糖尿病悪化のカギをにぎる新たなタイプのβ細胞を発見 インスリン分泌能力は低いが高血糖ストレスには強い「Ppy系列β細胞」
β細胞の多様性 β細胞としての機能が低い「Ppy系列β細胞」に着目
研究は、群馬大学生体調節研究所分子糖代謝制御分野の深石貴大氏、中川祐子助教、藤谷与士夫教授らの研究グループが、順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学などと共同で行ったもの。研究成果は、欧州糖尿病学会(EASD)が刊行する「Diabetologia」に掲載されたて。
研究グループは、β細胞の恒常性維持メカニズムとその破綻による糖尿病発症についての研究を長年行っており、今回の研究で、膵ラ氏島(膵島)にあるが、あまり役割が明らかにされていないPP細胞の役割に着目した。
膵島にある主な4種類の内分泌細胞のうちの1つが、膵ポリペプチド(pancreatic polypeptide:PP)を産生するPP細胞。PPには摂食を抑制する作用があり、消化管の分泌運動や摂食行動などで生理的役割を演じていると考えられている。Ppy遺伝子はPPをコードする、PP細胞を特徴づける遺伝子の代表的なものだ。
研究グループは、Ppy遺伝子を発現する細胞の系譜追跡を行い、その結果、Ppy遺伝子を発現する細胞はPP細胞だけでなく、β細胞を含むさまざまな膵内分泌細胞に分化することが明らかにした。
そして、Ppy遺伝子を活性化した履歴のあるβ細胞を、「Ppy系列β細胞」と命名した。この細胞集団は、普段はβ細胞のうちの15%程度を占め、マウス膵島の辺縁部に位置するという特徴があることが分かった。
そこで、シングルセル遺伝子発現解析を用いて、膵島にある細胞の網羅的な遺伝子発現解析を行った。この解析法は、細胞集団の転写産物を1細胞ごとに網羅的に解析するもので、1つひとつの細胞や分子の個性を維持したまま解析することができる。
その結果、β細胞は、遺伝子発現プロファイルの異なる7つの亜集団に分類されることが分かった。また、そのなかに、PP細胞と遺伝子発現プロファイルが似ているβ細胞を見出し、「Ppy系列β細胞」の存在が確認された。
次に、2つのβ細胞系列、すなわち「Ppy系列β細胞」とそれ以外の「non-Ppy系列β細胞」の機能の違いを調べた。まず両者間での遺伝子発現プロファイルの相違を調べた。
その結果、「Ppy系列β細胞」は「non-Ppy系列β細胞」よりも、グルコース応答性のCa2+流入反応が低いことが示された。「Ppy系列β細胞」はβ細胞としての機能は低い一方で、何らかの理由で高血糖ストレス下で生き残りやすいと考えられる。
つまり、糖尿病患者の膵島では、高グルコースに反応しインスリンを分泌する能力は低いが、ストレスには強い「Ppy系列β細胞」が多数を占めることが、糖尿病の発症や進展に関わっていると考えられる。このようなβ細胞が糖尿病の膵島で割合が増えることが、糖尿病の発症や悪化に関係している可能性がある。
「今後、Ppy系列β細胞の詳しい特徴や、Ppy系列からnon-Ppy系列β細胞への転換方法などを明らかにすることで、糖尿病の進展メカニズムの解明や、あらたな治療法の開発につながることが期待されます」と、研究グループでは述べている。
生体調節研究所分子糖代謝制御分野 藤谷研究室
Characterisation of Ppy-lineage cells clarifies the functiona l heterogeneity of pancreatic beta cells in mice(Diabetologia 2021年9月9日)