SGLT2阻害薬が早期の糖尿病性腎症の進行を抑制 「腎機能の低下速度の変化」を指標に 早期からSGLT2阻害薬による治療を開始

2024.11.21
 岡山大学は、SGLT2阻害薬であるカナグリフロジンが、早期の糖尿病性腎症に対して腎機能の維持に有効であることを、世界的に新しい評価方法を用いた臨床試験で明らかにしたと発表した。カナグリフロジン群では、アルブミン尿が減少し、腎機能が低下しないで維持された。

 腎機能の治療開始前後の低下速度の変化を指標にして検討したところ、eGFRの傾き(eGFR slope)の変化が、CKDの早期段階での治療による腎保護能を判断するための新しいアプローチになる可能性があることが示された。

 「早期の糖尿病性腎症では、腎機能の低下速度はそれほど早くないが、今回のCANPIONE研究によって、微量アルブミン尿期にSGLT2阻害薬による治療を行うことで、腎機能の低下速度に違いが出ることが分かった。この違いは、10年先、20年先の腎機能は治療の有無により大きな差となってあらわれる可能性がある」と、研究グループでは述べている。

腎機能の低下速度の変化を指標に
糖尿病性腎症の早期からSGLT2阻害薬による治療を開始

 2019年に報告された臨床試験CREDENCE試験では、SGLT2阻害薬(カナグリフロジン)が糖尿病性腎症に有効であることが示された。この試験は、糖尿病性腎症ですでにアルブミン尿が増加している患者(顕性アルブミン尿期)を対象に実施され、カナグリフロジンが腎不全にいたる危険性を減らすとともに、腎機能の低下速度を遅くすることが報告された。

 このように糖尿病性腎症に対する治療薬の有効性を検証するためには一般的に、治療薬群とプラセボ群のあいだで、腎不全や透析あるいは一定以上の腎機能の低下がどの程度起こったかを比較する。

 しかし、この方法で早期の糖尿病性腎症の患者を対象に研究を実施すると、多くの患者に長期間治療を行う必要があり、患者の負担を考慮すると現実的ではない。

 そこで研究グループは、より早い時期(微量アルブミン尿期)からSGLT2阻害薬による治療を行うことにより、腎症の進行を阻止することができるかを検討した。そして、患者の負担を軽減しながら短期間で治療の有効性を評価するため、治療開始前後の腎機能の低下速度の変化を指標として、治療効果を判定する方法を考案した。

 臨床試験「CANPIONE研究」は、微量のアルブミン尿が出ている2型糖尿病患者を対象に、多施設共同研究として日本国内の21施設で実施した。参加した患者258人を対象に、治療開始前の検査で試験の基準に該当した群98人を、SGLT2阻害薬(カナグリフロジン)群と対照群に分け、カナグリフロジン群にはカナグリフロジン100mgを1日1回投与し、対照群ではSGLT2阻害薬以外の糖尿病治療薬を用いて治療を行い、いずれの群も日本糖尿病学会のガイドラインで示された血糖管理目標値を目指した治療を52週間行った。

 試験では、2型糖尿病で尿アルブミン/クレアチニン比(UACR)が50~300mg/g未満、eGFRが45mL/分/1.73m²以上の患者を対象に、(1) 将来的な腎機能の悪化と密接に関連するアルブミン尿の変化と、(2) 治療開始前後の腎機能低下速度の変化を検討し、両群で比較した。

* 早朝第一尿での尿中アルブミン/クレアチニン比の変化量(ベースライン-介入期(4週~52週)の経時的推移、およびeGFRの傾きの変化(介入期間 4週~52週)の傾きと介入前の傾きとの差を評価した。

 その結果、カナグリフロジン群では、対照群と比較して、アルブミン尿が経過中に30.8%有意に減少した[95%信頼区間 −42.6%~−16.8%、P=0.0002]。治療により、アルブミン尿が30%以上減少すると、将来、腎不全や透析あるいは一定以上の腎機能の低下をきたす危険性が低下することが明らかになっており、今回はその基準を上回る治療効果が得られた。

 さらに、腎機能の指標としてeGFR(推算糸球体濾過量)を用い、腎機能低下速度をあらわす検査としてeGFRの傾き(eGFR slope)を調べた。

 その結果、カナグリフロジン群では治療開始前後のeGFRの傾きの変化は1.4/年であり、対照群(−3.1/年)との差は4.4/年[95%信頼区間 0.6~7.3、P=0.0022]となり、カナグリフロジン群での腎機能の低下速度の抑制が示された。

アルブミン尿と介入前の個々のeGFRの傾き(eGFR slope)を用いたeGFRの低下に対するカナグリフロジンの効果を評価
eGFRの傾きの個人内変化がCKDの早期段階での治療による腎保護能を判断するための新しいアプローチになる可能性がある
出典:岡山大学、2024年

 研究は、岡山大学病院新医療研究開発センターの宮本聡助教、四方賢一名誉教授らの研究グループが、オランダのフローニンゲン大学医療センターのHiddo J. L. Heerspink教授らとともに考案した世界初の研究デザインを用いた臨床試験により検証したもの。研究成果は、「Kidney International」にオンライン掲載された。

 「今回の臨床試験は、小規模かつ短い研究期間で行ったが、SGLT2阻害薬を内服したグループでは、将来的な腎機能低下の指標となるアルブミン尿が減少するとともに、腎機能が維持されることが明らかになった」と、研究グループでは述べている。

 「早期の糖尿病性腎症では、腎機能の低下速度はそれほど早くないが、今回のCANPIONE研究によって、この時期(微量アルブミン尿期)にSGLT2阻害薬による治療を行うことで、腎機能の低下速度に違いが出ることが分かった。この違いは、2~3年先であればそれほど大きくはないが、10年先、20年先の腎機能は治療の有無により大きな差となる可能性がある」としている。

岡山大学病院 新医療研究開発センター
A randomized, open-label, clinical trial examined the effects of canagliflozin on albuminuria and eGFR decline using an individual pre-intervention eGFR slope (Kidney International 2024年11月)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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