糖尿病性認知症を血液検査で早期発見 糖尿病患者の認知機能低下に特徴的な血中タンパク質糖鎖を発見
糖尿病性認知症のバイオマーカーとなる糖鎖修飾を探索
糖尿病は、認知症の発症リスクを高めることが知られており、糖尿病予備群でもそのリスクが高いことが報告されている。糖尿病性認知症を予防するために、糖尿病の重症化を防ぐだけでなく、認知機能の低下を早期に発見し、適切な介入・治療につなげることが求められている。
血液バイオマーカーを用いれば、患者に対する負担も少なく効率が良いが、これまでのバイオマーカー探索研究は、個人差によるばらつきが大きいなど課題があった。
そこで研究グループは、個人差を低減するため、長期縦断調査を用いて、糖尿病性認知機能低下のバイオマーカー候補となる糖ペプチドを探索することを目指した。
タンパク質の翻訳後修飾である糖鎖修飾は、老化や病気など健康状態の変化を反映して構造が変わり、がんなどさまざまな疾患のバイオマーカー(指標)になりうることが知られている。
研究グループは、血中タンパク質のほとんどが糖鎖修飾をもっていることに着目し、血液を用いて糖尿病性認知症のバイオマーカー候補となる糖鎖修飾を探索することに着手した。
3年毎に調査を行っている長期縦断調査「SONIC」と連携し、HbA1cと認知機能検査のスコア「MoCA-J」をもとに解析対象者を抽出した。
「SONIC」は、大阪大学と東京都健康長寿医療センター研究所などが実施している研究で、兵庫県、東京都の7市町村で、70歳、80歳、90歳、100歳の高齢者を対象に2010年に開始され、現在も継続されている。
糖尿病性の認知機能低下に特徴的な糖ペプチドを特定
今回の研究で、血中タンパク質を消化酵素(タンパク質分解酵素)によってペプチドにした検体について、液体クロマトグラフィー質量分析装置(LC-MS)と多変量解析(OPLS)を組み合わせた独自の糖ペプチド解析法(グライコプロテオミクス)を構築し、認知機能の低下によって変化する血中タンパク質由来の糖ペプチド(糖鎖修飾を持つペプチド)を探索した。
その結果、高分岐でシアル酸を含む糖鎖をもつ特定の糖ペプチドが、糖尿病性の認知機能低下に特徴的であることを突き止めた。
さらに、縦断調査(同じ人に対して数年毎に追跡調査する)に参加した人で、糖尿病に罹患していて認知機能が低下した人の認知機能低下前と低下後の血液を比較し、それぞれのサンプルから18種類のタンパク質由来の約500のN-型糖ペプチドを同定・定量した。
その結果、認知機能の低下によってクラスタリン、α2マクログロブリン、ハプトグロビン由来糖ペプチドの高分岐(3から4分岐)でシアル酸を含む糖鎖が減少し、逆にトランスフェリン由来糖ペプチドの3分岐で3シアル酸を含む糖鎖が増加することを明らかにした。
これらの特徴的な糖ペプチドは、糖尿病性認知症のバイオマーカー候補となる可能性がある。今後、多検体で検証していく予定としている。
「本研究では、さまざまな制約の多い認知機能検査に代わり、血液検査で調べることのできるバイオマーカーを探索している。研究成果をもとに糖尿病性認知機能低下のバイオマーカーが策定できれば、糖尿病患者とその家族に光明をもたらすものと期待される」と、研究グループでは述べている。
東京都健康長寿医療センター 老化機構研究チーム・プロテオームの三浦ゆり氏らによるもの。研究成果は、「Biochimica et Biophysica Acta -General Subjects-」に掲載された。
東京都健康長寿医療センター研究所 老化機構研究チーム・プロテオーム
健康長寿研究SONIC (大阪大学、東京都健康長寿医療センター研究所)
A characteristic N-glycopeptide signature associated with diabetic cognitive impairment identified in a longitudinal cohort study (Biochimica et Biophysica Acta -General Subjects- 2023年4月)