糖尿病専門医在籍施設では大腸がん手術の周術期合併症リスクが低下 富山大学ら

2025.11.06
富山大学らの研究チームは、日本全国の急性期病院から収集されたDPCデータを解析した結果、糖尿病専門医が在籍する医療施設では在籍しない施設と比較して、大腸がん手術を受けた糖尿病を有する人の周術期合併症リスクが低いことが明らかになったと発表した。

 急性期病院における入院患者の多くは糖尿病を有しており、その血糖マネジメントは重要な臨床課題である。しかし、施設ごとの糖尿病専門医の在籍の有無が、手術に伴う周術期合併症リスクにどのような影響を及ぼすかについては十分に検討されていなかった。

 そこで本研究は、施設ごとの糖尿病専門医の在籍の有無と、大腸がん手術の周術期合併症リスクの関連性を検討することを目的として実施された。糖尿病を有する患者では合併症リスクが高いことがすでに報告されているため、今回大腸がん手術が対象として選定された。

 日本糖尿病学会が保有する施設ごとの糖尿病専門医数の情報の提供を受け、日本全国の急性期病院から収集されたDPCデータベースと組み合わせた。潜在的な交絡因子となる患者と施設の要因を調整し、施設ごとの糖尿病専門医の有無と周術期合併症リスクとの関連を推定した。

 全国887施設が評価対象となり、そのうち約3割の施設には糖尿病専門医が在籍していなかった。周術期合併症は全体の3,165例(13%)で発生した。交絡因子を調整後、糖尿病専門医が在籍する施設では、糖尿病専門医が不在の施設と比べて周術期合併症リスクが0.86倍(95%信頼区間:0.77〜0.96)と低いことが示された(リスク差:-2.5%〔-4.4〜-0.60〕)。

 またプロセス評価の指標として、入院中のHbA1c測定は糖尿病専門医在籍施設で0.88倍(0.80〜0.96)と少なく、グリコアルブミン測定は3.01倍(2.01〜4.51)と多く、7日あたりの血糖測定回数は1.29回(0.16〜2.43)増加していた。このことから、糖尿病専門医が在籍する施設においては、周術期の短期的な血糖変動を評価するために、より適切な指標が用いられていることが考えられた。

 本研究では、施設ごとの糖尿病専門医の在籍有無が糖尿病を有する人の大腸がん周術期合併症のリスク低下と関連していることが明らかになった。さらに、糖尿病専門医が在籍する施設では、短期的な血糖コントロールを反映する指標であるグリコアルブミン測定の頻度も高い傾向がみられた。このことからは、糖尿病専門医が在籍する施設で手術を受けた患者においては、より適切に糖代謝が評価されることで、周術期合併症が少ない可能性が示唆された。

 研究チームは「本研究においては大腸がん手術を対象とした。今後の研究では、大腸がん以外の他手術に関しても、同様の検討が必要と考える。また医療費にも着目し、検討を続けていく予定」と述べている。

 本研究は、富山大学大学院博士課程 四方 雅隆大学院生(横浜市立大学 共同研究員)と横浜市立大学 後藤温教授らの研究チームが、日本糖尿病学会の「急性期病院における糖尿病専門医の役割の解析:DPCデータの解析」委員会(委員長:戸邉一之、担当理事:島田朗)で実施したもので、研究成果は2025年8月15日付で「Journal of Diabetes Investigation」に掲載された。

[ 糖尿病リソースガイド編集部 / 日本医療・健康情報研究所 ]

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