日本老年学会が「高齢者の自動車運転に関する報告書」を公表 糖尿病治療の低血糖は事故に影響
高齢者の運転免許の取消件数は増加
危険運転を減らすために高齢者の個別性を考慮する必要が
日本老年学会の高齢者の運転に関するワーキンググループ(委員長:荒井秀典・国立長寿医療研究センター理事長)は、「高齢者の自動車運転に関する報告書」をまとめ公表した。
高齢運転者を取り巻く現状、疾病と運転との関係、社会参加における運転の影響力、運転に関する検査方法、安全運転技能向上のための取り組み、新しい移動手段、運転中止支援について網羅的な内容を含んでいる。
高齢化率の上昇にともない、高齢ドライバー数は近年著しく増加し、75歳以上の高齢者に限っても約667万人が免許を保有している。
高齢期の視覚・運動・認知機能の低下は運転技能の低下をまねき、事故の危険性を上昇させるため、70歳以上では高齢者講習が義務付けられ、75歳以上では講習予備検査(認知機能検査)が運転免許証の更新時に義務付けられている。
運転による交通事故の危険性が高い高齢者に対しては、免許の取り消しや自主返納を促進する仕組みが構築されている。運転免許の取消件数は増加しており、2009年から10年間で8.2倍に上昇した。取り消し者の95%以上は高齢者が占めている。
一方で、「高齢者=危険運転者」のような皮相的なイメージをもつべきではなく、まだ安全に運転が可能で運転の必要性が高い生活状況の高齢者が、何の準備もせずに運転を中止すると生活に支障をきたす可能性が高いことを理解する必要もあるとしている。
同学会では、「疾病の管理、運転に関わる定期的な検査の実施、安全運転サポートカーの活用などによって、事故リスクを減少する多層的な取り組みが求められる」「高齢者の身体・精神機能は極めて多様で、高齢運転者と危険運転者を同一視するような年齢差別的イメージは誤り」「高齢者の危険運転を減らすためには、高齢者の個別性も考慮したうえで、社会全体で多面的な取り組みをさらに推進することが必要」と強調している。
低血糖はさまざまな事故による外傷に影響
ポリファーマシーにも注意
加齢性疾患には、認知症、心臓病、糖尿病、難聴など、多彩な高齢期特有の病態があり、それらは運転に関与する認知-予測-判断-操作といった運転行動に関与する。
報告書では糖尿病について、「糖尿病は直接運転に影響を与える疾患ではないが、低血糖はさまざまな事故による外傷と影響していることが報告されている。薬物治療にあたっては低血糖にならないような注意が必要である」としている。
糖尿病治療薬のPDI(potentially driver-impairing)として、低血糖(ふるえ、集中力低下、浮遊感)を挙げている。また、高齢者の多剤服用(ポリファーマシー)について、「疾患の病状とともに、薬剤のほうでも鎮静やふらつきを増加させる薬剤の組み合わせはないかどうかを、各患者で評価する必要性がある」と指摘している。
「いずれの疾患も自動車運転を禁じることは難しいものの、一般に病状が不安定な高齢患者では、どのような疾患であれ、注意力や認識力、操作に悪影響があると考えられるため、適宜運転を控えるよう指導する」としている。
第2章 加齢と自動車運転
第3章 疾病および薬物と運転
第4章 高齢者の運転と神経疾患
第5章 認知症と運転
第6章 社会参加と運転
第7章 運転の安全性を評価する検査
第8章 運転技能向上に関するエビデンス
第9章 自動車教習所における高齢者の安全運転対策
第10章 新たな移動手段
第11章 自動車運転再開に向けたリハビリテーション
第12章 運転中止後の地域での支援
第13章 地域包括支援センターでの高齢運転者支援
第14章 高齢者の自動車運転の継続・中止に関わるケアマネジャーによる運転中止支援
付録 2020年改正道路交通法について