GIP/GLP-1受容体作動薬「チルゼパチド」のMASH改善効果を確認 肝線維化の改善効果など 国際共同第2相試験

2024.06.12
 横浜市⽴⼤学などは、代謝異常関連脂肪性肝炎(MASH)患者を対象に、GIPとGLP-1の2つのインクレチン作⽤をもつ「チルゼパチド」(マンジャロ)の有効性を検討する、国際共同第2相プラセボ対照無作為化⽐較試験の結果を公表した。

 すべての容量のチルゼパチド群で主要評価項⽬[線維化悪化をともなわないMASHの消失]および副次評価項⽬[MASHの増悪をともなわない1ステージ以上の線維化改善、NAS 2ポイント以上の改善効果]で有効性が認められた。チルゼパチドの主な副作⽤は胃腸障害だった。

糖尿病治療薬チルゼパチドのMASH改善効果を確認 国際共同第2相試験

 横浜市⽴⼤学などは、代謝異常関連脂肪性肝炎(MASH)患者を対象に、GIPとGLP-1の2つのインクレチン作⽤をもつ「チルゼパチド」(マンジャロ)の有効性を検討する、国際共同第2相プラセボ対照無作為化⽐較試験の結果を公表した。

NASH(⾮アルコール性脂肪肝炎)と呼ばれていた病態は、2023年6⽉より国際的にMASH(metabolic dysfunction-associated steatohepatitis)と病名が変更された。日本での正式名は現在検討されている。

 SYNERGY-NASH trialは、⽇本で2型糖尿病治療、海外では2型糖尿病や肥満治療に使⽤されているチルゼパチドについて、10ヵ国130施設で実施された、MASH患者に対する安全性や有効性を調べるランダム化⼆重盲検プラセボ対照第2相試験。

 同試験により、線維化F2(中等度)/F3(重度)をともなうMASH患者に対するチルゼパチドの安全性と有効性が証明されたとしている。

 すべての容量のチルゼパチド群で主要評価項⽬[線維化悪化をともなわないMASHの消失]および副次評価項⽬[MASHの増悪をともなわない1ステージ以上の線維化改善、NAS 2ポイント以上の改善効果]で有効性が認められた。チルゼパチドの主な副作⽤は胃腸障害だった。

 なおチルゼパチドは、MASHなどに対しても臨床試験が実施されている。今後、チルゼパチド⻑期投与によるMASHの肝線維化の持続的改善効果などの検証など、さらなる安全性や有効性を評価する第3相試験が期待されるとしている。

 研究は、横浜市⽴⼤学附属病院国際臨床肝疾患センター ⽶⽥正⼈センター⻑(同医学部肝胆膵消化器病学准教授)が参加するSYNERGY-NASH Investigatorsグループによるもの。研究成果は、「New England Journal of Medicine」に掲載された。

出典:横浜市⽴⼤学、2024年

線維化F2/F3をともなうMASH患者に対するチルゼパチドの安全性と有効性を証明

 MASHの薬物治療効果についてはこれまで、GLP-1の48〜72週の第2相試験が⾏われていた。これらの試験では、GLP-1投与によるMASHの組織学的改善は得られていたが、線維化改善の効果は認められていなかった。

 ⼀⽅、チルゼパチドはグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)と、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)の2つの受容体に作⽤する持続性GIP/GLP-1受容体作動薬。

 今回の試験の対象となったのは、⽣検によりMASHが確定し、BMIが27〜50の18〜80歳の患者で、2型糖尿病の有無は問われなかった。

 組織学的にMASHが確定している(NAFLD activity score 4点以上、各サブコンポーネント[肝脂肪化、肝細胞の⾵船様変性、炎症]のスコアが1以上)、線維化F2もしくはF3の患者が対象となった。

 研究グループは、190⼈のMASH患者を、チルゼパチド5mg(n=47)、10mg(n=47)、15mg(n=48)、プラセボ群(n=48)に1:1:1:1の⽐率でランダムに割り付けた。

 その結果、主要評価項⽬である「線維化悪化をともなわないMASHの消失」は、チルゼパチド5mg群で44%、10mg群で56%、15mg群で62%、プラセボ群で10%となり、すべての容量のチルゼパチドでプラセボ群に⽐べ、統計的に有意な改善効果が認められた(いずれの群もプラセボ群と⽐較しP<0.001)。

 副次評価項⽬の「MASHの増悪をともなわない線維化1ステージ以上の改善」は、チルゼパチド5mg群で55%、10mg群で51%、15mg群で51%、プラセボ群で30%となり、すべての容量のチルゼパチドでプ改善効果が認められた。

 副次評価項⽬のひとつである「NAS 2ポイント以上の改善(少なくとも2つ以上のNAS構成因⼦の1以上の改善をともなう)」は、チルゼパチド5mg群で71.7%、10mg群で78.3%、15mg群で76.6%、プラセボ群で36.7%となり、すべての容量のチルゼパチドでプラセボ群に⽐べ改善効果が認められた。

 体重減少は、チルゼパチド5mg群でマイナス10.7%、10mg群でマイナス13.3%、15mg群でマイナス15.6%となり、プラセボ群のマイナス0.8%に⽐べ減量効果が認められた。

 なお、同試験でのチルゼパチドの主たる副作⽤は胃腸障害だった。

チルゼパチドの副作⽤の状況

 「第2相臨床試験では、線維化F2/F3をともなうMASH患者に対するチルゼパチドの安全性と有効性が証明された。今後、チルゼパチド⻑期投与によるMASHの肝線維化の持続的改善効果や、肝重症有害事象(major adverse liver outcomes: MALO)の抑制効果、また、MASH肝硬変患者に対する安全性や有効性を評価する第3相試験が期待される」と、研究者は述べている。

横浜市⽴⼤学附属病院 国際臨床肝疾患センター
Tirzepatide for Metabolic Dysfunction–Associated Steatohepatitis with Liver Fibrosis (New England Journal of Medicine 2024年6月8日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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