心不全患者の心リハ。急性期のADL改善にも血管内皮機能が関与

2012.10.11
 心臓リハビリテーションによる長期予後改善等の効果には、血管内皮機能の改善が関与していることが既に示されているが、第60回日本心臓病学会学術集会(9月14日~16日・金沢)で、慢性期だけでなく急性期におけるADL(日常生活動作)の獲得にも血管内皮機能改善が寄与することが報告された。野崎徳洲会病院リハビリテーション科・田頭悟志氏らが発表したもの。

 現在、国内の心不全患者は160万人と推定されており、高齢化とともにその患者数はさらに増加している。心不全に対する心臓リハビリテーション(心リハ)は、運動耐容能、骨格筋機能、末梢血管拡張能などの改善を介して、ADL・QOLの維持・向上に寄与する。

 先行研究では、心リハによるこれら長期予後改善が、FMD(Flow Mediated Dilation.血流依存性血管拡張反応)で評価される血管内皮機能改善と相関することが示されている。具体的には、FMDが心不全の重症度や死亡率の独立した予測因子であること、4週間の運動療法によりFMDが改善することなどの報告がみられる。しかし、血管内皮機能と急性期ADLとの関連は明らかになっていない。田頭氏らはこの点に着目し、急性期心不全患者の血管内皮機能と心機能およびADLの改善に要する日数との相関を調査した。

急性期のFMDの変化と、ADL獲得日数、在院日数などとの関係を検討
 対象は2011年12月~2012年3月に同院に入院した心不全患者のうち、心リハを導入し血管内皮機能を測定し得た7名。運動療法の禁忌症例や認知機能の低下が確認された患者(MMSE23点以下)は除外した。

 入院直後の急性期治療と点滴治療が終了した時点から心リハを開始し、その1~2日後、および1週間後にFMDを測定して血管内皮機能を評価。FMDの改善率と年齢、BNP、左室駆出率、ADL(自立)獲得に要した日数、在院日数との関係を検討した。

FMDと相関が認められた項目

 

 

 
 なお、FMDの評価は、前腕駆血5分後の上腕動脈最大血管径と駆血前値との差をパーセントで表す「%FMD」で判定した。また、ADLの評価は厚生労働省の『障害高齢者の日常生活自立度』により判定した。心リハは理学療法士が担当し、ADLにあわせて運動負荷を選択。不整脈等のバイタルサインの異常や胸部症状などがなければ医師に報告のうえ、より負荷の強いステージへ移行した。

 対象7名の主な患者背景は、年齢81.1±11.9歳、NYHA分類(III度1名、IV度6名)、BNP1,106±708.2pg/mL、左室駆出率41.4±19.2%、原因疾患(高血圧性心不全3名、陳旧性心筋梗塞4名)、危険因子保有者数(糖尿病6名、高血圧5名、脂質異常症3名、喫煙1名、肥満1名)など。

心リハによるFMD改善が、
ADL改善と有意に相関
 結果をみると、まずFMDの変化については、初回の平均が2.8%、1週間後の平均が4.3%で、心リハにより上昇していた。ただしこの差は統計的には有意でなく、先行研究で示されているように、FMDの有意な改善には4週間以上の期間が必要な可能性がある。しかし、心リハ開始1週間後のFMDはBNPとの有意な相関(r=0.79,p<0.05)が得られ、FMDが心不全の重症度を反映するとした先行研究の結果と一致するものと考えられる。

 FMDとADLの相関については、初回FMDとADL獲得日数(r=0.88,p<0.01)、1週間後FMDとADL獲得日数(r=0.78,p<0.05)、FMD変化率とADL獲得日数(r=0.79,p<0.05)に、それぞれ有意な相関が得られた(図)。この結果から、FMDで評価される血管内皮機能が良好、またはFMDが良好に改善すれば、ADLの改善も良好であることが認められた。なお、FMDと、年齢、左室駆出率、在院日数との間に有意な関係はみられなかった。



 以上の結果のまとめとして、同氏は「FMDは心不全患者の重症度と、急性期におけるADL改善予測因子の一つと示唆される」と結論した。

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