ALT値が示す新たな脂肪肝疾患「MASLD」のリスク ALT値が30超の場合の受診勧奨は適切 岐阜大学
MASLDのカットオフ値を検証 ALT値30を超えた場合の受診推奨は適切
岐阜大学の研究グループは、職域健康診断でのMASLDの同定についてALTとの関連を明らかにしたと発表した。
研究グループは、健康診断を受診した大学職員627人を対象に、腹部超音波検査により脂肪肝疾患の新定義であるMASLDを診断し、ALT値との関連を検討した。年齢中央値46歳の大学職員で28%(男性38%、女性18%)がMASLDを有していた。参加者のBMI中央値は23だった。
その結果、MASLDを有する受診者ではそうでない受診者と比較して有意にALT値が高いことが明らかになった[27 対 15、P<0.001]。RCS解析ではALT値の上昇とともにMASLDのオッズ比が上昇することが明らかであり、男性および女性のサブグループでも同様の結果だった。
ROC解析ではMASLDに対するALT値のAUC(ROC曲線の下の面積)は、全体で0.79、男性で0.81、女性で0.69であり、MASLDに対する特異度が90%以上となるALTのカットオフ値は「29 IU/L」であることが示された。
このように、日本肝臓学会の提唱する「奈良宣言2023」でALT値が30を超えていた場合、かかりつけ医などを受診することの推奨は、健康診断でのMASLDの観点からも妥当であることが明らかになった。
2023年に脂肪肝疾患の新定義「MASLD」(代謝性機能障害にともなう脂肪肝疾患)が提唱され、日本肝臓学会は肝疾患の早期発見・早期治療を目的として「奈良宣言2023」を提唱し、肝機能の評価に使用されるALT値が30を超えていた場合に受診することを勧めている。
研究は、岐阜大学保健管理センターの山本眞由美教授、三輪貴生氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「JGH Open」に掲載された。
「FLI」と「HSI」も診断能の高いMASLD指標に
なお研究グループは今回、「Fatty liver index(FLI)」と「Hepatic steatosis index(HSI)」についても検討した。FLIはBMI、腹囲、中性脂肪、γGTPから、HSIはAST、ALT、BMI、性別、糖尿病の有無からそれぞれ算出される指数であり、脂肪肝疾患のバイオマーカーとしてそれぞれ有用であることが報告されているが、MASLDの観点からは検討されていなかった。
その結果、ALTと同様にMASLDを有する受診者はそうでない受診者と比較して、有意にFLI[54 対 7、P<0.001]、HSI[37 対 28、P<0.001]が高値であることが示された。
RCS解析ではFLIあるいはHSIが上昇するにしたがい、MASLDのオッズ比が上昇することが示された。また、男性および女性のサブグループでも、FLIおよびHSIの上昇とともにMASLDのオッズ比が上昇した。
ROC解析では、MASLDに対するFLIのAUCは、全体で0.90、男性で0.87、女性で0.93であり、HSIのAUCは、全体で0.88、男性で0.86、女性で0.90であり、FLIとHSIの間でMASLDの検出能に有意差はなかった。
一方で、HSIでは男女間のカットオフ値の差が小さいのに対し、FLIでは男女間のカットオフ値の差が大きいことが示された。
このことから、FLIとHSIはともに健康診断でのMASLDの拾い上げに有用であることが示されたが、FLIを用いる際には男女別のカットオフ値を検討する必要性があることが示唆された。
岐阜大学保健管理センター
Usefulness of health checkup-based indices in identifying metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease (JGH Open 2024年6月17日)