サルコペニア・軽度認知障害を早期判別できる新たな指標 フェーズアングルによる筋質評価が有用 国立長寿医療研究センター

中高年のサルコペニア・軽度認知障害を筋質評価・フェーズアングルにより早期判別
国立長寿医療研究センターなどは、中高年のサルコペニアおよび軽度認知障害(MCI)の早期判別に、フェーズアングル(PhA)による筋質評価が有用であることを明らかにした。フェーズアングルは、新たなサルコペニア指標になりえるとしている。
フェーズアングル(位相角)は、生体インピーダンス法(BIA法)による身体組成分析で得られる生体指標のひとつで、細胞の健康状態や筋質を反映する。細胞膜で発生する電気抵抗を角度であらわし、高値の場合はサルコペニアのリスクが低く、低値になるとそのリスクが上昇する。
研究成果は、「Elder-safe study(健診受診者における脳心血管病、サルコペニアおよびコグニティブフレイルの早期診断指標・評価パネルの構築に関する研究)」の横断解析によるもの。
研究グループは、京都府の武田病院健診センターで一般健診を受診した40歳以上の263人(男性 163人、女性 100人)を対象に、5種類の骨格筋評価指標と認知機能(MoCA-J)との関連を解析した。
その5種類の指標は、(1) 筋量指標:四肢骨格筋量指数[SMI=四肢筋量(ASM)/身長2]、ASM/BMI、(2) 筋力指標:握力、握力/上肢骨格筋量、(3) 筋質指標:フェーズアングル(PhA)
その結果、女性では年齢にかかわらず、PhAが高い(筋質が良い)ほど、MCIである可能性が低くなることが示された。
MCIを早い段階で発見し、将来の発症を予測するための指標として、PhAが使える可能性があるとしている。
さらに、PhAと6つの認知機能下位項目(記憶、言語、遂行機能、注意、視空間認知、見当識)との相関を分析した結果、女性では「記憶、言語、遂行機能、注意」の4項目、男性では「記憶」と正の関連が認められた。
つまり、男女ともに筋質が、認知機能のなかでも、とりわけ認知機能低下の初期にあらわれる「記憶」と関連しており、PhAにより筋質評価が認知機能低下の初期症状を捉えられる可能性が示唆された。
女性におけるサルコペニア関連指標とMCIとの関連解析
年齢で調整したロジスティック回帰分析


国立長寿医療研究センター ジェロサイエンス研究センターの浅原哲子センター長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Cachexia, Sarcopenia Muscle」に掲載された。
「本研究で得られた筋質評価・PhAに関する新規知見は、超高齢社会の日本で増加しているサルコペニアと認知症との関連性を示し、また、これらの発症・進展メカニズムの解明やリスク評価に資するもので、今後のサルコペニアと認知症の予防戦略や早期診断法の開発等につながるものと期待されます」と、研究者は述べている。
国立長寿医療研究センター研究所 ジェロサイエンス研究センター
Phase Angle Is a Potential Novel Early Marker for Sarcopenia and Cognitive Impairment in the General Population (Journal of Cachexia, Sarcopenia Muscle 2025年5月8日)