腎臓病のタンパク尿発症のメカニズムを解明 腎糸球体上皮細胞のスリット膜のバリア機能に障害 治療のための標的分子も同定
タンパク尿の治療法を開発するための標的分子を解明
NHERF2の脱リン酸化を抑制することが標的
タンパク尿は、腎臓病の濾過装置の傷害を示すもっとも重要な臨床所見であり、タンパク尿自体が腎臓病をさらに進行させる悪化因子であることが明らかになっている。また、タンパク尿を示す患者は、脳卒中や心血管疾患の発症率が約3倍以上であると報告されている。タンパク尿は腎臓病のサインであるばかりでなく、生命予後に重大な影響を与える疾患の発症にも関連している。
新潟大学の研究グループは、糸球体上皮細胞の細胞と細胞の間に存在するスリット膜という構造物が、タンパク質が尿中に漏れ出ないようにしている最終バリアで、踏切の遮断機に相当する役割を果たしていることを世界に先駆けて明らかにした。この遮断機の構造が不安定になると、タンパク質が尿中に漏れ出てしまう。
これまでの研究で、この遮断機にはネフリン、エフリン-B1と呼ばれる分子が存在していることを明らかにしてきたが、この遮断機を安定化させるための細胞の内側の分子構造は不明だった。
そこで今回の研究では、エフリン-B1の関連分子を同定するため、次世代シーケンサを用いて、エフリン-B1欠損マウスで発現が変化している分子を網羅的に解析し、細胞膜の裏打ち分子であるNHERF2の発現が著明に低下していることを発見した。
NHERF2がエフリン-B1の関連分子であると考え、NHERF2のスリット膜での発現、機能の検討を行い、NHERF2は、エフリン-B1ならびに細胞骨格関連分子であるエズリンと結合しており、エフリン-B1とエズリンを連結させていることを明らかにした。
タンパク尿の発症時、糸球体上皮細胞の形態の変化、細胞骨格の異常も観察されるため、スリット膜の機能維持には細胞骨格との連結が重要であると考えられてきたが、連結に関わる分子構造は解明されていなかった。
今回の研究で、NHERF2がスリット膜部に発現しており、スリット膜の細胞外部を構成する分子と細胞内の細胞骨格を連結させ、スリット膜を安定させるために重要な役割を果たしていることが明らかなった。
今回明らかにした[ネフリンーエフリン-B1ーNHERF2ーエズリンーアクチン細胞骨格]という連結はスリット膜のバリア機能維持だけでなく、糸球体上皮細胞の形態維持に重要な役割を果たしている。
培養細胞を用いた実験では、スリット膜が刺激を受けると、正常でリン酸化していないネフリン、エフリン-B1がリン酸化し、正常でリン酸化しているNHERF2、エズリンが脱リン酸化し、この連結構造が崩壊することが示された。この分子連結構造が崩壊することで、スリット膜のバリア機能の障害が起こり、タンパク尿が発症すると考えられる。
研究は、新潟大学大学院医歯学総合研究科腎研究センター腎分子病態学分野の河内裕教授、福住好恭准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国病理学会誌「American Journal of Pathology」に掲載された。
「NHERF2の脱リン酸化抑制は、タンパク尿、ネフローゼ症候群の新規治療法開発のための戦略として重要であると考えます。今後、各種薬剤、化合物を用いた検討を行い、タンパク尿の新規治療薬の開発を目指します」と、研究グループは述べている。
新潟大学腎研究センター 腎分子病態学分野
Nephrin–Ephrin-B1–Na+/H+ Exchanger Regulatory Factor 2–Ezrin–Actin Axis Is Critical in Podocyte Injury(American Journal of Pathology 2021年7月1日)