十分に眠れていると感じている人も45%は睡眠不足が疑われる 自宅で簡単に睡眠時脳波を計測できるサービス

2025.06.10
 睡眠に不調を感じている人の66%は、客観的な睡眠計測で問題がなく、逆に、十分に眠れていると感じている人の45%に、睡眠不足が疑われることが、筑波大学とS'UIMINの研究で示された。

 「睡眠障害を早期発見し効果的に介入するためには、本人の自覚的な睡眠評価だけでは不十分であり、客観的な睡眠計測とそれにもとづく医師による総合的な評価が重要と考えられる」と、研究者は述べている。

 一方、日本睡眠学会は医療機関が掲げる診療科に、新たに「睡眠障害」標榜を加えるよう国に要望している。

十分に眠れていると感じている人も45%は睡眠不足が疑われる

インソムノグラフ
脳波で睡眠検査 (S'UIMIN)

 睡眠に不調を感じている人の66%は、客観的な睡眠計測で問題がなく、逆に、十分に眠れていると感じている人の45%に、睡眠不足が疑われることが、筑波大学とS'UIMINの研究で示された。

 研究代表者は、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)の柳沢正史教授。研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)」に掲載された。

 「睡眠障害を早期発見し効果的に介入するためには、本人の自覚的な睡眠評価だけでは不十分であり、客観的な睡眠計測とそれにもとづく医師による総合的な評価が重要と考えられる」と、研究者は述べている。

 筑波大学発のスタートアップであるS'UIMINは、自宅で簡単に睡眠時脳波を計測できる「インソムノグラフ(InSomnograf)」を開発。インソムノグラフは、PSG検査と同等の精度で睡眠を測定でき、すでに睡眠健康診断に活用されているとしている。

 研究グループは、睡眠障害の治療を受けていない20~79歳(平均年齢47.3歳)の被験者421人から集めた、健康診断の一環としてインソムノグラフを活用し、日常生活のなかでの複数夜の睡眠脳波などの測定データと、自覚的な睡眠状態などを尋ねる質問票の回答を分析し、医師が総合的に評価した客観的な睡眠状態と、被験者の自覚的な睡眠状態を比較した。

出典:筑波大学、2025年

睡眠状態を正確に把握するには脳波測定などの客観的な計測が望ましい

 その結果、睡眠に不調を感じている人の66%に客観的な計測で問題が確認されない一方で、自分では十分に眠っていると感じている人の45%に睡眠不足が疑われることが示された。また、自覚的な「睡眠の質」の評価も、客観的な「睡眠の深さ」「短い覚醒の有無」「睡眠時無呼吸症候群のリスクの有無」をほとんど反映していなかった。

 睡眠中のことはほとんど記憶に残らないため、睡眠状態を正確に把握するには脳波測定などの客観的な計測が必要となる。しかし、日常生活で睡眠を実際に測定する手段は限られており、睡眠検査の標準法である終夜睡眠ポリグラフ(PSG)検査には、(1) 原則的に入院検査が必要とされるため患者の負担が大きい、(2) 日常環境での睡眠状態を検査できない、(3) 実施できる医療機関と検査キャパシティが限られるといった課題がある。

 結果として、眠ろうと思っても眠れない睡眠障害である「不眠症」の多くは、本人の「眠れない」という自覚にもとづいて診断、治療が行われている現状がある。

 そのため、自分で感じている睡眠が客観的な睡眠状態と乖離している場合、極端なケースでは、実際は眠れているのに「眠れない」と感じていることで不適切な治療を受けたり、反対に自覚がない場合は、重大な睡眠障害の予兆を見逃してしまったりすることが懸念されるとしている。

診療科に新たに「睡眠障害」を加えるよう国に要望 日本睡眠学会

 日本睡眠学会は医療機関が掲げる診療科に、新たに「睡眠障害」標榜を加えるよう国に要望している。

 5月に参議員会館で開催された、超党派の「国民の質の高い睡眠のための取り組みを促進する議員連盟」の総会で、同学会理事長の内村直尚氏(久留米大学学長)が、「睡眠障害」標榜に向けての進捗や、各省庁、関連学会との協議について時系列に説明し、厚生労働省医政局長に「標榜診療科名についての要望」を提出した経緯を報告した。

 同学会では、「不眠症は罹患頻度の⾼い代表的な睡眠障害のひとつで、成⼈の30%以上が⼊眠困難、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠困難などいずれかの不眠症状を有し、6〜10%が不眠症(原発性不眠症、精神⽣理性不眠症、その他の⼆次性不眠症など)に罹患している」としている。

 「不眠(とくに慢性不眠)は、眠気、倦怠、集中困難、精神運動機能低下、抑うつや不安など多様な精神・⾝体症状(QOLの障害)をともなうことが多く、その結果、不眠症は⻑期⽋勤や医療費の増加、⽣産性の低下、産業事故の増加など、さまざまな⼈的および社会経済的損失をもたらすことが明らかとなり、公衆衛⽣学上の⼤きな課題のひとつとなっている」としている。

筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構 (IIIS)
脳波で睡眠検査 (S'UIMIN)
Discrepancies between subjective and objective sleep assessments revealed by in-home electroencephalography during real-world sleep (Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS) 2025年1月16日)

一般社団法人 日本睡眠学会
睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]
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