インスリン不足に応答して膵β細胞の増殖を促す因子を発見 糖尿病の根本治療に期待 大阪大学

2022.11.22
 大阪大学は、生理的アディポネクチン受容体であるT-カドヘリンが、インスリン不足に応答する液性因子として分泌が促進され、膵β細胞の増殖を促進することを明らかにした。

 インスリン作用を受ける組織・細胞が、インスリンの不足状態を膵β細胞にフィードバックするメカニズムは不明だったが、研究により、可溶性T-カドヘリンが単離膵島のNotchシグナル経路を増幅し、細胞増殖関連遺伝子の発現を促進することが明らかになった。

 研究成果は、膵β細胞を増やすという糖尿病の根本治療への応用が期待されるとしている。

インスリン不足に応答してT-カドヘリン分泌が促進 膵β細胞の増殖を促す

 T-カドヘリンは、細胞間接着やコミュニケーションに重要なカドヘリンの一種で、細胞内ドメインを有さず、脂質アンカーによって細胞膜に係留される特殊なカドヘリン分子。

 大阪大学の研究グループはこれまで、カドヘリンは高親和性かつ高選択的にアディポネクチンと結合し、可溶性T-カドヘリンは細胞外に分泌されることを明らかにしてきた。

 アディポネクチンは、脂肪細胞から産生分泌されるタンパク質であり、さまざまな臓器保護作用を有する。研究グループは、アディポネクチンがT-カドヘリンに特異的に結合して、エクソソーム産生を促進する機能があることも発見している。

 今回の研究で、インスリン不足に応答する液性因子としてT-カドヘリン分泌が促進され、単離膵島のNotchシグナル経路を増幅し、細胞増殖関連遺伝子の発現を促進、同因子が膵β細胞の増殖を促進することを明らかにした。

 これまで、インスリン作用を受ける組織・細胞がインスリンの不足状態を膵β細胞にフィードバックするメカニズムは不明だったが、今回の研究により、糖尿病の根本的治療への応用が期待されるとしている。

 研究は、大阪大学大学院医学系研究科の沖田朋憲氏(内分泌・代謝内科学)、喜多俊文寄附講座講師(肥満脂肪病態学)、下村伊一郎教授(内分泌・代謝内科学)らの研究グループによるもの。研究成果は、米科学誌「iScience」に掲載された。

可溶性T-カドヘリンは、インスリン不足に応答し、膵β細胞の増殖を促進する新しい液性因子

出典:大阪大学、2022年

可溶性T-カドヘリンを補充すると膵β細胞の増殖が促進

 これまで、T-カドヘリンは、脂肪細胞に由来する液性因子アディポネクチンと結合し、エクソソーム産生を促進する受容体であることが分かっていた。そこで研究グループは今回、T-カドヘリン欠損マウスを作製し、T-カドヘリンの糖代謝における重要性を検討した。

 高脂肪食負荷およびストレプトゾシン投与糖尿病モデルマウスを用いることで、T-カドヘリンは膵β細胞の増殖に必要であることが分かった。T-カドヘリンは膵島にはほとんど発現していないことから、膵外からの液性因子による調節を想定した。

 アディポネクチン欠損マウスでは、ストレプトゾシン投与による糖尿病病態は悪化しなかったので、T-カドヘリン欠損マウスとアディポネクチン欠損マウスに共通するエクソソーム産生低下ではなく、T-カドヘリン欠損マウスに特有の可溶性T-カドヘリンの低下に原因がある可能性が示された。

 可溶性T-カドヘリンを補充したところ、膵β細胞の増殖が促進され、高脂肪食負荷による耐糖能低下が回復した。また、糖尿病モデルマウスの血糖値や膵インスリン含量が回復した。

 研究グループは、膵島の遺伝子発現解析から、T-カドヘリン欠損マウスの膵島ではNotchシグナルが低下していることを突き止めた。Notchシグナルが膵β細胞の増殖に重要であることは知られていたが、どのように調節されているのかこれまで不明だった。

大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学
Soluble T-cadherin promotes pancreatic β-cell proliferation by upregulating Notchsignaling (iScience 2022年11月8日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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