます」と、家森氏は言う。 スローカロリーの代表的な食品として「パラチノース」がある。パラチノースは砂糖由来の糖質で、カロリーは砂糖と同じ4kcal/gだが、消化吸収速度が砂糖の約5分の1と遅い。 家森氏は、パラチノースと砂糖で、無作為割付介入研究を4ヵ月実施し、CTスキャンで腹部内臓脂肪と血圧について検証した。その結果、パラチノースを摂取した群は砂糖を摂取した群に比べ、腹部内臓脂肪量と血圧が有意に低下した。 パラチノースは「スローカロリーシュガー」のような糖質甘味料や、糖尿病患者が使用する流動食で使われているほか、スポーツドリンクやプロテインなどスポーツ関係の食品にも使われている。 「大豆に加え、米、魚、野菜、海藻を摂る日本食は、塩分摂取をひかえ、カルシウム不足を補えば世界有数の健康長寿食になります。ところが、日本の若年層では大豆の摂取量が不足しており、週1、2回も食べていない人が多い。また、野菜や果物の摂取量が少なく脂肪摂取の割合が増え、食塩摂取量が多いのが現状です」と、家森氏は指摘する。 日本人の平均寿命は世界でもトップクラスで、それを支えたのは日本食だ。生活習慣病を予防・改善するために、塩分摂取量を減らし、スローカロリーを推進する栄養指導が求められている。国民1人ひとりのライフステージに応じて適切な栄養指導を行えば、健康寿命を延伸する先制医療への道が開ける可能性がある。 第59回日本糖尿病学会年次学術集会一般社団法人 スローカロリー研究会
[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]