GLP-1受容体作動薬がタバコ使用障害リスクを下げる可能性
2型糖尿病または肥満の治療のためにセマグルチドが処方されている患者で喫煙欲求が低下したとの報告があり、同薬のTUDに対する潜在的なメリットへの関心が高まっている。
これを背景としてWang氏らは、米国における2017年12月~2023年3月の医療データベースを用いたエミュレーションターゲット研究を実施した。エミュレーションターゲット研究は、リアルワールドデータを用いて実際の臨床試験をエミュレート(模倣)する研究手法で、観察研究でありながら介入効果を予測し得る。
本研究では、血糖管理目的でセマグルチドと他の7種類の血糖降下薬(インスリン、メトホルミン、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、スルホニル尿素薬、チアゾリジン薬、およびセマグルチド以外のGLP-1RA)が新規に処方された患者群での7件の比較対象試験を模倣した。12カ月間の追跡中にTUD関連の受療行動(TUD診断のための受診、禁煙補助薬の処方、禁煙カウンセリングの実施)を、Cox比例ハザードモデルとカプランマイヤー法により解析した。
データセットに含まれる患者数は22万2,942人で、このうちセマグルチドが新規処方されていたのは5,967人だった。
解析の結果、セマグルチドは他の糖尿病用薬と比較してTUD診断のための受診が有意に少なく、とくにインスリンとの比較においてもっとも差が大きかった[ハザード比〔HR〕0.68、95%信頼区間 0.63~0.74]。
一方、セマグルチド以外のGLP-1RAとの比較ではもっとも差が小さかったが、統計学的に有意だった[HR 0.88、同 0.81~0.96]。
また、セマグルチドは禁煙補助薬の処方および禁煙カウンセリングの実施件数の低下とも関連していた。肥満の診断の有無で層別化した場合、いずれにおいても同様の関連が示された。
なお、7件の比較対象試験の多くで、処方開始から30日以内にこれらの発生率の乖離が認められた。
著者らは本研究の限界点として、出版バイアスや残余交絡の存在、およびBMIや喫煙行動、薬剤使用コンプライアンスに関する情報が欠如していることを挙げている。
そのうえで、「新たにセマグルチドが処方された患者は、セマグルチド以外のGLP-1RAを含む他の糖尿病用薬が新規処方された患者と比較して、TUD関連の受療行動が少ないことが示された。これは、セマグルチドが禁煙に有益であるとする仮説と一致した結果と言えるかもしれないが、研究手法の限界により確固たる結論にはいたらず、臨床医が禁煙を目的としてセマグルチドを適応外使用することを正当化するものではない」と総括。
また同薬によるTUD治療の可能性を評価するための臨床試験の必要性を指摘している。
[HealthDay News 2024年7月29日]
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