軽度の高血圧性網膜症は循環器病発症リスクを高める 眼底検査の必要性を再検討する必要が 国循
都市住民を対象としたコホート研究「吹田研究」の成果
特定健診が開始される前までは、健康診査時に全員の眼底検査が実施されており、中等度または高度の高血圧性網膜症は、その後の循環器病発症の予測因子になっていた。しかし、国内の眼底検査と循環器病との関係ついての研究はあまりなく、軽度の高血圧性網膜症に関するエビデンスはまだ乏しい。
一方、吹田研究は、国立循環器病研究センターが1989年より実施しているコホート研究で、性年代階層別に無作為に抽出した大阪府吹田市民を対象としている。日本では国民の90%は都市部に在住しており、同研究で得られたデータは国民の現状により近い傾向があらわれているとしている。
同センターの研究グループは今回、吹田研究の参加者である30~79歳の都市部一般住民のうち、ベースライン調査時に循環器病の既往がある人を除外した7,027人(男性3,261人、女性3,766人)を対象に、循環器病の新規発症を追跡した。その結果、平均17年の追跡期間中に、598人の循環器病の発症を観察した(脳卒中351人、虚血性心疾患247人)。
高血圧性網膜症はKeith-Wagener-Barker分類にもとづき、正常(網膜症の所見なし)群と比べて、軽度所見(網膜細動脈に軽度の狭窄や硬化を認める、または網膜細動脈に中程度〜著しい狭窄、中程度の硬化を認める)群の循環器病発症の危険度を計算した。
軽度の高血圧性網膜症は循環器病発症リスクを高めるという結果に
その結果、高血圧性網膜症の軽度所見群では循環器病の新規発症が24%、脳卒中の新規発症が28%、それぞれ正常群と比べて増加した(循環器病:調整ハザード比1.24、95%信頼区間1.04~1.49、脳卒中:調整ハザード比1.28、95%信頼区間1.01~1.62)。
また、循環器病の新規発症は、眼底細動脈のびまん性狭細で24%、血柱反射群で33%、それぞれ増加した(びまん性狭細:調整ハザード比1.24、95%信頼区間1.00~1.54、血柱反射:調整ハザード比1.33、95%信頼区間1.02~1.74)。
さらに、正常血圧者(収縮期血圧140mmHg未満かつ拡張期血圧90mmHg未満かつ降圧剤服用履歴なし)でも、軽度の高血圧性網膜症を有する群で、新規脳卒中発症が48%増加した(調整ハザード比1.48、95%信頼区間1.01~2.18)。
眼底検査で循環器病発症を予測できる可能性
今回の研究により、これまでの欧米と日本の研究と一致し、軽度の高血圧性網膜症と循環器病発症リスクとの関連が示された。さらに、その関連が血圧と糖尿病などの危険因子からも独立していることが明らかになった。
これまでの国内の研究でも、軽度高血圧性網膜症と循環器病死亡リスクとの関連が示されていたが、今回の研究では、高血圧の有病率の低い都市住民で、眼底検査により循環器病発症を予測できるというエビデンスがはじめて示された。
現在、日本の特定健診・特定保健指導での眼底検査は、循環器病重症化の進展の評価のため、特定健診の結果にもとづき、血圧・血糖の基準に該当した者に実施されている。
「眼底検査は、中等度または高度の高血圧性網膜症だけではなく、軽度の高血圧性網膜症も循環器病予防に意義がある所見である可能性があります」と、研究グループでは述べている。
「眼底細動脈狭細の進展は、早期高血圧と仮面性高血圧患者でも報告されており、今回のエビデンスをふまえ、特定健診・特定保健指導の眼底検査の必要性を再検討することは今後の課題と考えられます」としている。
研究は、国立循環器病研究センター健診部の小久保喜弘特任部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Atherosclerosis and Thrombosis」に掲載された。
国立循環器病研究センター
Mild hypertensive retinopathy and risk of cardiovascular disease: The Suita Study (Journal of Atherosclerosis and Thrombosis 2022年1月15日)