糖尿病などによる難治性皮膚潰瘍に有効な“真皮シート“を開発 高い創傷治癒効果 愛媛大学

2023.02.22
 愛媛大学などは、糖尿病などの末梢血流障害で生じる深達性皮膚潰瘍に対して、ヒト由来の線維芽細胞とコラーゲンを用いて作製する“真皮シート”に、高濃度トレハロースを含有させる新たな方法を開発した。

 この手法により、高い創傷治癒効果を期待できる革新的な再生医療用製品を開発できたとしている。これまで、深達性皮膚潰瘍の治癒の重要なステップである欠損した真皮側の迅速な再生を促進する有効な治療法はなかった。

深達性皮膚潰瘍に対する新たな治療法を開発

 糖尿病や静脈瘤などの末梢血流障害で生じる深達性皮膚潰瘍は、非常に難治性で、疼痛や感染などさまざまな合併症により、世界中で多くの患者のQOLを低下し、多大な経済的損失を生じている。

 これまで、深達性の皮膚潰瘍治療で重要なステップである“欠損した真皮の迅速な再生”を有効に促進する治療法はなかった。真皮は、表皮と皮下組織のあいだにある組織で、線維芽細胞などの結合組織から構成される。

 愛媛大学などは今回、線維芽細胞を高濃度トレハロースで処理することで、これまでに報告されたことのない“創傷治癒促進作用を有するセネッセンス様状態(Senescence-like State; SLS)”へ一時的に誘導できることを発見した。

 セネッセンス(細胞老化)は、DNA損傷応答などで、安定的に細胞周期が停止した状態。加齢とは異なる現象で、創傷治癒で重要な役割をになっている。

高濃度トレハロースによる線維芽細胞のセネッセンス様状態への誘導作用を利用した真皮シートを開発
マウスの皮膚潰瘍の創傷治癒を促進することを確認

出典:愛媛大学、2023年

線維芽細胞を高濃度トレハロースで処理

 同大学皮膚科学講座ではこれまで、患者由来の自家細胞を3次元培養した皮膚シートによる潰瘍治療を行ってきた。

 今回は、線維芽細胞とコラーゲンを用いて作製する“真皮シート”に、高濃度トレハロースを含有させる新たな方法を見出し、高い創傷治癒効果を期待できる革新的な再生医療用製品を開発できたとしている。

 トレハロースは、自然界にもある糖質のひとつで、生物体の耐熱性・耐寒性で重要な役割をはたしているとみられている。食品添加物としても使われている。

 研究は、創傷治癒に有利に作用するSLSという革新的な現象が線維芽細胞で起こることを世界ではじめて発見したもので、難治性潰瘍治療の発展への貢献が期待されるとしている。

 研究は、愛媛大学大学院医学系研究科皮膚科学講座の武藤潤講師、藤澤康弘教授、佐山浩二名誉教授、愛知学院大学歯学部生化学講座の福田信治講師、山口大学研究推進機構・遺伝子実験施設の水上洋一教授、愛媛大学プロテオサイエンスセンター細胞増殖・腫瘍制御部門の東山繁樹教授、愛媛大学大学院医学系研究科分子病態医学講座の川上良介准教授、今村健志教授らによるもの。研究成果は、「Communications Biology」にオンライン掲載された。

トレハロースで処理した真皮シートで3次元培養皮膚シートを作製

 研究グループは、高濃度トレハロースで処理した真皮シートを使うことで、安全かつ迅速に、3次元培養皮膚シートを作製することが可能であることを明らかにした。

 高濃度のトレハロースで処理した真皮シート上で作製した表皮シートは、トレハロースを含有しない通常の表皮シート(対照)や低濃度のトレハロースで処理したシートと比較して、有意に表皮の増殖が促進された。その結果、表皮シートのサイズが増大した。

 なお、この皮膚シートには、腫瘍性の増殖などの病理組織学的な異常はなく、細胞の遺伝子発現解析でもトレハロース処理群と対照群で有意な変化はみられなかったとしている。

 次に、高濃度トレハロースが表皮細胞の増殖を促進したメカニズムの解明のために、2次元および3次元で短期間培養した線維芽細胞を用いて、RNAシークエンスとリアルタイムPCRによる遺伝子発現解析を施行した。

 その結果、線維芽細胞でDPTなど増殖因子群とCDKN1A/p21のmRNAレベルでの有意な増加がみられた。

自家細胞由来真皮シートであれば安全性での懸念も少ない

 さらに、トレハロース処理した線維芽細胞で、セネッセンスでみられるLMNB1のmRNAとタンパクレベルの低下とβガラクトシダーゼ陽性細胞の増加があり、セネッセンスと極めてよく類似した状態だった。

 また、siRNAでCDKN1Aの発現を抑制すると、表皮細胞増殖促進作用が消失したことから、トレハロースがCDKN1A/p21依存性に創傷治癒を促進する増殖因子を発現亢進していることが明らかになった。

 「研究では、高濃度トレハロースが線維芽細胞をSLSという、これまで報告されたことがない状態に誘導できるという画期的な発見と、その作用を利用した自家細胞由来真皮シートは、これまで治療に難渋していた深達性の潰瘍の治療に非常に有用である可能性を示すことができました」と、研究グループでは述べている。

 「この方法では、自家細胞のみで作製可能なため、安全性での懸念も少ないという長所もあります。さらに、マウスを用いた動物実験で新規真皮シートの創傷治癒促進作用が確認されたことから、この革新的な3次元培養“真皮シート“の早期の実用化が期待されます」としている。

愛媛大学大学院医学系研究科皮膚科学講座
Highly concentrated trehalose induces prohealing senescence-like state in fibroblasts via CDKN1A/p21 (Communications Biology 2023年1月6日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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