「ごはんを主食とした和食」は食事療法にも適している 食育健康サミット
2014.01.08
都内で12月に開催された「食育健康サミット2013」で、東京慈恵会医科大学内科学講座糖尿病・代謝・内分泌内科主任教授の宇都宮一典氏が、「糖尿病の予防・治療のための食事の在り方とその課題」と題し講演した。
和食は糖尿病の食事療法にも馴染みやすい
和食は日本人がもっている伝統的な食文化だ。日本は世界有数の長寿国であり、伝統的な食事スタイルである和食(日本食)が健康に寄与していることは海外からも指摘されている。和食はユネスコの無形文化遺産にも登録され、健康的な食事スタイルとして世界的に注目されている。 ごはんを主食とする和食(日本型食事)は、主食、主菜、副菜を揃えることで必要な栄養素を摂取しやすく、主食を調整することでエネルギー必要量を調整しやすいというメリットがある。心筋梗塞などの発症を下げる効果のある魚や大豆製品を食材としている点も大きい 一方で、欧米型の食事スタイルでは、単純糖質や飽和脂肪酸を過剰に摂取してしまう傾向があり、カロリーが多いわりに必須栄養素が不足しがちになる。そのため、エネルギー必要量が充足しても栄養素が不足したり、逆に栄養素が充足してもカロリー摂取量が過多となる事態が起こりがちだ。 これに対し、飽和脂肪酸や単純糖質の少ない食事を摂取すると、カロリー必要量より10~15%程度少ないエネルギー量で必須栄養素を充足できる。栄養素とカロリーのバランスからみて、和食は自由度の高い食事スタイルだといえる。沖縄クライシスと伝統的な食文化の関係
糖尿病の食事療法は、日本人が培ってきた伝統的な食文化を基軸した方が継続しやすい。一方で、食生活の急激な変化や食に対する価値観の多様化などから、食事療法を一律に指導しにくい状況も多々みられる。 1960年台に比較して、現在の日本人の総エネルキー摂取量は低下し、炭水化物の摂取比率も低下している一方で、動物性脂質の摂取比率は増加している。このことが、身体活動の減少とともに、内臓脂肪型肥満の増加をきたし、2型糖尿病の疾患構造に変化をもたらしている。 沖縄県は以前は、世界有数の長寿地域として知られ、現在も"百寿"に達する健康長寿の老人が多く暮らしている。健康長寿をもたらす沖縄の生活スタイルは、(1)白米摂取を少なくする、(2)脂質の多い肉の摂取を少なくする、(3)腹八分目を心がける、(4)運動を習慣的に行う、というものだった。 しかし、沖縄の健康的な生活スタイルは急速に失われ、沖縄男性の3人に1人がメタボリックシンドロームという状態になり、"沖縄クライシス"と呼ばれるようになった。その要因のひとつは食習慣の急激な変化だ。 米国型食文化の流入により、沖縄県民は戦前のスローライフから、いっきに高脂肪・高カロリーの環境にさらされた。戦後の沖縄県民の脂質エネルギー摂取比率は常に全国平均を上回り、2型糖尿病、肥満症、心血管疾患の発症リスクは高まっている。炭水化物制限ダイエットの効果・安全性は確認されていない
「食事療法は、食を楽しみながらを実践・継続していくことが大切です。伝統的な食文化を基軸にして、かつ現在の食生活の変化にも柔軟に対応していくことが重要です」と、宇都宮教授は指摘する。 2型糖尿病は、膵β細胞におけるインスリン分泌不全と、全身のインスリン抵抗性のふたつの病態を基軸にして発症する。糖尿病における食事療法は、総エネルギーの適正化によってインスリン分泌不全を補完し、肥満の是正によってインスリン抵抗性を解消することを目的としている。 ダイエット法のひとつとして話題になっている、ごはんなどの炭水化物を極端に制限する「炭水化物制限(糖質制限)ダイエット」について、宇都宮教授は警鐘を鳴らしている。 2型糖尿病の治療では、体重の適正化が大きな意味をもつ。炭水化物制限によって半年後に有意な体重減少をきたした症例では、総エネルギー摂取量が低下しており、「総エネルギー摂取量は過剰であっても、炭水化物さえ制限すれば減量効果がある」という解釈は成り立たないという。 また、炭水化物制限を行うと、脂肪細胞における中性脂肪が分解され、体重は減少するが、インスリンは筋肉などの体タンパクの異化を抑制しているので、インスリンが不足している糖尿病の人が炭水化物を制限すると、筋肉量の低下を招きかねない。 炭水化物制限食では、必然的に高タンパク質・高脂肪食となる。脂質の摂取割合が増えれば、動脈硬化を促進し、心筋梗塞や心血管疾患の発症リスクが高くなる可能性がある。タンパク質の摂取割合が増えれば、腎不全、ケトーシス、電解質・水分の消失も起こりやすくなる。 さらに、低炭水化物ダイエットに関する研究では、観察期間が短く、30~50%と脱落率が高いことにも注意する必要がある。さらに、炭水化物を制限することによって起きる、タンパク質あるいは脂質摂取増加の影響が調整されていない。 極端な炭水化物制限食は、有効性ならびに安全性ともに多くの懸念があり、日本糖尿病学会は2013年3月に声明を発表し注意を喚起している。 そもそも食事療法は継続できなければ意味をなさない。「患者のアドヒアランスを高めるための心理的アプローチや行動療法をどのように組み入れていくか、今後幅広く検討していく必要がある」と、宇都宮教授は指摘している。 (公社)米穀安定供給確保支援機構(公社)日本医師会
[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]