唾液グリコアルブミン(GA)検査法を確立 針刺し不要の信頼性の高い糖尿病管理指標に 東大病院など
直近1~2週間の平均血糖値が反映されるグリコアルブミン(GA)が新たな糖尿病管理指標に
東京大学、熊本大学、Provigateらの研究グループは、新たに開発した唾液グリコアルブミン(GA)検査法により、従来用いられてきた採血GA検査とほぼ同等の結果が得られることを確認したと発表した。
従来の検査は採血が必要で、頻回の検査を行う場合はその負担を考慮する必要があった。また、血糖自己測定(SMBG)や持続血糖モニタリング(CGM)も、穿刺による採血やセンサ留置の侵襲性が患者にとって負担になると課題となっている。
グリコアルブミン(GA)は、糖化アルブミンとも呼ばれる、血液に含まれるアルブミンが血糖(グルコース)により糖化されたもので、直近1~2週間の平均血糖値が反映される。日本では通院での血液検査法として確立しており保険適用されている。
糖尿病の血糖管理には、直近1~2ヵ月の平均血糖を示すHbA1c値が広く使われているが、GA値はより短期の血糖変動を把握できる指標として使用されており、直前の食事には大きく影響されないので、いつ測定しても良いという利点もある。
「今回の成果は、今後のGAの完全非侵襲な唾液郵送検査法の開発につながる可能性がある。検査所から本人に直接結果を返す専用アプリと組み合わせることで、より手軽で頻回の在宅血糖管理法が実現できることも期待される」と、研究者は述べている。
研究は、東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科の相原允一助教、熊本大学病院 糖尿病・代謝・内分泌内科(大学院生命科学研究部)の窪田直人教授、東京大学発の医工連携スタートアップであるProvigateの関水康伸代表取締役CEOらの研究グループによるもの。
GAの唾液検査は従来の血液検査と同等の精度
研究グループは今回、単施設(東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科)での探索的な観察研究を実施。糖尿病の血糖管理のために入院した患者の協力により、入院から3日以内の空腹時、食後の採血・唾液検体と、退院前3日以内の空腹時における採血・唾液検体を使用した。
従来から使われている血液検体を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法の結果と、同時に採取した唾液のHPLC法の結果を比較し、結果に影響しうる交絡因子の解析も行った。
1型糖尿病患者、2型糖尿病患者合わせて56人の各3回の採取検体(計168検体)のうち、血液量不足が2検体、唾液量不足が11検体、分析前処理の不具合4検体、分析後判明した検体濃度不足の7検体を除いた計144検体を解析した。
その結果、入院時における空腹時採取[n=45、R2=0.985]、入院時の食後2時間での採取[n=48、R2=0.973]、退院時における空腹時採取[n=51、R2=0.979]と、いずれも非常に高い決定係数が得られた。また、共変量としてBMIや糖尿病腎症ステージで補正した多変量解析でも、同様に有意な相関がみられた。
「本研究では、唾液検体および採血検体、両方のグリコアルブミン(GA)値を測定しましたが、唾液と血液を用いた測定値は入院直後の空腹時、入院直後の食後、退院直前の空腹時のいずれでも高い相関を示したことから、従来の血糖モニタリングの手法である血液検査とほぼ同等の結果が唾液検査で得られることが示されました」と、研究者は述べている。
唾液および血液から測定したグリコアルブミン値の相関
唾液を用いたGA検査は実用的な臨床検査手法に
現在、実施されている通院時の採血により測定されるHbA1c値や血糖値、グリコアルブミン(GA)値、在宅で検査できる血糖自己測定(SMBG)や、持続血糖モニタリング(CGM)といった血糖関連バイオマーカーおよび測定法は、糖尿病のスクリーニングやモニタリングに不可欠だが、患者の日常的なモニタリング手法として、食事・運動療法などの効果を把握するためには、いずれの手法にも課題がある。
HbA1c値は診断や長期的な血糖管理のための指標として有用であるものの、変化が遅く、生活行動の変化を迅速に捉える場合には適していない。また静脈採血による血糖値測定、および指先穿刺を必要とするSMBGによる血糖測定は、その瞬間の血糖値しか得られないため、睡眠時や食事・運動により変化する血糖変動の全貌を捉えるためには、専門的な知識と頻回の採血が必要になる。
さらに、CGMを用いると血糖変動を連続的に捉えることができるが、アプリケーターによる穿刺と皮下へのフィラメント留置が必要で、10~14日に1度、センサを新しいものに付け替える必要があり、侵襲性の面から改善の余地がある。皮膚に機器を貼り付けた状態で生活するという患者の負担もあり、またもっとも安価なもので月額1万4,000円程度とコストもかかる。
そのため実際には、糖尿病患者の多くは1ヵ月から数ヵ月に1度の通院時のHbA1c値を頼りに、手探りで食事・運動療法を行わざるをえない現状がある。
スマートウォッチ型の非侵襲の血糖測定デバイスも、マスコミなどで話題になることもあるが、実用的な精度を達成した機器は登場しておらず、米国食品医薬品局(FDA)や日本糖尿病学会は、そうした機能を謳う未承認の機器の使用による健康リスクについて警告を発している。
研究グループは、このような現状を打開するため、まったく異なる手法による実用的かつ非侵襲的な糖尿病管理手法を模索してきた。
研究グループはこれまで、非侵襲的に採取できる唾液・涙液からアルブミンが採取でき、それらを用いてGA値が分析可能なこと、指先から自己採血され郵送された微量の血液からGA値を分析する手法、さらに2型糖尿病患者が通常診療に上乗せして在宅でGA値を週1回測定することで、血糖値が改善しうることなどを報告してきた。
今回の研究で、これらの成果をさらに発展させ、唾液を用いたグリコアルブミン(GA)検査が実用的な臨床検査手法となりえることを明らかにした。
「本研究から、非侵襲的に採取できる唾液検体を用いて、従来の臨床検査とほぼ同等の精度でGA検査が可能なことが明らかとなりました。この検査法を、本研究グループがこれまでに開発してきた指頭血の郵送検査の手法と組み合わせることで、将来、週1回の在宅唾液GAモニタリングに発展させられる可能性もあります。これらにより、従来の検査法を補完できる完全非侵襲な糖尿病血糖管理法の実現が期待されます」と、研究者は述べている。
グリコアルブミン(GA)を活用した血糖モニタリングサービス glucoreview グルコレビュー (Provigate)
東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科
熊本大学病院 糖尿病・代謝・内分泌内科