2型糖尿病患者を対象にモバイルヘルス介入 モバイルアプリで糖尿病診療の質向上を目指す 岐阜大学などがコホート研究を開始

2022.01.19
 岐阜大学医学系研究科糖尿病・内分泌代謝内科学/膠原病・免疫内科学(矢部大介教授)は、モバイルヘルスアプリなどを手がけるH2と共同で、「インスリン/GLP-1受容体作動薬で治療中の2型糖尿病患者を対象としたモバイルヘルス介入効果に関するコホート研究」について、研究を開始すると発表した。

IoT技術を活用して糖尿病診療の質向上を目指す

 糖尿病の治療で、医療従事者が患者の食事や運動など日常生活の状況を把握したうえで、適切なアドバイスを提供することが重要となる。こうした背景から、IoT(さまざまなモノがインターネットに接続され情報交換する仕組み)の技術を活用して食事や運動の実施状況や血糖値の変化を簡便に収集し、医療従事者や患者が直感的に把握できるアプリを用いたモバイルヘルスが世界的に注目されている。

 「インスリン/GLP-1受容体作動薬で治療中の2型糖尿病患者を対象としたモバイルヘルス介入効果に関するコホート研究」では、糖尿病患者がH2のモバイルアプリ「シンクヘルス」を用いて、血糖値や体重、食事、運動の記録をとり、診察時に医師と共有することが、医師・患者間のコミュニケーションを効率化し、血糖値や体重のコントロールを改善するかを検討する。また、糖尿病患者の生活の質(QOL)やセルフケア行動に与える影響も検討する。

 研究に参加するすべての糖尿病患者は、体重計と血圧計が貸与され、無作為に介入群もしくは従来群に割り付けられる。介入群の患者は、シンクヘルスを使用し、血糖値や体重、血圧、食事、運動の記録をアプリに登録する。血糖値や体重、血圧は、シンクヘルスのデータ転送機能により自動登録される。

 医師や看護師、管理栄養士などの医療従事者は、診察時にアプリとクラウド連携している閲覧画面「シンクヘルスプラットフォーム」を用いて、介入群の患者のグラフ化された血糖値や体重などの記録を確認し、必要なアドバイスを行う。なお、従来群の患者では研究期間中、シンクヘルスやシンクヘルスプラットフォームは用いない。

研究で使用するモバイルヘルスのイメージ
アプリに記録された種々のデータを医療従事者が診察時に活用し適切なアドバイスを行う

アプリに記録されたデータを医療従事者が診察時に活用し、適切なアドバイスを可能に

 糖尿病の治療で、医療従事者が患者の食事や運動など日常生活の状況を把握したうえで、適切なアドバイスを提供することは重要だが、限られた診察時間のなかで、患者の日々の食事や運動の実施状況や血糖値の変化を医療従事者が把握して、適切なアドバイスを行うことは必ずしも容易ではない。

 こうした課題の解決の一助として、近年、IoTを活用して血糖値や体重、血圧などの情報を自動記録するとともに、食事や運動の実施状況や服薬・注射状況を記録し、診察時に医師や看護師、管理栄養士などの医療従事者と共有するツールとしてモバイルヘルスが注目されている。

 「日本の糖尿病の診療におけるモバイルヘルスは、医療従事者と患者のコミュニケーションを良好化し、血糖値や体重のコントロール、さらには糖尿病患者の生活の質(QOL)を改善しうるツールとして世界的に期待される一方、日本の糖尿病診療における効果や位置づけについては明確ではありません。こうした背景から、岐阜大学では、モバイルヘルスが糖尿病の診療に与える影響を検証するため、今回のコホート研究を実施します」と、研究グループでは述べている。

 「研究を通して、日本の糖尿病の診療におけるモバイルヘルスの有効性や課題を明らかにし、実臨床でのモバイルヘルス活用時の留意点を明確化することができると期待しています。また、専門医不足が深刻な問題となっている岐阜県で、糖尿病患者に対して、かかりつけ医と専門医がモバイルヘルスを用いて患者さんのデータを共有することで、質の高い診療を提供することができる可能性も将来的には期待できます」。

 さらに、「新型コロナウイルス感染症に代表される新興感染症により医療機関に来院できない場合の一時措置的なオンライン診療でも、患者の状態を把握してより質の高い医療を提供できる可能性もあります」としている。

インスリン/GLP-1受容体作動薬で治療中の2型糖尿病患者
を対象としたモバイルヘルス介入効果に関するコホート研究


記録した血糖値や体重の記録をグラフ化、糖尿病治療に関連するコンテンツの閲覧機能、他の糖尿病患者と意見交換可能な仲間機能を搭載
 同研究は、インスリンもしくはGLP-1受容体作動薬で治療中の2型糖尿病患者(20歳から75歳、スマートフォンの利用が可能な人)を対象として、糖尿病診療におけるモバイルヘルス使用の効果や課題を調査することを目的としている。

 岐阜大学医学部附属病院 糖尿病代謝内科/免疫・内分泌内科、岐阜市民病院糖尿病・内分泌内科、岐阜県総合医療センター 糖尿病・内分泌内科、松波総合病院 糖尿病・内分泌内科のいずれかに通院し、同研究の趣旨を理解し、参加に同意が得られ、かつ種々の参加条件を満たす2型糖尿病患者180人をリクルートし、介入群と従来群にランダムに割り付ける。

 介入群の患者は、モバイルアプリ「シンクヘルス」を使用し、血糖値や体重、血圧、食事、運動の記録をアプリに登録する。血糖値や体重、血圧は、シンクヘルスのデータ転送機能により自動登録される。従来群の患者は研究期間中、シンクヘルスを用いないが、すべての患者は観察期間中、体重計、血圧計の貸与を受ける。

 医師や看護師、管理栄養士などの医療従事者は、診察時にアプリとクラウド連携している閲覧画面「シンクヘルスプラットフォーム」を用いて、介入群の患者のグラフ化された血糖値や体重などの記録を確認し、必要なアドバイスを行う。

 介入群、従来群の患者を6ヵ月間観察し、6ヵ月間のHbA1cの変化量を主要評価項目として比較する。さらに体重、セルフケア行動評価尺度(SDSCA)、食事摂取頻度調査(FFQ)、自己注射アドヒアランス、糖尿病治療関連QOL(DTR-QOL)、低血糖頻度、アプリ継続率、医師・管理栄養士の業務効率(診察・指導時間を含む)についても副次評価項目として比較する。

 「シンクヘルスアプリ」は、日々の血糖値や体重、血圧などの計測データや食事・運動の状況を入力でき、入力したデータを分かりやすくグラフ表示するアプリ。Bluetooth機能を搭載する血圧計や体重計、自己血糖測定器などの機器を使用すれば、計測データを自動的に記録することができる。また、AIを搭載しており、患者が記録する各種データにもとづき、定期的にメッセージを配信することで、糖尿病の自己管理に向けたモチベーション向上がはかれると期待される。同アプリは、国内では23万人、世界では78万人(2021年12月現在)のユーザー登録実績がある。

シンクヘルスプラットフォーム
 医師や看護師、管理栄養士などの医療従事者は、診察時にアプリとクラウド連携しているシンクヘルスプラットフォームを用いて、患者が入力した血糖値や体重、血圧、歩数などのデータ、服薬・注射状況、食事の写真を確認し、診療に活かすことができる。

岐阜大学医学系研究科糖尿病・内分泌代謝内科学/膠原病・免疫内科学
シンクヘルスアプリ - Health2Sync (H2)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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