GLP-1受容体作動薬などによる減量が筋肉減少につながる可能性 筋肉の低下は糖尿病リスクと関連 栄養サポートが必要

2024.11.07
 GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬が投与された肥満症および/あるいは2型糖尿病の患者の食事摂取量を定量化した10件の臨床研究を解析した結果、体重や血糖の管理が改善し、患者の食事の総エネルギー摂取量はプラセボ群と比較し16~39%減少したことが示された。

 一方、食事量の減少による急激な体重減少にともない、主要栄養素の摂取量では、炭水化物・タンパク質・脂肪の摂取量が減少したことも分かった。微量栄養素ではカルシウム、マグネシウム、ビタミンB12、鉄などの必須ビタミンやミネラルの不足を引き起こす可能性も指摘している。

GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬による治療では栄養サポートも必要

 研究は、米ワシントン州シアトルで食事支援サービスを提供しているIntegrative Medical Weight ManagementのSandra Christensen氏らが発表したもので、論文は「Obesity Pillars」に掲載された。

 GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬は適応症と処方に応じて、薬の投与量が異なる場合があるものの、食欲、副作用、または薬自体の作用機序の違いを通じて、間接的に筋肉減少に影響を与えている可能性がある。

 筋肉減少のリスクは一般的に加齢とともに増加するが、とくに糖尿病患者ではこれらの薬剤の使用により、サルコペニアのリスクの増加や、筋肉減少によるグルコースの取り込みの阻害、筋肉量・強度・質・機能の低下が懸念されるとしている。

 筋肉量の低下につながる要因としては、インスリン抵抗性、筋肉への脂肪蓄積、ミトコンドリアおよび幹細胞の機能不全、体重の増減、身体活動の不足、エネルギーとタンパク質の摂取不足などを挙げている。

 体重増加サイクル(体重減少とリバウンドを繰り返す、ヨーヨーダイエットなど)の既往がある患者や、運動療法をともなわずに体重を減らした患者は、筋肉減少のリスクが高くなることも示された。

 さまざまな減量介入の研究では、総体重減少の11~50%は除脂肪体重の減少に起因している可能性が指摘されており、これには骨格筋の減少が含まれると考えられる。肥満関連のサルコペニアは、体重管理環境では若年患者や中年女性にも発生する可能性があるとしている。

 「GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬による治療を受けている患者では、食事摂取量の減少や食事の質の悪さが、筋肉減少の一因となっている可能性がある。とくに筋肉量、筋力、機能の低下は、2型糖尿病のリスクと関連しており、成人患者の転帰不良リスクの増加が予測される。これらの薬剤による治療を受けている患者に、最適な栄養サポートを提供することが望まれる」と、研究者は指摘している。

 「GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬による治療を受けている患者向けの食事ガイドラインは現状ではほとんどない。2型糖尿病患者以外でも、高齢者のサルコペニアは、身体機能の低下、QOLの低下、生存率の低下などの転帰不良と関連しているため、筋肉の健康をサポートするために、十分なタンパク質の摂取を指導することなどが重要となる。今後の研究では、抗糖尿病薬および抗肥満薬とプロトコル使用後の栄養状態の悪化リスクの関連を調べる必要がある」としている。

 なお、今回の解析の対象となった10件のうち、8件では肥満症あるいは2型糖尿病の患者にGLP-1受容体作動薬あるいはGIP/GLP-1受容体作動薬を投与した結果、プラセボ群と比較してエネルギー摂取量は減少した。残りの2件では、投与患者群と、食事や生活スタイルについてのカウンセリングを受けた患者群と比較した結果、エネルギー摂取量に差はなかったと報告された。

GLP-1受容体作動薬による治療が筋肉量に与える影響を調査

 ドイツ中央糖尿病協会(DZD:Deutsches Zentrum fuer Diabetesforschung)が発表した別の研究では、磁気共鳴画像法を用いた最新の知見と追加研究により、GLP-1受容体作動薬による骨格筋の変化が正常で適応的なプロセスをたどった場合は、肥満症の患者の体重減少はインスリン感受性の改善と筋肉の脂肪減少につながり、筋肉の質の向上につながることが示されている。研究成果は「Circulation」に掲載された。

 ただし、これらの治療に対する感受性の高い患者の場合、より大きな減量が筋肉量に悪影響を及ぼす可能性があるという懸念は依然としてあるとしている。

 とくに高齢患者やフレイルのある患者が、これらの治療の選択により影響を受ける可能性があり、そうした患者を対象とした、GLP-1受容体作動薬ベースの治療と組み合わせた、筋肉量を維持あるいは改善するための薬理学的治療を開発する必要があるとしている。

 「GLP-1受容体作動薬などによる減量治療による筋肉の変化が、筋肉に悪影響を与えるのか(不適応性)、減量に対する正常な反応なのか(適応性)、さらには筋肉の健康や機能を改善するのかを明らかにすることが必要とされている」と、テュービンゲン大学ヘルムホルツ糖尿病・代謝疾患研究所(IDM)のAndreas Birkenfeld所長は述べている。

 「患者と医師が、使用される薬剤が筋肉量にどのような影響を与えるかを理解することは重要だ。将来的にはさらに多くの患者がこれらの薬剤を使用することが予想される」としている。

Dietary intake by patients taking GLP-1 and dual GIP/GLP-1 receptor agonists: A narrative review and discussion of research needs (Obesity Pillars 2024年9月)

Effect of treatment with receptor agonists on muscle mass (ドイツ中央糖尿病協会 2024年11月4日)
Muscle Mass and Glucagon-Like Peptide-1 Receptor Agonists: Adaptive or Maladaptive Response to Weight Loss? (Circulation 2024年10月14日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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