SAP[CGM機能付きインスリンポンプ]療法は1型糖尿病合併妊娠での胎児巨大化を予防 神戸大学

2023.09.26
 神戸大学は、1型糖尿病合併の女性が妊娠中に、SAP療法[CGM機能付きインスリンポンプ療法]を行うと、胎児の巨大化を防ぐことができることを明らかにした。

 妊娠中の血糖値が高いと新生児が巨大化しやすい傾向にあるが、研究成果により、今後は、1型糖尿病合併の女性が妊娠中に積極的にSAP療法を行うことで、在胎不当過大児の発症が減ることが期待されるとしている。

SAP療法はCGM機能を搭載したインスリンポンプ療法

 神戸大学は、1型糖尿病合併の女性が妊娠中に、SAP療法(CGM機能付きインスリンポンプ療法)を行うと、SMBG(血糖自己測定)とCSII(インスリンポンプ療法)による治療を行う場合に比べて、胎児の巨大化を防ぐことができることを明らかにした。

 妊娠が分かってからSAP療法に切り替えても、胎児の巨大化を防ぐ効果があるとしている。

 「SAP(Sensor Augmented Pump)療法」は、インスリンポンプとCGM(持続血糖モニター)が連携したセンサー機能付きインスリンポンプを使用し、血糖値に応じて自動的にインスリン投与量を調節するもので、今回の研究では「MiniMed 620G」または「MiniMed 640G」が使用された。

 1型糖尿病は、なんらかの理由で膵臓のβ細胞が壊され、インスリンを分泌する力が弱くなったり、失われることで発症し、小児期から高齢期まで幅広い年齢で発症しており、1型糖尿病をもつ女性が妊娠することも少なくない。

 1型糖尿病をもつ女性は、妊娠中の血糖コントロールが悪いと、妊娠高血圧症候群になったり、新生児の体重が重い方から10%に含まれる在胎不当過大児や、新生児が呼吸をしづらくなったり、低血糖を起こしたりといったさまざまな合併症が引き起こされる。

 しかし、1型糖尿病をもつ女性が妊娠したときに、こうした合併症を減らすにはどのようなインスリン治療法と血糖測定法がよいのか、はっきりとした指針は出ていない。

妊娠中にSAP療法を行うことで胎児巨大化や合併症を抑制できるかを調査

 CSII(インスリンポンプ療法)は、個人の生活スタイルに合わせてインスリン量や注入方法を細やかに、また速やかに調整することが可能であり、最近はCSIIを利用する1型糖尿病患者は増えている。

 そこで研究グループは、CSIIを行っている1型糖尿病の女性が妊娠したときに、SAP療法を行うことで、妊娠中や新生児の合併症を減らすことができるかどうかを調査した。

 2008年4月~2022年8月に、神戸大学医学部附属病院産科婦人科と糖尿病内分泌内科にかかりながら妊娠、出産した1型糖尿病をもつ女性のうち、SAP療法、もしくはSMBGとCSIIで治療を受けている女性の妊娠のカルテ調査を行った。

 妊娠中や新生児の合併症として、妊娠高血圧症候群、新生児の巨大化の指標として在胎不当過大児、生まれたときの呼吸窮迫症候群、生まれてからの低血糖、多血症、黄疸の有無を調査した。

SAP療法を受けた女性の妊娠では在胎不当過大児の割合が圧倒的に少ない結果に

 その結果、SAP療法を受けている女性の妊娠(40例)では、SMBGとCSIIで治療を受けている女性の妊娠(29例)よりも、圧倒的に在胎不当過大児の割合が少なかった[27.5% vs. 65.5%、P <0.05]。

 この27.5%という数字は、これまでに1型糖尿病をもつ女性の妊娠結果として報告されている在胎不当過大児の割合[33.6%~63.6%]よりも少ないものだ。在胎不当過大児以外の合併症に差はなかった。

 「SMBGとCSIIによる治療よりも、SAP療法の方がよりよいインスリン量の調整が行えていることが示唆されており、その効果のひとつがこのような結果になっていると考えられる」と、研究グループでは述べている。

 また、妊娠が分かってからSAP療法に切り替えた女性の妊娠(16例)と、妊娠前からSAP療法を行っていた女性の妊娠(24例)を比べたところ、在胎不当過大児の割合に差がないことも明らかになった。

 「妊娠が分かってからSAP療法に切り替えても、SAP療法による在胎不当過大児を防ぐ効果はあると考えられる」としている。

SAP療法を受けている女性の妊娠では在胎不当過大児の割合が圧倒的に少なかった
27.5% vs. 65.5%、P <0.05

出典:神戸大学、2023年

胎児巨大化や合併症を減らす効果的な治療法を開発

 研究は、神戸大学大学院医学研究科の今福仁美講師、谷村憲司特命教授(産科婦人科学分野)らと、山本あかね氏、廣田勇士准教授(糖尿病・内分泌内科学部門)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Diabetes Investigation」に掲載された。

 「妊娠中にSAPを使用すると、胎児の巨大化を防ぐことできるということが分かった。SAPには、24時間の血糖のデータが記録されている。今後は、1型糖尿病をもつ女性の妊娠中の24時間の血糖データを分析することで、胎児巨大化を防ぐためには、いつから(妊娠何週目頃から)どのような血糖値になるようにコントロールすればよいか、妊娠高血圧症候群や赤ちゃんの低血糖など、在胎不当過大児以外の合併症を減らすことができないのか、調査していきたいと考えている」と、研究者は述べている。

神戸大学大学院医学研究科 産科婦人科学分野
神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科学部門
Advantages of sensor-augmented insulin pump therapy for pregnant women with type 1 diabetes mellitus (Journal of Diabetes Investigation 2023年9月14日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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