グリコアルブミン(GA)に週次平均血糖指標としての可能性 糖尿病の重症化予防のために週次GA測定による血糖管理の実現を目指す Provigate

2021.09.30
 糖尿病の発症・重症化予防のためのバイオセンサとアプリの開発を進めるスタートアップであるProvigateは、Sparx Group、ANRI、Coral Capitalより総額9.1億円の資金調達を実施したと発表した。
 同社は、東京大学病院との連携のもと、週次GA測定×アプリによる血糖モニタリングの社会実装・世界標準化の実現を目指している。

糖尿病の重症化予防のために低侵襲・低コスト・簡便な在宅血糖測定が必要

 糖尿病の発症・重症化予防の重要な要素のひとつは、日常的な血糖モニタリングだが、その世界市場規模は約1.7兆円にとどまり、ほとんど重症患者にしか使われていないのが現状だ。これは今日の自己血糖モニタリングデバイスが穿刺による痛みなどの課題を抱えていることに加え、大半の糖尿病患者に対して保険適用外であることも要因のひとつとなっている。

 日本では1千万人の糖尿病患者の9割程度は自己血糖測定が保険適用ではないと推察される。つまり糖尿病患者の大半は、1~3ヵ月に1度の通院時にしか血糖を測定していない。日々変動する血糖を測定することなく、血糖管理をするのは困難だ。

 そこでProvigateは、こうした「血糖測定難民」ともいえる糖尿病患者や予備群に、低侵襲・低コスト・簡便に使ってもらえる在宅血糖測定の手段を提供することを目指している。

グリコアルブミン(GA)は1~2週間の平均血糖や食後高血糖の変化を反映

 Provigateが注目するのは、血糖の管理指標のひとつであるグリコアルブミン(糖化アルブミン、GA)だ。GAは日本で開発され普及したバイオマーカーであり、直近1~2週間の平均血糖や食後高血糖の変化をよく反映することが知られている。

 GAは、平均血糖指標のゴールドスタンダードであるHbA1c(糖化ヘモグロビン)と同様に、血中に存在する糖化タンパク質の一種。アルブミンやヘモグロビンは、血中でグルコースと出会うと糖化反応を起こしその表面にこれを保持するようになる。これらタンパク質の表面にどのくらいのグルコースが結合しているかを調べると、その半減期に応じた平均血糖の指標とすることができる。

 赤血球に含まれるヘモグロビンの半減期は120日間程度と長いことから、HbA1cはとくに直近1~2ヵ月程度の平均血糖をよく示し、緩やかに変動する。一方、血中にむき出しで存在するアルブミンの半減期は14日間程度と短いうえ、グルコースとの反応性も高いことから、GAは直近1~2週間程度の平均血糖、および食後高血糖の頻度も良く反映し、HbA1cに比し速やかに変動することが分かっている。

 GAは現在のところはマイナーなバイオマーカーであり、HbA1cの補助的な診断指標として医療現場で使われているにすぎない。GAは主に病院や献血時検査で使われ、年間に約1,200万回(うち約300万回は献血時GA検査)ほど測定されていると推定される。

 今日の糖尿病診療では通院間隔が1~3ヵ月であることもあり、糖尿病の長期的な状況を診断するにはHbA1cは優れている。HbA1cよりはるかにレスポンスが早いGAが用いられるのは、たとえば治療の開始時や治療薬を変えたときなど、短期的な血糖の改善をみたい場合や、透析患者等HbA1cが安定しない症例に限られていた。

GAはHbA1cよりレスポンスが良い
提供:Provigate、2021年

GAはHbA1cよりはるかにレスポンスが良い
GAの週次平均血糖指標としての可能性を追求

 「しかし、あらためてその原理を考えたとき、GAは数日~1週間程度の血糖改善にレスポンス良く応答するため、週次で測定したときにはじめてその真価を発揮するはずです」と、同社では強調する。

 Provigate・東京大学医学部附属病院・陣内会陣内病院の研究チームは、このGAの本質的な特長=週次平均血糖指標としての可能性にあらためて着目し、GAをHbA1cの代替診断指標ではなく、家庭での「行動変容指標」として再定義した。

 GAを用いれば、一般的な血糖自己測定(SMBG)のように数時間おきに指先から採血をする必要はない。近年急速に普及してきた持続血糖モニター(CGM)のようにセンサ針を皮下に留置する必要もない。

 また、数ヵ月に1度通院してHbA1c等の血液検査を受けるのを待つ必要もない。たった週に1度の在宅測定で週次血糖変動をモニタリングし、過去1週間の生活習慣を振り返ることができる。

 測定頻度が週1で良く、直近数時間の血糖値で大きく上下することなく、直近1週間の行動変容を反映して数値が滑らかかつ鋭敏に変化するので、低侵襲・低コスト・簡便な血糖測定の手段となることが期待される。

 「HbA1cが病院で測定する"期末テスト"であれば、GAは家庭で週次の生活習慣の努力成果を計測する"小テスト"のような役割をもつことになります」と、同社では説明している。

週に1度の在宅測定で週次血糖変動をモニタリングし、過去1週間の生活習慣を振り返ることができる

GA(グリコアルブミン)には血糖自己測定(SMBG)や持続血糖モニター(CGM)にないメリットがある

提供:Provigate、2021年

週次GA測定が糖尿病患者の行動変容を導き、GA値・体重・肝機能が改善

 ProvigateではこのGAの特徴を活かし、糖尿病患者や予備群に対し、IoT血糖モニタリングサービス「GlucoReview®」の開発を進めている。

 低侵襲・低コスト・簡便にGA(週次平均血糖)を在宅測定できる本体・使い捨てカートリッジ・アプリを提供することで、1~3ヵ月の通院間隔中の在宅自己血糖管理を力強くサポートするサービスの提供を目指している。

 Provigate・東大病院・陣内病院の共同研究開発チームでは、これまでにGAが血液のみならず涙液や唾液に含まれており相互に強い相関をもっていること、また、週次GA測定が糖尿病患者の行動変容を導き、GA値・体重・肝機能を改善する可能性を臨床研究にて検証し、有望なデータを得ている。*

 また、GAは従来、病院などにおかれる大型の臨床検査装置などでしか測定ができなかったが、技術革新によって小型化・低コスト化し、クリニックや薬局の検体測定室、さらには在宅で測定することを目指し、コンセプト実証およびプロトタイプ検証を完了している。

* 第64回日本糖尿病学会年次学術集会(2021)、相原允一ら、「グリコアルブミン測定による糖尿病管理法の開発」
* European Association for the Study of Diabetes、56th Annual Meeting (2020)、Masakazu Aihara et al、"Development of the Noninvasive Diabetes Monitoring Method"

クリニックや薬局向けのGA測定システムを目指す 家庭向けの開発も加速

 同社は、今回の調達資金によって、GAセンサの量産化開発、臨床研究、製造販売承認の準備を進めていく。まずはクリニックや薬局向けの血液GA測定システムの製造販売承認を目指し、並行して家庭向けの開発も加速していくとしている。

 人材採用や、生産パートナー・販売パートナーなど業務提携・資本提携先の探索も進めている。同社は「週次GA測定×アプリ」を1日も早く糖尿病療養の世界標準とし、糖尿病の発症・重症化予防に寄与したいとしている。

株式会社Provigate
 糖尿病の発症・重症化予防のためのバイオセンサとアプリの開発を進めるスタートアップであるProvigateは、東京大学病院との連携のもと、週次GA測定×アプリによる血糖モニタリングの社会実装・世界標準化の実現を目指している。

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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