クローズドループ治療が若年1型糖尿病患者の認知機能に対し保護的に働く可能性

2022.09.13
 ハイブリッドクローズドループ(HCL)システムによるインスリン治療の認知機能関連指標への影響を検討した結果が、「Nature Communications」に8月30日掲載された。介入期間6カ月で標準療法に比較し、一部の局所脳体積やIQスコアの変化に有意差が認められたという。米スタンフォード大学のAllan L. Reiss氏らによる研究。

 1型糖尿病患者では、低血糖または高血糖が脳機能に負荷を及ぼすことを示唆する複数の研究報告が存在する。特に小児期の発達段階では、低血糖の影響がより大きく現れるのではないかと考えられている。一方、現在までに、低血糖を極力避けながら良好な血糖コントロールを目指す治療努力が続けられてきており、近年登場したHCLは従来療法よりその実現可能性が向上した。HCLによって低血糖を抑え、血糖変動を可及的に抑制し得れば、1型糖尿病による認知機能への影響を抑止できる可能性がある。L. Reiss氏らはこのような背景に基づき、以下のパイロット研究を行った。

 研究対象は、8歳未満で1型糖尿病を発症した14~17歳の患者46人。無作為にHCL群と標準療法(SC)群に分類。SC群にはインスリン頻回注射、またはクローズドループではないポンプによる治療を行った。6カ月の介入期間の前後に、画像検査による局所脳体積とIQスコアを測定し、変化量の群間差を検討した。なお、2人が介入中に脱落し、他の2人はベースラインデータが不十分だったため、解析は各群21人、計42人で行われた。

 結果について、まず血糖コントロール指標を見ると、介入によるHbA1cの変化量の群間差は非有意だったが、平均血糖値(-0.57対-32.75mg/dL、P=0.000)、変動係数(1.29対-2.31、P=0.044)などは改善幅がHCL群で有意に大きく、%TIR(24時間のうち血糖値が70~180mg/dLの範囲にあった時間の割合)の改善幅も同様の結果だった(P=0.000)。また、低血糖(70mg/dL未満)の時間帯の変化は有意差がなかったが、高血糖(250mg/dL超)の時間帯はHCL群の方がより少なくなっていた(P=0.000)。

 次に、画像検査で把握した局所脳体積について見ると、皮質表面積(P=0.018)と尾状核体積(P=0.017)の変化量について有意な群間差が認められ、HCL群では非糖尿病の若年者の変化により近い変化を示していた。灰白質体積、皮質厚、海馬体積の変化には、有意差がなかった。

 続いてIQスコアについては、知覚推論指標スコアに有意差が見られ、HCL群でより大きく上昇していた(P=0.009)。言語理解指標とフルスケールIQの変化は有意差がなかった。なお、研究参加に伴う有害事象は報告されていない。

 著者らは、「われわれの研究結果は、血糖コントロールの有意な改善によって、おそらく糖尿病によるものと考えられる脳へのマイナスの影響を抑制、またはプラスへと反転させることができるのではないか、という希望を与えてくれる」と述べている。

 なお、数名の著者が、製薬・医療機器関連企業との金銭的関係の存在を明らかにしている。

[HealthDay News 2022年9月7日]

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