【新型コロナ】「適切な外来診療により入院を防ぎうる疾患」の死亡率がパンデミック初期に上昇 東京大学

2023.06.27
 適切な外来診療により入院を防ぎうる疾患(ACSCs)の院内死亡率が、新型コロナのパンデミック初期に上昇していたことが、東京大学などの調査で明らかになった。

 とくにACSCsのなかでも急性疾患(胃腸炎や脱水など)に分類される患者の院内死亡率や病院到着後24時間以内の院内死亡率は、2020年4月の緊急事態宣言の発令以降に上昇していた。それは、院内死亡数の増加と入院患者数の減少によって説明できるとしている。

 「研究結果は、パンデミック初期の日本で、住民が適切な外来医療にアクセスできていなかった可能性を示唆している」と、研究者は述べている。

コロナ禍で外来受診数が減少 胃腸炎や脱水など急性疾患の患者の院内死亡率が上昇

 これまで、新型コロナによるパンデミックの初期に、患者の受診控えや医療機関の外来受診の制限によるものと考えられる外来受診数の減少が報告されている。

 また、新型コロナによる医療機関への診療負荷によって、入院や予定手術の待機時間が長くなったことが報告されている。

 そこで東京大学などは、日本の新型コロナのパンデミック初期で、「適切な外来診療によって入院を防ぎうる疾患(ACSCs)」による入院患者の死亡率がどう変化したのかを調査した。

 その結果、ACSCsのうち、急性疾患の患者(胃腸炎や脱水のような急性発症の疾患)の院内死亡率や、患者の病院到着後24時間以内の院内死亡率が上昇していることが明らかになった。

 これまで、カナダ・米国・日本の先行研究では、パンデミック中にACSCsによる入院数が減少していることが報告されている。しかし、それが患者にとって良かったことだったのか(健康であったということなのか)、それとも本来は入院が必要であった患者が入院できなかったことを示しているのかは明らかではなかった。

 研究結果は、パンデミック期間中に、ACSCsの急性疾患患者(その多くは発熱などの新型コロナ類似症状をきたす)が、適切な外来および入院医療にアクセスできていなかった可能性を示唆している。

 「パンデミックでは、とくに流行している疾患と同様の症状をきたしうる疾患の患者に対して、医療へのアクセスを十分に担保する対策が必要と考えられる」と、研究者は述べている。

 研究は、東京大学大学院医学系研究科の阿部計大客員研究員、宮脇敦士助教、国立国際医療研究センターの射場在紗上級研究員、ハーバードT. H. Chan公衆衛生大学院の河内一郎教授の共同研究グループによるもの。研究成果は、「JAMA Network Open」にオンライン掲載された。

「糖尿病合併症」や「高血圧」も 日本の医療制度に合わせたACSCsの定義を

 適切な外来診療によって入院を防ぎうる疾患(ACSCs:Ambulatory Care Sensitive Conditions)は、適切な外来診療が提供されることで入院が避けられうるとされる疾患や状態を示す概念。

 人口あたりのACSCsによる入院数は、米国や英国をはじめとした多くの国々で、地域住民の外来診療に対する潜在的ニーズを示す指標とみなされ、外来医療の質やアクセスを評価、検討するために用いられている。

 各国でACSCsの定義は異なるが、今回の研究ではこれまで日本の先行研究で用いられてきた英国のナショナル・ヘルス・サービスによる定義が用いられた。

 下表のように、「糖尿病合併症」や「高血圧」を含む疾患や状態が含まれており、それぞれ国際疾病分類(ICD)で定義されている。今後、日本の医療制度に合わせたACSCsの定義が求められるとしている。

出典:東京大学、2023年

 研究グループは今回、2020年4月の日本政府による緊急事態宣言を日本での新型コロナの本格的流行開始のタイミングとみなし、2020年1月~3月の月平均値と4月以降の月平均値の差と、2015年~2019年の1月~3月の月平均値と4月以降の月平均値の差を、差の差の分析(Difference-in-differences)と呼ばれる手法により比較した。分析には、匿名化された242の急性期病院の診療データベースを使用した。

 2020年の緊急事態宣言前後の死亡数の変化から、2015年~2019年の同時期の死亡数の変化を差し引くことで、新型コロナ流行自体とそれに付随する社会的変化による死亡数の変化を推定することができる。

 期間中にACSCsに該当する病名での入院が2万8,321件(年齢中央値76歳、女性が45.9%)あり、2015年~2019年に2万4,261件、2020年は4,060件が観測された。

 ACSCs入院のうち、急性胃腸炎や脱水のような急性疾患での入院が7,301件(25.8%)、うっ血性心不全のような慢性疾患での入院が1万7,015件(60.1%)、肺炎球菌性肺炎のような予防接種によって予防可能な疾患による入院が4,005件(14.1%)含まれていた。これらの入院患者のなかで2,117件(7.5%)が院内で亡くなった。

 分析した結果、2020年時点でのパンデミックにより、ACSCsのなかで急性疾患(胃腸炎や脱水のような急性発症の疾患)による院内死亡率が2019年以前と比較して、71%(95%信頼区間 16~154)上昇していたことが明らかになった。

 また、患者が病院に到着してから24時間以内の院内死亡率が87%(95%信頼区間 19~196)上昇した。この院内死亡率の上昇は、入院数の減少だけではなく、急性疾患を中心とした院内死亡数の増加に起因していた。

出典:東京大学、2023年

 この結果は、患者の入院時点での年齢、性別、合併症指標を統計的に調整した後も同様の傾向を認められた。また、24時間以内院内死亡例の入院病名を比較すると、急性胃腸炎や脱水、細菌性肺炎の割合が増加していた。

 ACSCsのなかで慢性疾患(うっ血性心不全や喘息のような長期管理が必要な疾患)による入院では、死亡率や死亡数の変化が明らかではなかった。

適切なタイミングで外来医療にアクセスできていなかった可能性を示唆

 「適切な外来診療によって入院を防ぎうるとされているACSCsにも関わらず、2020年4月以降に急性疾患患者を中心に院内死亡数の増加を認めたことは、パンデミック期間中に患者が適切なタイミングで質の担保された外来医療にアクセスできていなかった可能性を示唆している」と、研究グループでは述べている。

 考えられる具体的なメカニズムとしては、これまで先行研究で指摘されているように、患者が新型コロナに感染することを恐れて医療機関への受診を控えて、病状が悪化してしまった可能性がある。

 加えて、2020年時点で行政は発熱患者に対して、直接医療機関に受診するのではなく、保健所に連絡をとり、疫学的調査やPCRテストを受けることが推奨されていた。

 その結果、保健所への電話はつながりにくくなり、厳しいPCRテストの適応条件(新型コロナ患者との濃厚接触歴、発熱の持続、呼吸苦、2週間以内の流行地域への旅行など)も相まって、多くの発熱患者が医療機関にかかれずに自宅で療養していたと考えられるとしている。

 そのような外来医療へのアクセスの低下が、患者の重症化を招き、院内死亡数の増加につながった可能性がある。また、パンデミック期間中に救急搬送先の病院を探す時間が長くかかっていたことも報告されており、入院医療へのアクセスも低下していた可能性がある。

 「加えて、日本でパンデミック初期の急性心筋梗塞や腹部緊急手術の成績を調べた研究では、質が保たれていたことが報告されており、発熱患者のように新型コロナに類似した症状を呈している患者に対する入院医療の質やアクセスがとくに低下していた可能性がある」と、研究グループでは指摘している。

 「新型コロナパンデミックのような公衆衛生危機では、流行している疾患と同様の症状をきたしうる疾患の患者に対して、医療へのアクセスを担保する対策が必要だろう」としている。

東京大学大学院医学系研究科
In-Hospital Deaths From Ambulatory Care–Sensitive Conditions Before and During the COVID-19 Pandemic in Japan (JAMA Network Open 2023年6月22日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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