GLP-1受容体作動薬に対する応答は特定のDNA変異をもつ患者で悪化 肺疾患は糖尿病の合併症 消化管が血糖調節に関与 50万人のデータ解析

2023.09.20
 GLP-1受容体作動薬に対する応答は、遺伝子に特定のDNA変異をもつ患者では悪くなることが、英サリー大学による、英国バイオバンクを含む17件の研究に参加した約50万人の患者の遺伝子データ解析で明らかにになった。

 小腸や結腸などの消化管が、血糖値の調節で重要な役割を果たしており、また糖尿病が肺の合併症を直接引き起こす可能性があることもはじめて明らかにした。

特定のDNA変異をもつ患者はGLP-1受容体作動薬に対する応答が悪い 層別化が必要である可能性

 遺伝子に特定のDNA変異をもつ患者は、GLP-1受容体作動薬に対する応答が悪いことが、英サリー大学などによる、英国バイオバンクを含む17件の研究に参加した約50万人の患者の遺伝子データ解析で明らかになった。研究成果は、「Nature Genetics」に掲載された。

 英米などの18の大学や研究機関が参加している「グルコース・インスリン関連形質メタ解析コンソーシアム(MAGIC)」は、ゲノムワイド関連解析(GWAS)データから、血糖や代謝形質に影響を与える関連遺伝子座を特定するための共同研究。

 サリー大学統計マルチオミクスのInga Prokopenko教授らは今回、MAGIC研究の一環として英国バイオバンクを含む17件の主要な研究から、さまざまな背景をもつ約50万人の患者の遺伝子データを解析した。

 その結果、2型糖尿病や肥満症の治療に使用されているGLP-1受容体作動薬に対する個々の患者の応答は、GLP-1受容体の標的遺伝子のDNA変異に依存する可能性があることが示された。

 研究グループは今回、GLP-1受容体の遺伝子コードのDNA変異体の機能的および構造的特徴付けを実施した。

 その結果、GLP-1受容体機能およびGLP-1受容体作動薬に対する応答に対する影響は、患者が保有するGLP-1受容体遺伝子をコードするDNA変異体に応じて、個人ごとに異なる可能性があることが示された。

 GLP-1受容体遺伝子に特定のDNA変異をもつ患者は全体として、GLP-1受容体作動薬による薬物治療の恩恵を受けられる可能性が低くなるとしている。

 「医師はGLP-1受容体作動薬の処方に対しもっと注意を払うべきかもしれない。この薬を患者にうまく適合させることで、治療が効果を発揮する可能性はさらに高くなるだろう」と、Prokopenko教授は指摘している。

2型糖尿病が肺の合併症を引き起こす可能性を指摘 血糖値が上がると肺活量と機能が低下

 研究グループはまた、2型糖尿病が肺の合併症を直接引き起こす可能性があることもはじめて明らかにした。

 過去の研究では、拘束性肺疾患や線維症、肺炎などの肺疾患は、2型糖尿病患者で比較的一般的にみられることが指摘されているが、これまで2型糖尿病が肺の損傷を直接引き起こすのか、それとも両方の疾患に共通する別の因子があるのかは不明だった。

 研究グループは、メンデルランダム化と呼ばれる統計手法を使用して、喫煙や座位時間の長い生活行動の要因による高血糖が肺機能障害に関連しているかどうか、また一方が他方の原因となっているかを解明した。

 肺機能を、2つの一般的な肺活量測定テストを実施。この分析により、2型糖尿病患者の血糖値が高いと肺機能が直接損なわれることを明らかになった。

 たとえば、平均血糖値が72mg/dLから216mg/dLに上昇すると、肺活量と機能は20%低下する可能性があることが、研究データのモデリングで示された。

 英国では呼吸器疾患が死因の第3位となっており、イングランドとウェールズでは呼吸器疾患による入院が過去20年間で2倍に増えていることから、今回の研究結果は、医療専門家が2型糖尿病と肺疾患の合併に注意する必要性を浮き彫りにしたとしている。

 「肺疾患を早期に診断して治療できれば、数千人の2型糖尿病患者の命が救われる可能性がある」と、Prokopenko教授は指摘している。

血糖値調節での消化管の役割を解明 腸内マイクロバイオームが影響

 今回の研究では、これまでグルコース代謝にあまり関与していないと思われていた腸管の役割が特定された。

 遺伝子データと発現データを組み合わせた解析により、これまで解明されている膵臓の役割に加えて、消化管である小腸・回腸・結腸が血糖値の調節で重要な役割を果たしている可能性が示された。

 食物が十二指腸に届き、そこで膵臓、肝臓、胆嚢からの消化液と混合され、空腸と回腸は食物をさらに分解し、栄養素が血流に吸収されることはよく知られている。

 大腸(結腸)は、未消化の食物から水と電解質を吸収すると同時に、腸内マイクロバイオームとして知られる多様な細菌群集を収容している。

 研究では、ヒトの腸内マイクロバイオームとグライコームが血糖値の調節に関連していることが示され、マイクロバイオーム種であるCollinsellaおよびLachnospiraceae-FCS020によるラクトースおよびガラクトースにもとづくグルコース産生の役割が強調された。

血糖値と2型糖尿病の遺伝学に新たな洞察をもたらす研究

 「今回の研究は、遺伝子が血糖値と健康状態にどのような影響を与えるかを調査した過去最大規模のものだ。GLP-1受容体作動薬に対する応答に関連する、個々の患者のDNA変異を調べることが、2型糖尿病の治療戦略を改善することにつながる可能性がある」と、Prokopenko教授は述べている。

 「世界中から100人以上の科学者が参加した研究がもたらした重要な発見は、血糖値と2型糖尿病の遺伝学について新たな洞察を与えている」としている。

 「今回の研究は、2型糖尿病での高血糖は肺損傷に直接つながる可能性があるという最初のエビデンスを提供している。今後は肺疾患が2型糖尿病の合併症として考慮されることが、肺疾患の早期診断と治療につながる可能性がある」と、論文の筆頭著者である同大学統計マルチオミクス部門の研究員であるVasiliki Lagou氏は述べている。

 「血糖値と2型糖尿病の調節における消化管の役割は十分に解明されていないが、影響力は強いと考えられる。膵臓に加えて小腸、具体的には回腸と結腸もグルコース代謝に影響を及ぼしていることを、遺伝子発現により明らかにした」と、同大学AIマルチオミクス学のAyse Demirkan氏は述べている。

Genetic study of blood glucose levels calls for stratified treatment with GLP-1R agonists in type 2 diabetes, reveals the role of the intestine, and impact on lung function (サリー大学 2023年9月7日)
GWAS of random glucose in 476,326 individuals provide insights into diabetes pathophysiology, complications and treatment stratification (Nature Genetics 2023年9月7日)
MAGIC (the Meta-Analyses of Glucose and Insulin-related traits Consortium)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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