週1回の「グリコアルブミン測定 × アプリ」が2型糖尿病患者の⾎糖管理を改善 次世代自己血糖モニタリング法の確⽴へ
週に1回のGA測定で直近1週間の⾎糖変動が簡単に分かる
東京⼤学、熊本⼤学、陣内病院、Provigateの研究グループは、週に1回の在宅グリコアルブミン(GA)検査と⾏動変容アプリを併⽤することで、2型糖尿病患者の⾎糖値や体重などが有意に改善することを明らかにした。
GAは、アルブミンが⾎液中のグルコース(⾎糖)により糖化されたタンパク質。総アルブミンに対する糖化アルブミンの⽐率は、⼀般的にGA値(%)として表記され、直近1〜2週間程度の平均⾎糖値を反映する。半減期が17⽇間程度であり、過去数⽇から1週間程度の平均⾎糖値の動きをよく反映して鋭敏に変化する。⽇本では、SMBGやCGM、HbA1cに次いで病院検査で⽤いられている。
GA値を週1回測定すれば、直近の⾷事、運動、服薬など⾎糖値に影響する⽣活習慣の変化を簡単に数値化できると考えられるが、在宅でGA値を測定し⾏動変容に活かす研究はこれまでなかった。
日本では、⾃⼰注射製剤を使わない2型糖尿病患者の⼤半は、SMBGやCGMなどの⾎糖⾃⼰測定法が保険適⽤外であり、1〜3ヵ月に1度の通院時にしか⾎糖管理の状況が分からないという課題もある。
GAも現状では病院検査でしか測定することができないが、GA検査を毎週、家庭でできるようになれば、週に1度だけGAを検査し、測定結果と過去1週間の⾏動をアプリで振り返ることで、⽣活習慣の改善に効果的につなげられる可能性がある。
郵送による在宅GA検査と⾏動変容アプリを併⽤ GA・HbA1c・体重・ウエスト周囲⻑・カロリー消費量が改善
研究グループはこれまで、2018年のAMED先端計測事業の⽀援のもと、GAのバイオセンサの開発を進展させ、涙液や唾液のGAが⾎液のGAと強く相関すること、およびGAの通院・隔週測定が、糖尿病患者に⾏動変容を引き起こし⾎糖の悪化を防ぐ可能性を⽰してきた。
さらに、2019年のNEDO SCA事業および2020年のNEDO PCA事業の⽀援により、バイオセンサの要素技術と医療機器のプロトタイプ開発を⾶躍的に進めてきた。加えて、東京⼤学医学部附属病院と東京⼤学発医⼯連携スタートアップであるProvigateの共同研究により、世界初のGAの在宅検査法として、指頭⾎サンプルを⽤いた安定的な郵送検査法(HPLC法)を確⽴した。
研究グループは今回、これらの研究成果をふまえ、2021年に採択されたAMED健康医療情報事業の⽀援を受け、郵送による週次在宅GA検査と専⽤の⾏動変容アプリを併⽤することで、⾎糖⾃⼰測定を利⽤しない2型糖尿病患者の⾎糖管理が改善するかどうかを検証した。
研究は、オープンラベル無作為化⽐較試験として単施設で実施したもので、介⼊期間は8週間、HbA1c 7.0〜9.0%の2型糖尿病患者を対象に⽇本で実施したもの。
参加者98人(男性 72.0%、年齢 63.2±11.4歳、HbA1c 7.39±0.39%)を介⼊群と対照群に無作為に割り付けた。従来治療のみとした対照群に対し、介⼊群は従来の治療に加え、週1回の指頭⾎の郵送検査による在宅GAモニタリングと、スマートフォンアプリを⽤いた、⽣活⾏動の簡単な⾃⼰レビューを毎⽇実施した。
その結果、介⼊群ではベースラインから最終観察⽇までに、GA値[-1.71±1.37%]およびHbA1c値[-0.32±0.32%]の有意な低下がみられた。また、体重[p<0.0001]、ウエスト周囲⻑[p=0.0003]のそれぞれ有意な減少、カロリー消費量の有意な改善[p=0.0346]も示されたが、カロリー摂取量の有意な減少は示されなかった[p=0.678]。
研究は、東京⼤学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科の相原允⼀助教、熊本⼤学病院 糖尿病・代謝・内分泌内科(⼤学院⽣命科学研究部)の窪⽥直⼈教授、陣内病院の陣内秀昭院⻑、Provigateの関⽔康伸代表取締役CEOらによるもの。研究成果は、「Diabetes Therapy」にオンライン掲載された。
「在宅でGA値を測定し⾏動変容に活かす研究は、本研究が世界初の報告となる。⼿軽な週1回の測定で有効に⾏動変容を誘発するGA×⾏動変容アプリは、低頻度・低コスト・低/⾮侵襲な在宅⾎糖モニタリング法として有望」と、研究グループでは述べている。
なお研究グループは、GAの臨床実⽤化を⽬指した研究グループ「OMEGA Study Group」を発⾜し、指頭⾎による在宅迅速検査(POCT)法や、完全⾮侵襲な唾液によるGAの郵送検査法の研究開発、および専⽤の⾏動変容アプリの改良も進めているという。
「今後のGA検査の研究成果が、より良い糖尿病治療の実現につながることが期待される」としている。
低/非侵襲・低コスト・分かりやすい次世代自己血糖モニタリング法の確立へ
研究グループは、2012年に採択されたJST START事業を⽪切りに、10年超にわたり⾰新的な⾎糖モニタリング法の確⽴に向けて医⼯連携での機器開発・臨床開発を進めてきた。
2015年には科学技術振興機構(JST)START事業の成果をもとに、東京⼤学発医⼯連携スタートアップであるProvigateが創業され、2016年に採択された国⽴研究開発法⼈ 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)研究開発型スタートアップ(STS)事業では、涙液と⾎液のグリコアルブミン(GA)値が強く相関することを⾒出し、完全⾮侵襲な⾎糖モニタリング法の可能性を⾒出した。
糖尿病の臨床現場では現在、⾃⼰穿刺による指頭⾎で瞬間の⾎糖を測定する⾎糖⾃⼰測定(SMBG)、インプラント型で連続的に間質液糖を測定する持続⾎糖モニタリング(CGM)、間接的に1〜2か⽉の平均⾎糖を測定するHbA1cなどが⾎糖管理の指標として使われている。
SMBGやCGMは、とくにインスリン療法を行っている患者では、注射量の決定や低⾎糖の回避のために⽋かせない。またHbA1cは、糖尿病の診断基準の要素として信頼性が⾼いが、糖尿病患者の⽇常的なモニタリングと⾏動変容の道具という視点では、いずれも理想的な⼿法ではない。
SMBGで分かるのは測定の瞬間の⾎糖値であり、⾎糖変動の全貌を知るためには、1⽇に頻回の指先穿刺が必要となる。CGMは、⽪下にセンサをインプラントする必要があり、しかも10⽇から14⽇間に⼀度、アプリケーターで穿刺し、センサを置き換えなければならず、いずれもコストが⾼く、糖尿病患者すべてが利⽤するには、侵襲性・コスト・使いやすさの点で課題がある。またHbA1cは、糖尿病の診断や⻑期の⾎糖管理の⽬標としては有⽤だが、⾚⾎球の寿命が120⽇と⻑く、緩やかに変化するために、直近の⾎糖変動を反映しにくく、⾏動変容の指標としては十分ではない。
一方、GA値であれば1週間に1回測定すれば、直近1週間程度の⾎糖変動を、GA値の変化として簡単に数値化・可視化することが可能になる。さらに、GA値は体液中の濃度ではなくアルブミンの分⼦内⽐率として測定するため、涙液や唾液でも正確に測定できる可能性がある。週1回の検査であることに加え、涙液や唾液でも使えるという点から、経済的・低/⾮侵襲・使いやすい⾎糖モニタリングの⼿法として有望としている。
OMEGA Study Group
Provigate
東京⼤学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科
熊本⼤学病院 糖尿病・代謝・内分泌内科
fficacy of Self-Review of Lifestyle Behaviors with Once-Weekly Glycated Albumin Measurement in People with Type 2 Diabetes: A Randomized Pilot Study (Diabetes Therapy 2024年5月16日)