高齢化と人口減少で日本の医療はこう変わる かかりつけ医機能の充実を提唱 健保連が調査研究

2023.06.12
 健康保険組合連合会(健保連)は、「医療保険制度の将来構想の検討のための調査研究」を実施した。

 少子高齢化や人口減少がもたらす変動による医療ニーズの変化と介護ニーズの増大、さらには医療技術の高度化に応じた医療・介護提供体制の構築が求められるとしている。

 医療ニーズの変化や、医療費の増加にどう対応するかについて、研究グループが提案しているのは、▼高齢化をふまえた、医療・介護提供体制、高齢者医療・介護保険制度の一体的運営、さらには、▼かかりつけ医機能の充実だ。

 必要なときに必要な医療・介護が受けられるよう、医療・介護DXやAIなどの技術を活用した、いっそうの効率化と質の向上をはかりつつ、適切な受診を推進すべく、制度的な見直しをはかる必要があるとしている。

 医療・健康情報の活用と個人を取り巻くデジタル環境にも進展がみられる。オンラインによる遠隔地間での予防・診断・治療など、診療環境も変化すると予測している。

かかりつけ医機能を起点とした医療と介護のシームレスな連携とサービス提供

 健康保険組合連合会(健保連)は、「医療保険制度の将来構想の検討のための調査研究」を実施し、報告書をまとめた。

 健康保険法が制定から100年を迎えたのを契機に、2021~2022年度にかけて検討を行い、将来(2040年を想定)に向けて、医療保険制度や健康保険組合のあり方などを探ったもの。検討委員会の座長は、東京大学の森田朗名誉教授が務めた。

 医療ニーズの変化や、医療費の増加にどう対応するかについて、研究グループが提案しているのは、▼高齢化をふまえた、医療・介護提供体制、高齢者医療・介護保険制度の一体的運営、さらには、▼かかりつけ医機能の充実だ。

 高齢化をふまえた医療・介護提供体制としては、(1) プライマリ・ケア(かかりつけ医)機能を起点とした医療と介護のシームレスな連携とサービス提供(地域包括ケアシステムの充実・発展、質の向上)、(2) 75歳以上の要介護者への給付重点化(第2号被保険者の範囲を段階的に74歳へ引き上げる、各種サービスの地域支援事業への移行など)を挙げている。

 かかりつけ医機能を充実させるためには、(1) かかりつけ医を緩やかなゲートキーパーにした病院、専門医、在宅医療、介護など地域連携グループ(地域医療連携推進法人)の構築、および多職種連携と求められる役割に対応した新たな評価など、(2) かかりつけ医による保険者などへの患者データのフィードバックなど、アウトカムデータの蓄積による医療の質の向上、(3) 高齢者だけでなく現役世代についても予防・健康管理を実施、(4) 病院・専門医、多職種と連携したACP(Advanced Care Planning)の策定、(5) 受診機会の地域差解消を目指したオンライン診療のさらなる活用などを提唱。

 このほか、▼急性期医療の集約化・重点化など、地域の実情に応じた病床機能のさらなる分化・連携(各種データをふまえた地域医療構想など、各種計画のバージョンアップ、都道府県の役割、保険者の役割など、医療提供体制に関する責任体制の見直し・強化などを求めている。

出典:健康保険組合連合会「医療保険制度の将来構想の検討のための調査研究Ⅰ 検討委員会報告書」、2023年

医療の高度化への対応と持続性確保のための方策・提案

 2040年、総人口が減少するなか、団塊ジュニア世代が高齢化し、65歳以上人口はピークに到達すると予測されている。高齢者のみ(単身を含む)世帯が増加することに加えて、死亡数もピークに到来する、いわゆる「多死社会」を迎えることとなる。

 より医療・介護ニーズの高い85歳以上人口の急増(約4割増)が見込まれており、医療ニーズも大きく変化することが予想される。

 研究グループは、増加する医療費への対応として、考えられる方策・提案として、▼医療の高度化への対応と持続性確保のための保険給付の効率化を提唱。

 具体的には、(1) 診療内容や薬剤の種類に応じた給付・負担の調整(医療の質かつ経済効率性を踏まえた医薬品フォーミュラリの制度化、費用対効果を踏まえたバランスのとれた薬価制度への転換など)、(2) 医療・介護データの分析による可視化と質の向上(P4P:Pay for Performance)にもとづく報酬体系による評価)、(3)保険外併用療養費制度の活用(選定療養のあり方など)、(4) 医療費の調整(都道府県別の医療費適正化努力を反映した調整、都道府県の取り組みと連携した国の目標設定など)が必要としている。

 さらに、日本ではこれまで、国民皆保険のもと、「有効性や安全性が確認された医療であって、必要かつ適切なものは保険適用する」ことを基本に対応している。そこで「有効性や安全性が確認された医療であって、必要かつ適切なものは保険適用する」ことを基本にしながら、薬価については以下のように対応するとしている。

 (1) 新規収載する医薬品が既存のものと同等の場合は同等の薬価とする(類似薬効比較方式)、比較する既収載医薬品がない場合は、原価計算方式で薬価を算定、(2) 薬価改定の際、実勢価をふまえて薬価を引き下げ、(3)保険収載後の効能追加などによる市場規模の拡大に応じて市場拡大再算定などを実施して薬価を改定。

国民医療費対GDPの推移の予測

出典:健康保険組合連合会「医療保険制度の将来構想の検討のための調査研究Ⅰ 検討委員会報告書」、2023年

医療・健康情報のデジタル活用にも進展が

 医療・医療保険制度を取り巻く社会情勢は急速に変化し、2040年には、▼総人口減少のなか、団塊ジュニア世代が高齢化し、65歳以上人口がピークに到達する、▼より医療・介護ニーズの高い85歳以上人口が急増(約4割増)、▼高齢者のみ(単身を含む)世帯が増加し、死亡数のピークが到来する(多死社会)、▼医療・介護人材(外国人労働者を含む)の確保の必要性が高まる、といった変化が想定される。

 さらに、働き方が多様化し、就労者像の変化もみられる。▼健康寿命が延伸し、元気な高齢者が増加する、社会参加や就業意欲も向上し、高齢者の就業率が上昇する、▼女性の就業率が上昇し、すでに標準的になっている共働き世帯がさらに増加し、被扶養者は減少する、▼非正規労働者が増加するなど、職場にとらわれない働き方が増加するといった変化が予測されている。

 医療・健康情報の活用と個人を取り巻くデジタル環境にも進展がみられる。オンラインによる遠隔地間での予防・診断・治療など、診療環境も変化する。医療・健康情報の管理・活用(レセプト・健診・カルテ・処方箋・情報プラットフォームなど)が進むと予測されている。DXの普及により、医療・介護の生産性向上と人材不足の改善をはかる狙いもある。

出典:健康保険組合連合会「医療保険制度の将来構想の検討のための調査研究Ⅰ 検討委員会報告書」、2023年

「医療保険制度の将来構想の検討のための調査研究Ⅰ 検討委員会報告書」を発表 (健康保険組合連合会 2023年05月17日)

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