ヒトiPS細胞から膵島細胞の作製に成功 流路型培養システムを開発
糖尿病の膵島移植治療や創薬研究、基礎研究への応用に期待
研究は独立行政法人科学技術振興機構(JST)の研究成果展開事業「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」において行われた、京都大学とアークレイが共同研究によりシステムを開発した。
人体で唯一血糖値を下げるホルモンであるインスリンは、膵臓内の膵島のみが産生・分泌し、血糖値の上昇に伴い放出されます。膵島が障害を受けるなどの原因でインスリン分泌が枯渇すると、慢性的な高血糖(糖尿病)となり、この状態が続くと腎不全や網膜症、末梢神経障害などの合併症を引き起こすおそれがあります。
障害を受けた膵島は再生できないため膵臓・膵島の移植治療が行われていますが、ドナー不足が深刻な問題となっており、移植治療が思うように進んでいない現状があります。
ヒトiPS細胞/ヒトES細胞から人工的に膵島を作製・利用する再生医療が、1型糖尿病の根治療法になると期待されているが、正常なヒトは100万個ほどの膵島をもち、移植治療に十分な量の膵島細胞を作製する方法や、品質のバラツキが少ない作製方法の開発などが課題となっている。
研究チームは、簡単かつ安全に高品質なヒトiPS細胞を培養する方法を検討し、2014年にヒトiPS細胞を1個から培養可能な流路型の超小型培養装置の開発に成功した。
開発したシステムは、培養皿を用いた従来の手法や大型の培養装置と比較し以下の特長がある――▽設置場所を問わないバッテリー駆動を採用、▽培養液・廃液交換のポンプ稼動は専用プログラムによりスケジュール制御が可能なため、日々の培地交換作業が不要、▽流路デバイス内での長期間培養維持が可能、▽細胞応答の解析に応用が可能。
開発したシステムは、培養環境を物理的に制御可能であり、同一構造を多数作成することで容易に培養規模を拡大することがでるという。現在、培地交換や温度管理、CO2濃度管理を全自動化した培養システムを開発中で、大型化・自動化に加えて膵島以外の細胞種への応用も検討している。