2型糖尿病患者の「心理的インスリン抵抗性」の要因 インスリン治療開始を支援する効果的な戦略とは?

2022.03.24
 日本人の2型糖尿病患者でのインスリン治療を開始する動機付けとして、3つのテーマが明らかになったと、名古屋大学が発表した。

 インスリン導入に影響を与えるテーマは、(1) インスリンが適切な治療法であるという医療者からのアドバイス、(2) インスリンペン・針の使い方や注入方法に関する医療者によるデモンストレーション、(3) インスリンに対する諦念/降伏/受容――だという。

インスリン治療開始の遅れの背景にあるものは?

 糖尿病の患者にとって、インスリン注射を開始するには心理的なハードルが高いことが知られている。そこで名古屋大学の研究グループは、7ヵ国の国際共同研究に参加した日本人患者のうち6人に電話インタビューを実施し、インスリン注射開始前後の考えや認識、関連する要因の理解と、反応の背後にある理由を探索した。

 インタビューデータは、名古屋大学教育学部の大谷尚名誉教授が開発した「Steps for Coding and Theorization(SCAT)」と呼ばれる質的研究手法を用いて分析した。

 その結果、インスリン導入に影響を与えるテーマとして、(1) インスリンが適切な治療法であるという医療者からのアドバイス、(2) インスリンペン・針の使い方や注入方法に関する医療者によるデモンストレーション、(3) インスリンに対する諦念/降伏/受容――の3つが抽出された。

 インスリン注射を勧める際には、医療者はこれら3つのテーマにもとづき、インスリンの有用性を説明し、注射の手順を実演して説明することが重要だという。

 医療従事者の行動は、インスリン開始に対する消極性を緩和するのに役立つ。また、治療開始の理由として、インスリンに対する諦念/降伏/受容が確認されたが、これは、「インスリン注射以外の選択肢はないと感じる」「しかたがない」などの発言にもとづいており、日本人患者に特有のテーマとと考えられる。

 研究は、名古屋大学大学院医学系研究科地域医療教育学寄附講座の岡崎研太郎特任准教授と高橋徳幸特任助教らの研究グループが、イーライリリー・アンド・カンパニー(米国)とベーリンガーインゲルハイム(ドイツ)からの研究費の支援を受けて実施したもの。研究成果は、「Primary Care Diabetes」にオンライン掲載された。

出典:名古屋大学、2022年

医療従事者の行動は、インスリン開始に対する消極性を緩和するのに役立つ

 2型糖尿病は進行性であるため、多くの患者は最終的には血糖コントロールを維持するためにインスリン注射が必要となる。インスリン治療は適切に血糖コントロールができる割合が高いが、治療開始が遅れることがよくある。

 インスリン治療を医療者から勧められた際、糖尿病患者が感じる抵抗感は「心理的インスリン抵抗性」として知られ、過去の研究で検討されている。

 心理的インスリン抵抗性は、臨床的惰性やインスリンに関する知識不足などの医師関連因子と、「注射への恐怖」「体重増加や低血糖への恐怖」「インスリンの利点に関する誤解」「個人的失敗感」などの患者関連因子が原因と報告されている。

 しかし、インスリン治療開始を支援する効果的な戦略に関する研究は限られており、日本人2型糖尿病患者での心理的インスリン抵抗性を記述した研究も少ない。

 研究では、当初はインスリン注射に躊躇していた患者が心理的抵抗感を克服して治療を開始できるようになった要因として、大別して次の3つのテーマが浮かび上がった。

(1) 医療者からインスリンが適切な治療法であるという助言を受けたこと

 インスリン治療の開始を決心する際には、信頼関係のある医療者からの助言が重要であると考えられ.。患者は、インスリンの利点と潜在的な欠点を比較した医療者による説明が、インスリン治療を開始する決定に効果的であったと述べている。

 また、患者と医療者との信頼関係は、医療者が患者の状況を理解し、インスリン治療が最適であることに合意することと同じく、患者にとって重要であることが分かった。医療者が、患者の性格に合ったアプローチができ、高いコミュニケーション能力を持っていることも重要とされた。

(2) 医療者が患者にインスリンペン・針を見せ、注射のプロセスを実演したこと

 患者は、注射の手順そのもの、インスリン注射にまつわるスティグマ、痛みへの恐怖が、インスリン治療開始を決断する際に障害になったと回答している。

 さらに、治療開始時の医学的知識、病状の認識・受容、医師の理解の間にはギャップがある。これらのギャップが、インスリン治療開始への抵抗感を助長している。

 患者にとって、インスリンペンや針の実物を用いたインスリンの使用方法の教育や実演は重要であり、説明や画像よりも説得力があり、インスリン治療に対する先入観や不安を和らげるのに有効だった。

 また、医療者のサポートを受けながら、自分でインスリン注射をすることが有効であったと報告されている。

(3) インスリンの投与以外に治療の選択肢がないと感じたこと、インスリンに対する諦念・降伏・受容

 「他の治療法がうまくいかず、インスリン治療を開始せざるを得なかった」「インスリン注射療法は、しかたがないと覚悟している」というような回答が4人からあった。とくに血糖値のコントロール状態が良くない、もしくは全身の状態が低下している場合に顕著だった。

 また、他の重篤な疾患の診断などによるライフスタイルの変化が、インスリン治療を開始するきっかけになることもあった。医師のサポートを受けながらインスリン治療を開始すると、予想に反して肯定的な経験をすることもある。

 諦念・降伏・受容は、西洋文化では否定的で弱々しい心の状態を意味するが、東洋文化ではより複雑な意味を持ち、一般に望ましい性質とみなされている。諦念・降伏(日本では「あきらめ」と呼ばれる)は多層的な心理的・文化的意味を持つ特定の防衛形態であり、自我の「文化特異的・適応的防衛操作」であると述べている研究者もいる。

医療者対象のワークショップを計画

 「研究は、インスリン注射の開始に消極的な日本人2型糖尿病患者に対して、医療者が基礎インスリン療法を開始する際に、重要となる情報を提供するものです」と、研究グループでは述べている。

 「今後は、こうした情報にもとづいた医療者対象のワークショップ実施を計画しています。ワークショップでは様々な背景をもち、さまざまな理由でインスリン注射の開始に躊躇している患者のケースを設定し、参加者によるロールプレイを取り入れる予定です」。

 「ワークショップに参加した医療者が、コミュニケーション能力を高め、患者と適切な関係を構築し、最適な関わりができるようになることが期待されます」としている。

名古屋大学大学院医学系研究科地域医療教育学寄附講座
Key factors for overcoming psychological insulin resistance: a qualitative study in Japanese people with type 2 diabetes (Primary Care Diabetes 2022年3月4日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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